百合ゲーム・漫画・アニメのレビュー・感想。『咲-Saki-』『アカイイト』考察。

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2017/08/19
咲-Saki-考察 2
 「咲-Saki-クラスタにはアカイイトを薦める」……「アカイイトクラスタには咲-Saki-を薦める」つまりハサミ討ちの形になるな……。
 記事タイトルは『宮守女子から始める伝奇ゲー』でもよかった。
 エロゲー(アドベンチャーゲーム)はでら面白いので(そうでなければ基本的に百合作品しか観賞しない私がやったりしないぞ)、もっと競技人口が増えたらいいなと常々思っている。

『ロケットの夏』
 我らが御大、小林立が「りつべ」名義でキャラクター原案として参加しているので、純粋な『咲-Saki-』関連作品と言える。他に『咲-Saki-』スタッフでこの業界に関わっていた人はいたかな。
 宇宙との国交が断絶され、一般の宇宙港が閉鎖された時代に、ジャンク品からパーツを掻き集めた自作のロケットで50マイルズオーヴァー(空と宇宙との境界)を目指す少年少女たちの一夏の物語。タイトルから作り込まれたSFや汗と油の臭いがする熱血文化系部活動ものを期待すると少し肩すかしを食うが、ジュブナイルとして小さくまとまった佳作である。タイトルの意味がわかった時は泣いたぜ。
 残念なのはりつべの原案を落とし込んだ立ち絵や一枚絵がかなりへたれていること。あの繊細な線が潰れてしまっている。それに塗りがべっちょりしていて見場が悪い。セレンのワンピースやベルチアの似非ファンタジーな服装にりつべのセンスがかろうじて見えるくらいだ。『咲-Saki-』『阿知賀編』レベルのグラフィックを求めると少々がっかりすると思う。
月面基地前プレミアムBOX ロケットの夏編
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『アカイイト』
 関連は百合作品であることと伝奇要素が色濃いこと。あとは素敵な変態っぷり。
 みんな考えることは一緒なようで、既に同様の記事があった(麻雀漫画まとめ 血と記憶と少女の話なら)。百合、伝奇と来たらこの作品を薦めずして何を薦めろというのか。正当派和風伝奇ゲーにして、史上最強の百合ゲーにして、アドベンチャーゲームという媒体における最高到達点の一つである。これほどヒロインを一人一人攻略していくのが楽しいゲームを他に知らない。その人の人間に初めて触れる瞬間の感慨、絡まり合った謎が一つ一つ解き明かされていく構成、鮮やかに色づいていく世界。マルチシナリオ・マルチエンディングという特性をここまで昇華している作品は希である。
 『咲-Saki-』の面白さの一つは、青春の甘酸っぱさとフェティッシュな変態っぷりの織りなすコントラストだと思うが、『アカイイト』の変態ぶりも負けず劣らず素晴らしいぞ。この作品の主人公である羽藤桂ちゃんは平々凡々とした女子高生で、戦闘能力そのものは皆無なのだが、実は神代の時代から流れる、鬼や神(平たく言えば人外の者)に八百の力を与える「贄の血」の持ち主で、この血を人外のヒロイン勢に吸わせることで戦いを支援していく。その血の飲ませ方が実にバリエーション豊かでね……。「いや、感動的で色っぽいシーンで本人たちはいたって真面目なんだろうけど、それって冷静に考えるとおかしくないか?」というシリアスな笑いを誘ってやまないのだ。「いや、素晴らしいネーム力で心を動かされたけど、冷静に考えるとこのシーンってちょっと危なくないか?」という笑いは『咲-Saki-』にも共通するものだと思う。また、血を与えるという行為で変化するヒロインとの関係の構図も絶妙でね。あたし力を与えて護ってもらう人、あなたあたしを護る人という単純な構図に落とし込めない、SM(スレイブとマスター)チックな人間関係の妙がそこにはある。なんのこっちゃと思う人は本編をプレイして、桂ちゃんの誘い受けからの流れるような口説きを見て納得してほしい。
 惜しむらくは『咲-Saki-』と伝奇要素で共通しているところがあまりないことかな。最近出て来た淡=金星説を採用するなら、ルシファーと同一視されることもあるあの御方と被るのだが。何か見落としていたら指摘をお頼み申す。
