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アオイシロ 感想 一から作り直せ、話はそれからだ はてなブックマーク - アオイシロ 感想 一から作り直せ、話はそれからだ

2021/11/27
百合ゲームレビュー 2
 初報を聞いて狂喜して発売を待ち侘び、いざ読んで死ぬほど落胆させられた。伝奇・民俗学の知識に裏打ちされた設定は非常に練られており、ビジュアルとサウンドも当時の最高峰の出来だが、肝心かなめのテキスト・脚本・キャラクターが酷くて何もかもぶち壊しにしている。あえて地雷と呼ばせてもらう。

『アオイシロ』については、読了直後に怒りに任せて書いたレビューが既に存在するが、10余年経った今読み返すとあまりにも乱雑で精読に堪えなかった。なので百合ゲーレビューの総まとめをしているこのタイミングで全面的に再構成してリライトすることにした。なお、失望する出来だという評価はまったく変わっていないのであしからず。過去のレビューは、当時の空気感を伝える史料としていちおう残しておく。



作品概要 

洗練された“シナリオ&ビジュアル”と追及された“システム”

『アカイイト』の姉妹作として位置づけられた本作は、世界観や設定の一部を引き継ぎ、新たな舞台と人物設定で物語が展開。

また、アドベンチャーゲームの根幹となるシナリオとビジュアル部分を徹底的に強化!

物語に没頭する為に、システム面での余計な要素や煩わしい操作を排除した快適なインターフェイスで、50種類を超えるエンディングを体験してください。

アオイシロ|ゲーム紹介


『アオイシロ』はあの名作和風伝奇百合ゲー『アカイイト』のスタッフが手掛ける、伝奇世界観やコンセプトを継承した作品ということで多大な期待を寄せられていた。前作からシナリオの強化が謳われ、じっさい読了までの時間は延びて登場人物やエンディングの数も増えていたが、ただ分量や頭数が増えただけで実態が伴っておらず、前作への要望に応えたとおぼしき施策は空回りして空気を壊しており、逆に散漫で空虚な印象を与える作品に仕上がってしまった。
 最初に言っておくと、この作品は2回に及ぶ延期の末に発売されている。

発売日変更のお知らせ

公開日:2007/12/11 20:44
最終更新日:2007/12/13 11:03

2008年3月19日に発売を予定しておりました
PlayStation2用ソフト『アオイシロ』ですが
話し合いを行った結果…
2008年4月24日(木)に
発売日を延期することになりました。
アオイシロの発売を心待ちにしてくれている
皆さまには大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。

また、アオイシロを影ながら支えてくださる
関係者の皆様にも多大なるご迷惑をお掛けし、
大変申し訳ございませんでした。

発売延期に至った一番の理由と致しましては
シナリオと演出の強化を目的としています。

一日でも早く皆さんに開発終了のお知らせができるように
また、満足していただける作品になるように
スタッフ一同努力致しますので応援宜しくお願い致します。


アオイシロ 開発スタッフ一同

http://maglog.jp/aoishiro/Article228103.html


発売日が変更になりました。度重なる延期、誠に申し訳ありません。(080321)

http://www.success-corp.co.jp/software/ps2/aoishiro/history.html


 延期した発売予定日のひと月前に再延期を発表するというのは、突貫工事のきな臭さがぷんぷんするが……。それでも時間が足りなかったのか、ライターである麓川智之御大の体力が尽きたのか、物語が佳境を迎えるに連れてクオリティが坂道を転げ落ちるように下がっていく。



『アオイシロ』のここが駄目 
 本作の駄目な点についてつらつらと書く。

テキストが酷い
 まず、ノベルゲームとして致命的なことにテキストが酷い。特に納期に迫られて間に合わせで書いたとおぼしき後半部があまりにも酷すぎる。ボリュームだけは増えたものの、心理描写は吹けば飛ぶような薄っぺらさで、状況描写は「そして――」でキング・クリムゾン、戦闘描写は臨場感のかけらもなく、キャラに奇声を上げさせてやっつけ気味に「誰々は倒れた。」ではいおしまい。食事と蘊蓄と設定に関してはうだうだ長ったらしく記述されていて、用語辞典はたっぷり丁寧に書かれているが、それ以外の必要箇所に書き込みがまったく足りていない。どこもかしこも唐突すぎて、感情移入や物語への没入を拒否している。
 へっぽこテキストのいくつかを引用する。

 夏姉さんは白衣の男性と戦っており、夏姉さんの直線的な動きを、白衣の男性が巧みにいなしている様子が、遠目だからこそ見て取れる。
 そして――
 夏姉さんが白衣の男に切られた。
 手にしていた黒い《剣》を取り落とし、よろめいた夏姉さんは海へと倒れ込んだ。
 夏姉さんはそのまま沈んでいき、即座に浮かぶ様子はない。

梢子
「夏姉さん――っ!?」


 夏姉さんが切られた。スイーツ(笑)。ふつう大切な家族が誰かの手に掛かったら、その瞬間に取り乱して平静を失わないだろうか……。一人称なのに他人事めいている。

夏夜
「梢ちゃん!」

 そしてこちらの戦列に、根方さんを倒した夏姉さんまでもが加わる。
 摩多牟を封じられた瓏琉はただひとり。


 ちなみに、一つ上のシーンで夏姉さんを一刀の下に切り捨てた男性と、ここで描写すら省略されて彼女にのされている人は同一人物だ。どういうこっちゃねん。

コハク
「違う! こっちだ!」

 迷ったり、魍魎を倒しながら祭殿に向かって進む。

コハク
「――梢子、そろそろ祭殿に出るぞ!」

 目的地は近い――


 終盤のテキストはだいたいこんなあんばいだ。迷ったり、ってあんた……。

ナミ
「椿の祠の前まで、直接乗り付けます」
梢子
「もう封印は解けてるから、関係ないのか」

ナミ
「摩多牟。あなたのあるべき、何物でもない形に」

 祠の中に入ると、耳元で鳴っていた雨と風の音が急に遠くなる。

ナミ
「疲れました……」
梢子
「お疲れ様。保美の方は大丈夫?」


 これは ひどい。一読で理解しづらいが、今しがた摩多牟にしがみついて荒れ狂う海を渡っていたかと思えば、その2クリック後にはいつの間にか祠の前に上陸していて、次の1クリックで摩多牟を無に還し、もう1クリックでさっさと祠の中へ入って休憩を始めている! 急展開ってレベルじゃねーぞ! おっそろしい巻きのテンポに唖然とした。

コハク
「この有様では、少し休まねば身動きがとれん」

「じゃあ……」

「剣鬼に先行されたことだし、あたしは一足先に卯良島に行くわ」

 そして汀は卯良島へ――


 数匹の魍魎が、ナミを掴んで担ぎ上げた。

ナミ
「梢子ちゃん、≪剣≫を持って島から離れて――」
ナミ
「もう汀さんのところは安全じゃないかもしれないけれど、とりあえずの封印なら――」
夏夜
「梢ちゃん、行って」

「オサ!」

 そして私は一人走った。


 剣の間合いに入るその前から、汀はその何かに当てられて、倒れそうになっている。


「駄目だ――身体が――バランス――」

 そして汀は海の中へ――


 そしてしばらく休んだコハクさんは、《剣》を手にした夏姉さんを追って卯良島へ――


 コハクさんは――

コハク
「わしのことなら気にするな」
コハク
「理由を言えばわしの血が特別だからだよ。薄いとはいえ、あれを使う資格を持つ血が流れておる」

 そして私たちは下っていく――


 突然森が開けて、視界が広くなった。
 その先はなく、ただ夜の空だけが広がっていた。

梢子
「この……こんな所で……」

 いっそ捕まってやれば、ナミと同じ所まで連れて行ってもらえるだろうか。
 ≪剣≫を構えて睨み据える。
 ――――っ!?
 そして私は、崖から落ちた。


梢子
「潮が――」

 満ち始めていた。
 潮が満ちていくことで、波の上にある陸の領土は減じていき、応じて踏み石間の距離も徐々に広がっていく。
 夏姉さんの元へと続いていると思った路は、途中で途切れようとしていた。
 振り返れば空は白み始めており、黒い岩々の八割方を呑み込んだ波を白く輝かせる。
 もう、私には路がない。
 そして私は満ちゆく潮に吞み込まれた。

(満ちゆく潮)



「ちくしょう! まんまと逃げられた!」
梢子
「夏姉さんの身体は――」

 海に流れて消えてしまった。

梢子
「遺髪くらいは――持って帰ってあげたかったな」


「朝……か」

 遠くの空が白み始めている。


「じゃあねオサ。あたしもそろそろ行かなくちゃ」
梢子
「えっ!?」

「あたしの使命は≪剣≫を取り戻すことだから」

 そして再び――私たちの路は別れた。

(隻眼白髪の鬼使い)


 ライターの手抜き癖に気づいてしまったが、描写をことごとく「そして――」で強引に端折っている……。この荒業があまりにも多用されていて思わずメモってしまった。汀が去っていくシーンは、心が通じ合っていたはずの相棒からいきなり置き去りにされたら、ふつう動揺するなり恨み節を吐くなりすると思うのだが、「えっ!?」のあとはそして……の一文でまとめられて打ち切りエンドになってしまう。魍魎に追われて崖から落ちるシーンは、普通ならば落ちる前に必死でバランスを取ったり何かを掴もうとしたりすると思うが、「――――っ!?」のあとは崖から落ちたという他人事みたいな報告だけあって次のシーンに移行してしまう。『アオイシロ』のテキストは、血の通った人間なら取るだろう行動や湧いてくるだろう感情がすっ飛ばされていて、まったく浸れなかった。
 文章の使い回しも目に余るレベルだ。新しいルートに入っても使いまわしが目についてとにかく萎える。お前ら台本でも読んでいるのかというレベルで同じモノローグやセリフが繰り返される。しかも、PS2版では使い回しのテキストが別のルートだと既読と判定されない恐ろしい仕様になっている。何度となく同じ蘊蓄を聞かされたり、たらたらした食事シーンを見せられたり、一言一句変わらない長尺の口上を聞かされたりするのが嫌なら、初見部分をすっ飛ばすのに怯えながらちびちび既読スキップを使う羽目になる。……こんなザマで物語に没頭できるわけがないだろう。
 更に付け加えると、各シーンの繋ぎが不自然で、初日から最終日まで違和感が全くない箇所のほうが少なかった。「え? 何でこのシーンはこんなセリフで唐突に終わっちゃうの?」「なんでこんなところでさっさとまとめに入っちゃうの?」「……あと4、5クリック分描写するべきことがあるんじゃないの?」というあんばいだ。いろいろと端折りすぎていて、とにかく痒いところに手が届かない印象だった。余分にボタンを押したらいつの間にか章が終わっていてポカーンとすることもしばしば。スクリプトの打ち込みも甘く、ウェイトもちゃんと取っていない。