 注意点としては、ADVで出来ることはやり尽くしていると言っても過言ではない作品なので、これを真っ先にやってしまうとその他の作品が物足りなくなってしまうことだ。体験者が語っているのだから間違いない。
アカイイト
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『水月』
 この記事を書いている途中でタイトルがまさに「海底撈月」であることに気付いたぞ……。
 宮守女子の小瀬川白望ことシロの能力である「マヨイガ」がシナリオの根幹に係わっている。シロと雪さんは性格こそ180度違うが、色素薄めの造形が共通しているのが面白い。Pixivでコラボ絵を見つけて嬉しくなった。
「〔ついったらくがきまとめ〕さきろぐ」/「オダワラハコネ」の漫画 [pixiv]
 タイトルの通りに幻想的・幽玄的でつかみ所のない伝奇作品だが、謎のまま煙に巻いている割合と劇中で提示される情報の割合が絶妙で、しっかりと情報を整理して読み解けば世界の成り立ち、一つの道理が見えてくるようになっている。まさにプレイヤーがフィールドワークを実戦するわけだ。そのゲームデザインが中々面白い。 
水月 ~すいげつ~
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『二重影』
 この記事を書こうと思ったそもそもの動機が、私的素敵ジャンクさんのこの記事を読んで「なんだか『二重影』がやりたくなってきたぞ」と思ったからだった。
臼沢塞と塞の神、そして咲−Saki−の中に隠された柳田国男の初期の著作へのリスペクトについて - 私的素敵ジャンク
 というのも、臼沢塞の元ネタである道祖神についての解説がこの作品の劇中にあるからだ(どんなシチュエーションだったかは思い出せない)。この作品で、道祖神が村と外の世界との境界に置かれて、疫病や災厄が入ってくるのを防ぐものだということを知った輩は少なくないだろう。他にもヒルコの語源とか、呪的逃走についてとか。
 往年の名作和風伝奇ゲーで、用語辞典まで用意されている蘊蓄(道祖神の他にも「道」の字の成り立ちなど、境界に関わるものが多い)だけでも楽しいが、戦闘パートや『リング』をほうふつとさせるな時間制限付きの謎解きパートも中々に読ませてくれる。ただし、基本的に選択肢総当たりのADVであること、この記事で列挙した他の作品に比べるとシステムが恐ろしく使いづらいこと(これでも前作『終ノ空』より改善されているのだが……)には注意されたし。そもそもWindows7や8で動くのかしらん?
 伝奇ゲーをプレイする上での楽しみの一つに「ネタ被り」がある。同じモチーフでも作品ごとに取り込み方、解釈の仕方がまるで違っていて、それが面白くてならないんだよね。『二重影』も日本神話の有名なエピソードを取り上げているのだが、ちょうど『○○』を読破したばかりだったのでプレイ中にニヤニヤし通しだった。その後に『○○の○』をプレイしたときも口角が持ち上がりっぱなしだった。あの共謀めいたワクワク感は同好の士にならわかってもらえると思う。
 そういえば、新道寺女子の制服が『素晴らしき日々』の北高のそれと似ているなと思っていたが、ネクタイしか似ていなかった。
二重影
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『黄昏のシンセミア』
 「ジャコスいくの!?」で知っている人もいるかもしれない。王道の伝奇ゲーで、主人公が生まれ故郷である村に帰省したところから物語が始まる。といっても、過去の忌まわしき因習や儀式が残る集落での陰鬱な話ではなく、わりと近代化された、そう、ちょうどジャスコがまだイオンになる前ぐらいの古きよきイメージの田舎である。エロゲーにしては登場人物にクセがなく、主人公の孝介くんは好漢で行動力があり、おばさんや従姉妹の子、昔遊んだ友だちや近所のお姉さんはみなよい人で、彼女らとの交流は心温まること請け合い。しかし過去編の描写は打って変わって凄惨極まりなく、であればこそ現代編で絡みもつれ合った禍根が解かれるさまは美しい。