キャラクターの魅力と存在感が薄い
 テキストの薄っぺらさと密接に関わっているが、『アオイシロ』は前作に比べて主人公の魅力に欠け、ヒロインの個性や存在感が薄いと感じた。信頼筋のレビューを読む限りでは私だけの所感ではないようだ。私は主人公の小山内梢子が嫌いで、喜屋武汀と相沢保美もどうにも好きになれない。ナミはよくわからない。
 梢子は魂が入っていない、何を考えているのかわからない宇宙人だ。テキストがずさんなのも影響して生きた感情が伝わってこず、とにかく感情移入を拒絶している。ヒロインに対する「一緒にいたい」「守ってあげたい」という想いも薄っぺらいし、剣道についてもその道に生きるような覇気や意気込みは感じられず、何を第一義にしているかさっぱりわからなくて応援のしようもない。お色気イベントをこなすために狂った思考から意味不明な行動を立て続けに取るのはご愛敬か。岡崎朋也や高屋敷司のような、臑に傷を持っていて厭世観からぶっきらぼうを演じている連中とはまた違う、嫌ないいかげんさなんだよ。シンプルにライターの不精やシナリオの矛盾で生まれたテキトー人間だ。
 保美はことあるごとに梢子先輩すきすきオーラを出して嫉妬を燃やしてくるイメージが強すぎる。他に人間的魅力があって活躍の場も多ければ、恋愛脳も愛嬌になるんだろうけど、残念ながらそうはならなかった。梢子が好きなこと以外のパーソナルな部分がほとんど見えないし、本編でも過去編でも、戦闘に限らずドラマの面でも、果たす役割がほとんどない。酷い言葉だが「梢子に惚れている」というラベルが貼られたハーレム要員・水着要員のように感じてしまった。せっかく百子という相棒がいるのだから、彼女とのやり取りの中でキャラクターを立てたり、マネージャーとして他の部員に関わっていく中で存在感を発揮したりと他にやりようはいくらでもあったのではないだろうか。百子らが作劇の役に立っていないことについては後で詳しく書く。
 汀はちゃらんぽらんで梢子に次いで不可解だった。情緒がよくわからなくて、やにわに距離を詰めてきてキスしてきたかと思えば、ノーマルエンドでもトゥルーエンドでも梢子の前からさっさと姿を消してしまう(トゥルーだと再会するが)。かといって鬼切りの任務に身を奉じて、武芸者として技を磨くことに血道を上げているのかというと別にそんなでもなさそうで。背景についても、根方の裏の儀式や≪剣≫の由来にも関わっていない上、戦力としても中途半端で、作劇に占める存在感はお世辞にも強いとは言えない。前作『アカイイト』が重すぎる過去を持つ女たち(と白花ちゃん)が鎬を削る話だったので落差もあるだろうが、こんなに過去が何もない奴がヒロインで一ルートを与えられていることにびっくりしてしまった。そしてなぜ、役目を貰えていない鬼切りという中途半端な設定にしたんだろうか。守天党もあんな特級呪術兵器が世に出たとあっちゃあ琉球どころか国家の一大事なんだから、鬼切りも主戦力を投入しろよ。
 カヤについては、クロウクルウに囚われたままだという梢子の魂を救うという揺るぎない動機があり、鬼と化して人の道を外れても彼女の冥福のために戦う覚悟はおおいに共感できる(実際はバーローに騙されていたわけだが)。柚明さんとはまた違う信念で鬼に成った人で、シナリオも必然的に熱くなりそうで期待値を上げていたのが、前述の通りテキストと演出があまりにも酷いのと、バットエンドの嵐でブザマを晒しまくったせいで印象があんまりよくない。トゥルーエンドでも柚明さんが「人間に戻った」「帰ってきた」ときのような感慨がなかった。ただ、エンディングの描写がなおざりな奴がほとんどな中で、ちゃんと手に職を付けて梢子を食わせるという甲斐性がある点は買う。
 コハクさんはけっこう好きだ。コハクルートはかなり面白かった。あえてケチを付けるなら、『京洛降魔』の鈴鹿さんと同様に歴史上の人物でバリバリの人外キャラの扱いはなかなか難しく、ヒロイン勢の中でかなり浮いている。いっそのこと800年起きっぱなしで、歴代の守天党の鬼切りに付いている鬼という設定でもよかったんじゃないか。汀もコハクさんとペアを組ませていれば、もうちょっと存在感を出せていたかもしれない。
 ナミは……見た目も声もかわいいね。メインヒロインのはずなのに覚えていることがあんまりない。
 さらに、ヒロインたちの横の繋がりがあまりにも薄くてびっくりする。グランドルートでヒロイン5人がワラワラ付いてきたとき、連係も信頼もない寄せ集め連中に背中を任せて大丈夫なのか不安になったのをよく覚えている。保美とカヤとか、ナミと汀とか、まともに会話しているところがあったか記憶にない。これは『アカ』では羽藤家と鬼切部(千羽党)のどちらとも縁(因縁)が深いサクヤさんと白花ちゃんがうまく橋渡し役になっていたので、その反動でのがっかりもあるかもしれない。
 根方宗次、この男は人の心を捨てて鬼に成ったという設定のほうがよかったんじゃあないか? まず、いくら鬼退治の根方クロウ流を修めていてべらぼうに強かろうが、生身の人間ならいくらでも対処のしようがあるだろう。早い話が毒ガス弾の一発でもぶち込んでやりゃあ済んだんじゃないか。守天党もそれぐらいの物は有事のために確保しておけよ。そういやぁ夏姉さんも、神剣以外の武装は刀一本で決戦の地に乗り込んだんだったな。わざわざ相手の土俵に上がって戦ってあげる汀や夏姉さんの優しさに涙がこぼれそうになる。根方さんが鬼だったら、普段鬼と戦っているでもない祭祀なのに異常な強さなのも、こちら側がわざわざチャンバラを挑むのも、多少は説得力が出たかもしれない(《力》を込めた一撃じゃないと仕留められないから)。『アカ』の世界観なら、自分の娘と天秤に掛けて余所の子どもとその保護者を切り捨てた時点で、鬼になってもおかしくないのだが。
 馬瓏琉、このかなり間が抜けたV系のおっさんはいったい何だったのだろうか……。ナミルートで商店街をおさんぽしていて、梢子や綾代ときさくに会話するシーンは、悪い夢でも見ているんじゃないかと思った。
 余計な描写がないからかもしれないが、過去編の登場人物で本編でもここぞという場面で力を貸してくれる牛若丸の兄さんやヤスヒメサマは、気持ちのいい人たちで好きだ。ヤスヒメサマは九郎様に会いたいがためにざん(人魚)の肉を口にして各地を旅していたというのがけなげで泣ける。卯良島に渡ってからは倫理に悖る扱いを受けていたが、最期のときに彼女を一目見られたのが救いだったろうか。許すまじ、根方のご先祖!

サブキャラクターがガヤやお色気要因でしかない
 サブキャラクターも百子、綾代、花子、和尚と数だけは増えたが、物語で果たす役割がないに等しい。和尚は前作の車掌や女将のポジションとして、百子はただのにぎやかしで綾代は水着グラビア要員という程度の役割しかないのにがっかりした。
 百子は『青い城の円舞曲』で保美のことが好きだというのがはっきりと描写されていて、本編でも薄~い描写からそれがうかがえるので、いろんな展開を予想していた。合宿の雰囲気に飲まれて保美に告白して玉砕し(かわいそう)、その現場をたまたま見てしまった梢子が激しく動揺して自分の気持ちに気付く……とか。あるいは保美のために涙を呑んで恋のキューピットになり、梢子をけしかけて保美に気持ちを向けさせる……とか、そういった物語を動かす役割を期待していた。が、別にそんなものはなかったぜ! 肉~と騒いでいるだけだった。
 綾代、この人はいったい全体何のためにいるんだ……? 剣道部の副部長らしいことは何もしないし、ナミをネコっかわいがりしていたことしか覚えていない。少女漫画のような展開ばかり期待して悪いが、いっそこの人も梢子が好きで、横恋慕で関係性を掻き回してくれるくらいのほうが面白かった。
 ふたりとも恋愛方面に絡めなくても、梢子や保美と会話させる中で性格を描写したり、学生生活や部活でのエピソードを披露して仲間内での役割や立ち位置を推察させたりと、相互補完的に人間的魅力を引き立てることはできたはずだ。『アカイイト』の奈良陽子はちゃんとそういうことをやっていた。百子も綾代も、ほぼ電話での出演しかない女に物語への貢献度で完敗している。
 花子は引率としての自覚や教え子に対する関心も薄ければ、顧問として競技に対する興味もまったくなさそうで、得意げに蘊蓄垂れて酒飲んでる印象しかない。これまでの人生や価値観といったものがまったく見えてこなくて、言っちゃ悪いが不気味だった。

情感が薄くてドラマが盛り上がらない
 これもテキストの手抜きやキャラの行動原理の薄さと連動しているが、主人公とヒロインとの関係にクローズアップした物語なのに、相手に対する想いが希薄でドラマやロマンスに著しく欠ける。各エピソードもテキトーならエピローグも投げやりだ。これ「友情路線」とか「想像の余地を残してある」とか「あっさり目」とか「これからの関係を想像させる」の範疇じゃなく、ただひたすらにテキトーだと思うのは私だけだろうか? 別に四六時中ベタベタイチャイチャして愛を説けと言っているわけではない。ひとえに情緒と、過程を踏まえた上での結果を大切にしてほしかった。
 私は最初に保美ルートを読んで、思いっきり出鼻を挫かれた。キャラクターの紹介文や共通パートを読んだ上で予想したのは、梢子がふとしたことをきっかけに、よく頑張っているマネージャーぐらいにしか認識していなかった保美を一人の女性として意識するようになり(そう仕向けるのが百子だったらよかった、というのは上述した通り)、剣道部の部長とマネージャーという形式的な関係から一歩一歩踏み出していく、相手を一個の独立した人格として認めていく……そういった王道のシナリオだった。そんなものはなかった。