 伝奇ゲーとして一番近いのは『○』だろうか。化外の民のルーツが○○○であるところも共通している。メインヒロインの一人である銀子さんは、古より人里離れて山に住みつつ村人たちの手に負えない有事の際に力を貸しており、彼らからは「山の民」と捉えられている。シロ、雪さん、銀子さんと、この記事で紹介した作品の山より来たる人の造型が、銀髪の麗人という点で共通しているのはなかなか面白い。あと、劇中で「迷い家」についての言及がある。
 また、キャラクターデザイン・原画のオダワラハコネさんは『咲-Saki-』(特にシロとセーラ)のファンで、素晴らしいイラストや同人誌をものされているぞ。
黄昏のシンセミア 通常版
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『パルフェ~chocolat second brew~』『この青空に約束を―』
 思えばエロゲーの主人公は無趣味、無所属がデフォルトで、学生の青春部活動もの(それも文化系)というとぱっと思いつく作品がなかった。青春を謳歌していてかつ全体の水準が高い作品というとまるねこ作品が頭に浮かんだが、『パルフェ』はメンバーが一丸となって一つのアクティビティ(メイド喫茶の経営)に取り組みはするが社会人の話だし、『こんにゃく』はこれ以上ないくらいの学園青春もので、過疎化が進む地域の物語という点では『阿知賀編』をほうふつとさせるが、部活動は本筋に絡んでこない。なので両作品を紹介してお茶を濁すことにした。この括りでよりしっくりくる作品をご存じだったら教えてほしい。他に何かあったかな……。将棋……囲碁……かるた……歴史研究会……全然思いつかない。
 丸戸作品がまず評価されるべきなのは、共通パートの圧倒的な牽引力だと思う。あれは信者ではない私でも舌を巻く。
パルフェ~ショコラ second brew~ Re-order
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この青空に約束を- 通常版
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 というわけで、『咲-Saki-』の主要構成要素のうち「百合」「伝奇」「変態」「青春」については網羅できたが、肝心かなめの「能力バトル」「麻雀」が補足できなかった。麻雀要素については仕方ないとしても、エロゲーで能力バトルものの名作がすぐに思いつかないのが意外だったなぁ。いや『鬼哭街』も『Fate/stay night』も『あやかしびと』も『Paradise Lost』も面白かったけけれど、能力バトルかと言われるとちょっと違うよね。私は『咲-Saki-』を能力バトル漫画として批評する際に、最も参考になる作品が『ジョジョの奇妙な冒険』だと思っているのだけれど、それについてはまた別の記事で語ろう。
 『アカイイト』関連でうちのサイトを見ていてまだ『咲-Saki-』を読み込んでいない輩は……何やってるの(怒)!? 許さないよ。さくっと麻雀のルールだけでも覚えて本屋に走らなあかんよ。長々とした説明はあえて描かない麻雀漫画だが、その分解説・考察コンテンツが驚くほど充実しているので初心者でも大丈夫だ。

2013/03/16
 作成。
2017/08/19
 黄昏のシンセミアを追加。
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toppoi
Author: toppoi.
百合ゲームレビュー他。アカイイト、咲-Saki-、Key・麻枝准、スティーヴン・キングの考察が完成しています。
Since 2005/12/10

コメント(2)

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toppoi

Re:

あー、りつべ絵のゲームを全て網羅しているわけではないです。
でも余裕があったらやってみます。

2017/08/22 (Tue) 20:24

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2017/08/22 (Tue) 13:30