梢子
「それでも疲れて駄目そうな時は、私から吸えばいい」
保美
「え――!?」
梢子
「この先ずっと――なんて保証はできないけど、私が卒業するまでは、あなたの面倒見てあげる」

 卒業した後でも、離れ離れにならない内なら、それぐらいのことはしてあげよう。

梢子
「私の力が及ぶ範囲で、あなたを助けて、あなたを守ってあげるって――」
梢子
「約束する」


 吸精鬼の正体が保美であることが判明し、寮生活で人を襲ってしまうかもしれないのを恐れる彼女に掛ける言葉。ここで小山内梢子もとい『アオイシロ』が思ってたやつと違う疑惑が強まった。「それぐらいのことはしてあげよう」ってあんた……。あと、そのうち離れ離れになるのは決定事項なの……?

保美
「何で部長だからってそこまでしなきゃいけないんですか!? たかが高校の部活の部長じゃないですか!? 部と無関係な問題じゃないですか」
梢子
「部長だから――」

 言いかけていた言葉が閊(つか)えた。
 そうだと言ってしまったら、訂正することは出来るけど、一度言ってしまったという事実を消すことは決してできない。
 だから私は左手を、自分の胸に当てて問う。

梢子
「部長だから――じゃないのかな」

 自分の言葉が、胸にすとんと閊えず落ちた。

梢子
「私が保美のこと、頑張ってる保美のこと、放っておけないから……だと思う」

 私は一生懸命頑張っている子は好きなのだ。
 誰と特定するでもなく、頑張っている子はみな好きなのだけれど――

梢子
「多分、そういう保美のことが好きで、好きだから放っておけないんだと思う」
保美
「しょ……梢子先輩……」

 きっとこの子は特別なのだろう。
 あてた左の手の下で、胸の鼓動が忙しない。(略)

保美
「お願いしても、いいんですか……?」

 構わない。

保美
「約束、してもらっていいんですか……?」

 それは私が持ちかけたこと。

梢子
「私は嘘って好きじゃないし、嘘つきにだってなりたくないわ」
保美
「知ってます。嘘が下手だってことも」
梢子
「私、下手なのね」
保美
「はい……だから先輩の言葉は信じられます」
梢子
「そう」


 しかし、続くやり取りはなかなか悪くない。何より麓川節のリズムがよいし、嘘が嫌いで苦手という設定が人となりに溶け込んでいて会話に血が通っている。あえて「誰と特定するでもなく、頑張っている子はみな好き」と強調するのは何なんだ、ここまでさんざん保美のアピールを無視してたのにいきなりグイグイ来るな、とは思いつつも、居住まいを正して先を読む。

保美
「わたし、梢子先輩のこと好きです」

 黒々と濡れたまつげ越しの、真っ直ぐな瞳に私を映して、真っ直ぐな言葉で私に言う。

保美
「だからわたしももらうだけじゃなくて、先輩にいろいろもらってほしいです」
保美
「先輩がわたしを支えてくれるなら、わたしもわたしのできる範囲で、一番近くで支えられたらって思います」
保美
「わたしもわたしができる範囲で、助けたり守ったりしたいです……」

 緩んだ私の腕に代わって、保美の腕がふたりを繋ぐ。
 触れ合う肌が互いを凹ませ、互いの距離をゼロ以下にする。

梢子
「近くに居てくれるんだ」

 今だけでなく、これから先も――

梢子
「約束してくれる?」
保美
「はい、約束します」


 そのままの流れで保美が告白する。これもなかなかグッときた。先輩が好きだとはっきり伝えていて真摯だし、自分もお返しがしたいし近くで支えたいという想いもけなげで応援したくなる。梢子も「今だけでなく、これから先も――」と言うからには、前言を覆して想いに応えてくれるようで、ここから二人の関係がどうなるのかと身が入ったが――

梢子
「……でも、なんで綾代なわけ?」

 体力が有り余ってる、私でも百子でもなく、どちらかというと精気の薄そうな綾代。

梢子
「もしかして保美は、綾代のこと――」
保美
「私は梢子先輩が――っ!!」
梢子
「…………」
保美
「あ……」

 ふたりして、真っ赤になった顔を見合わせる。


――その直後のやり取りがこれである。あっという間に冷や水をぶっかけられてしまった。告白の直後にこの反応は、もはや鈍感という範疇を超えていないか? 人の好意を玩んでいる感すらあって、愉快な気分にはなれなかった。

宗次
「早急に、新たな贄をクロウサマに捧げ、真の儀式を執り行う必要がある」

 硬く研ぎ澄まされた視線が保美を捉える。
 根方さんは、長女に続き、次女の保美までをも根方の海神に捧げようと言うのか。

梢子
「この子は根方保巳じゃない! 相沢保美だ! 私と一緒に向こうに戻って、みんなと一緒に青城に帰る、剣道部マネージャーの相沢保美だ!」


 物語も佳境を迎えて、梢子が保美を生贄に捧げようとする根方さんに啖呵を切るところ。驚くことに、この時点で既に保美の位置は「学園生活の構成員の一人、剣道部のマネージャー」まで後退しているのだった。保美は「ええーッ!? あんた『部長だから……じゃないのかな……』とか言うとったやんか!」と思わなかったんだろうか。

 そう、できる範囲でいいのだ。
 それぞれできる範囲が違うのだから、それを重ね合わせていくことで、大きく大きく広がって行くのだ。
 それにもう、無理をする必要はない。
 私たちは無理をせず、この日常を生きればいい。

(期待のホープがもうひとり)


 迎えるエンディング。タイトルが「期待のホープがもうひとり」というのがすべてを表している。剣道部の練習中、梢子が練習に打ち込めるようになった保美を満足げに見つめるさまがごくあっさり描写されて、はいおしまい。あっはっは、何なんだこの尻すぼみな脚本は。保美の勇気を振り絞った告白は、二人で死線を搔い潜ってきたのは、いったい何だったのか。人間、たかだか部の期待の新人の獲得のために、何度も危険を冒して生命力を分け与えてやれるだろうか? 小山内梢子はできるのかもしれないが、それは常人の感覚とかなり乖離している。
 登場人物がやにわに気色ばんで、告白めいたことを言ったり相手のために命を投げ出したりしたかと思えば、意味不明な行動や突き放すような言葉でエモーショナルな空気はたちまちしぼんでしまう。エンディングを迎えるころにはふたりの関係に対する期待感はすっかり冷めきっている。『アオイシロ』の脚本は保美のルートに限らず、性急な展開に対して動機や情動が追い付いていない印象を受けた。ふたりのドラマを期待していた読者を、とろとろ徐行運転からの急発進と急停止でムチ打ち症にしてくる。
 みなさんは「離れ離れにならない内なら」とわざわざ条件を付けて「それぐらいのことはしてあげよう」と語る人間と、「確かにわたしは役立たずだけど……」と言いつつも「わたしにだってできることがあるよ」と食い下がって身を削る覚悟がある人がいたら、どちらのほうを応援したいと思うだろうか? 私はだんぜん後者だ。

分岐とルートに関するコンセプトの変化
『アカイイト』に比べてルートの構成が陳腐化していて、それを一つずつ読破していく面白みが薄れていると感じた。私は『アカ』の最大の魅力は、情報の秘匿と開示がていねいに制御されていて、ヒロインのルートをクリアすると初めてその人の過去が判明し、同時にその事件が性格や人間性に与えた影響が伺い知れてますます感情移入する、というメタフィジカルな演出が神懸かっていることだと思っている。ギャルゲーをプレイするモチベーションに、そのキャラクターがどういう人なのかわかりたいというのがあると思うが、『アカ』はヒロインの人となりが見えてくるところをとてもあざやかに演出している。エロゲー・ギャルゲーで名作と謳われる作品はおおよそ読んだが、あの目から鱗が落ちるような感動に肉薄している作品は数えるほどしかなかった。加えて、各人のルートで判明する過去を並び合わせることで初めてバックグラウンドの全景が見えてきて(私はこれを「年表作成型」のデザインと勝手に呼んでる)、事件と事件を繋ぐ謎の人物(白花ちゃんとノゾミちゃん)がミステリーを彩っているのも並じゃあない、というのが私の『アカ』評だ。詳細は長ったらしいレビューに書いてあるので、ぜひ読んでほしい。
 だからこそ『アオイシロ』でも潔癖なまでにネタバレを嫌って情報を締め出したし、ダイジェストの漫画版をゲームの発売前に連載するのは愚の骨頂にしか思えなかった。んで、今作は蓋を開けてみてどうだったかというと……コンプリートした今でもほとんどのキャラが理解できないんだけど。汀はカヤに叩きのめされたのでリベンジを誓っているって、本当にそれだけのバックグラウンドしかないの……?
 と、ここまではプレイ直後の感想をほぼ引用している。初めは前作に比べて単純に構成がつまらなくなったと考えていてたが、しばらく経って考えを改めた。『アカイイト』が『痕』の系譜、各ルートの情報を繋ぎ合わせることで初めて背景の全体図が見えてくるマルチサイトを重視した構成だとするなら、『アオイシロ』は『月姫』のパターン、ルートごとに展開が異なるマルチシナリオを重視したデザインなのかもしれない。一番わかりやすいのが最後に戦う相手で、ルートによってきれいに分かれている。この点はなかなかよく出来ている。
  • 保美:コハク
  • 汀:≪剣≫に取り込まれた剣鬼カヤ
  • カヤ:根方宗次
  • コハク:馬瓏琉
  • ナミ・グランドエンド:馬瓏琉・クロウクルウ

 ルートごとに対立状況が変わる関係で、違和感を覚える展開やそもそも首をかしげる舞台設定もある。保美ルートのコハクさんがあまりにも剣呑で、根方さんにあっさり道連れにされるのは神の血を引く英雄の最期にしては締まりなくないか、汀に助っ人であるコハクさんについて話さない守天党は何なんだ、だいたいのルートでいつの間に倒されている馬瓏琉に黒幕の威厳があるのか、といったことだ。しかし、IFを語り得る媒体の特性を生かした展開は、それらに目をつぶってもよいくらいの面白さだ。これで攻防が丁寧に描写されていて、ルートごとに勝敗が逆転することに説得力が持たされていれば、もっとのめり込めて燃えただろう。何にせよ、ルート構成の評価については考えが浅かったので申し訳ない。

しょうもない遊びのイベントが邪魔
 シナリオは序盤から、海から流れ着いたナミや椿の精の正体、梢子の失われた記憶と八年前の事故の謎、梢子の親戚で亡くなったはずのカヤの到来、クロウサマやヤスヒメサマの伝承というように謎が散りばめられていて気を引かれる。慕ってくれているらしい保美や、ここで出会った汀との関係がどう深まっていくのかも気になる。気の持たせ方はなかなか悪くない。しかし、こちらとしては本筋の展開が気になるのに、梢子たちがただただ遊ぶレクリエーションのイベントがやたらめったら用意されていて気勢を削いでくるし、正直どうでもよい食事の描写がつぶさに書かれていてじれったくなる。合宿の目的である剣道部の練習や、怪談と肝試しくらいはまあよいとして、水着の披露だ、海水浴でオイル塗りだ、スイカ割りだ、花火だ、バーベキューだとこんなに遊び狂う必要があるのだろうか? それで梢子たちの距離感が縮まったり関係に変化があったりするならまだしも、ただ無感動に行事をこなしてはいおしまいという温度感なのだから擁護のしようもない(保美はひたすらアピールしてくるが、梢子はそれを歯牙にもかけない)。
 最悪なのが、本筋の流れや前後の脈絡を無視してレクリエーションに励むさまが挿し挟まれる結果、登場人物の行動原理や話の一貫性を修復不可能なレベルでぶち壊しにしていることだ。私が読んでいてもっとも唖然としたのはこのくだりである。

百子
「というわけで、海に行きましょう!」

 とりあえず前置きを割愛して、百子は海に行こうと言った。
 全員揃って海に行きたいということで、昨日保美は水着を買い、そして有志一同のカンパで私の水着も買ってこられたんだっけ。
 あの、何だかすごい水着を。
 綾代のこと、ナミのこと、夏姉さんのこと――
 先ほどまで思い悩んでいた問題が、その一閃で頭の片隅に追いやられた。
 風は強くなってきたけれど、幸い天気は崩れておらず、浜辺の辺りは特に問題ないとのことで。
 明日には卯奈咲を発つことになった以上、海で遊ぶチャンスは今日しかない。
 結局、あの水着を着なくてはいけないのか――


 何度読んでも酷い。ガチでドン引きして、物語から醒める感覚がした。自分の中で小山内梢子はヒーローの資格を失った。この場面における読者の失望は、みやきちさんがパーフェクトに表現してくれているので引用させてもらおう。

 これで海水浴行っちゃうんだぜ。綾代は幽霊に襲われて弱っているし、ナミは口がきけず記憶も戻らず、大事な夏姉さんは剣に憑かれて鬼と化してるのに、全部頭の片隅へゴーだぜ。君の脳内の優先順位はどうなっておるのだ小山内梢子。せっかくカヤルートでもっともらしい理由をつけても、別ルートでこれではだいなしです。

PCゲーム『アオイシロ for Windows』(サクセス)レビュー - 石壁に百合の花咲く


「だいなし」という意見に同意しかない。シンプルに、邪魔。
 ついでに、スイカ割りのイベントはミニゲーム仕立てになっている。左右に振り分けられた波の音でスイカの位置を探ろう! 見事に割れたらCGに変化があるよ! というもの。いらない……。

本格伝奇作品としては空気が締まりない
 本作は主要登場人物に歴史上の人物がいる他、主人公その人が戦闘や探索のパートにがっつり踏み込んでくる、外法の儀式が詳細に描写されている、外なる神の企みで明確な世界の危機がほのめかされている、というように『アカイイト』よりさらに伝奇・怪奇・歴史浪漫の色が強くなっている。しかしながら、作風を作るのに失敗していると個人的に感じた。前半の、言ったら悪いがかったるい日常パートで水着の試着だ、海水浴だスイカ割りだとさんざん遊ばれて、しつこい食事シーンで百子が肉が食べたいと呑気に騒ぐ姿を何度も見せられたかと思えば、後半で卯良島に渡ってからは急に根方の裏の儀式とヒノクスリの真実が、隻眼の陰陽師もとい海淵に住まう夷の王が、≪剣≫によって≪門≫が開かれたら混沌が、という怒涛の展開があって、あまりの温度差に面食らってしまった。しかも、描写の濃度で言うと明らかに後半の方が足りていないというちぐはぐさだ。一方、クロウサマとヤスヒメサマ周りの設定については、島の言い伝えという形で序盤から読者へ提示できていたと思う。
 また、温度差の問題に比べたら個人の感性の範疇だが、ちょっと剣道が強いだけの女子高生でしかない小山内梢子が、パーカーにキュロットという恰好で神々しい≪剣≫をぶんぶん振り回してる絵はあまり様になっていないと思った。ぴらぴらした服を着て、元気に≪門≫の中を走っている保美についても同様。梢子については、狩衣か汀のような戦闘用の装束、せめて制服や道着を着せてやったほうがよかったのでは。保美は別に、無理して戦闘要員の輪に混じってこなくてもよかったのでは。
 今作こそ、人員の来歴や人品骨柄といった設定から始まり、ビジュアル(身なり)、イベントの取捨選択にまで細心の注意を払うべきだった。また『アカ』を引き合いに出すが、陽子が経観塚に付いて来なくて、会話はすべて電話越しだったのは英断だったし雰囲気を作っていたな、とふと思った。そして携帯電話が壊れるのが、現世との繋がりが切れて彼岸の世界に足を踏み入れる象徴になっているのもうまかった。

エンディングが似たり寄ったりで中身がない
 エンディングは『アカイイト』の32個から56個へと倍近く増えて、公式サイトでも売りの一つとして宣伝されているが、内訳は似通っているものや投げやりなものがほとんどで見せかけの数字である。バッドエンドは根方さんの「海柘榴」による首チョンパと、潮が満ちての溺死、それと魍魎に殺されるパターンがやたら多く、それ以外もただキャラクターが死んで尻切れトンボになるものばかり。ノーマルエンドは打ち切りみたいな終わり方で余韻がないものがほとんどだ。前作も唐突なエンドはいくつかあって、それらは削除したほうが完成度が上がると思っているが、トゥルーエンドに迫るほど心に残るものがいくつも用意されていて、欠点を補って余りある強烈な魅力になっていた。例えば、「鬼切りの鬼」のようにその後の展開を想像させるもの。「満開の花」「彼岸と此岸」のように思いがけない人物がクローズアップされて唸らされるもの。「一片の残花」「赤い維斗」のように悲惨なバッドエンドではあるが結末にその人らしさがこれ以上なく表れているもの。『やりたい放題好き放題』のようにギャグテイストだが作品の主題に対して一つの解答を示しているものなどだ。はたして『アオイシロ』にはこれらに匹敵するものが一個でもあっただろうか? 私はこれっぽっちもなかったと思う。
 うずたかく積もったしょうもない死亡エンドと無感動な帰還エンドの山が、護る側のヘタレぶりと護られる側の愛着のなさに拍車を掛けている。同じ帰還エンドでも『アカ』のそれは、序盤ならいつもの生活に帰ってきた安堵感を、のっぴきならない状態になってからは踏み止まれなかった後悔や取り戻しかけていたものをまた失った心の穴をもう少し表現していたと思う。日常の象徴である陽子をうまく使っていた。『アオ』は本当に三行四行で打ち切りにしてくるものもあるから困る。

百合厨に媚びて迷走している
 本作は「百合度」を上げて「百合要素」を増やすためなのか、「主人公を女にしたハーレム漫画やライトノベル」とでも言うようなあざとい描写が激増した。
 中でも悪目立ちしていたのが、ヒロインが主人公への好意を露骨にアピールしたり嫉妬を燃やしたりして、かつ主人公がそれを気にも留めないようなシーンだ。今なら「難聴系主人公」や「え? なんだって?」と言われるのだろうか。

梢子
「保美、ちょっと腕出して」
保美
「はい?」

 疑問符を浮かべながらも、おずおずと差し出された保美の細い腕を取る。(略)

保美
「な、なんですか……?」
梢子
「いやね……」

 じっと顔を見てみると、心なしか顔が赤いような気がした。
 西へ向かう太陽は、とうに色づき始めているが、そのぶんを差し引いたとしても赤みが強いような気がする。

梢子
「さっきもぼーっとしてたみたいだし、熱っぽいとか、そういうのない?」
保美
「だだっ、だいじょうぶですよ!?」



「小山内さん、今までどこに?」
梢子
「汀――喜屋武さんの姿が見あたらなかったので、外に捜しに出てました」

「そう……」
保美
「梢子先輩、そんなことしてたんだ……」

 大事にふらふら外に出ていた、頼り甲斐のない部長を咎めるような視線が少し痛い。
 身体の弱い保美にしてみれば、他人事ではないだろうから――


綾代
「それが、少し身体がだるくて……」
梢子
「保美も?」
保美
「だ、大丈夫です!」

 言葉の真偽を測るため、表情態度に目を配る。
 放っておくと無理をしがちな保美だから、そういう嘘はこちらで見破ってやらないといけない。

「んー」

 目は口ほどにものを言う。
 そういう言葉もあるように、瞳の奥底を覗いてやれば、たいがいの嘘は嘘だとわかる。
 覗き込んだ保美の目も、動じたように微妙にそらされ、そして保美の顔色も――

梢子
「少し赤いわよ。やっぱり熱とかあるんじゃない?」
保美
「ないです、ないです、大丈夫です! これぐらいは平熱ですから!」
梢子
「そう?」

 本人がそうまで言い張るなら仕方がない。


 この短い期間にへぼラブコメにありがちなネタ「顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」を何回やりゃ気が済むんだ。

梢子
「じゃあ最後に、ふたりで組んで柔軟――」(略)

梢子
「保美、入って柔軟手伝ってくれる?」
保美
「あ、はいっ」(略)
梢子
「相手は私でいい?」
保美
「はいっ、精一杯補助させてもらいます! 一生懸命押したり引いたりさせてもらいます!」
梢子
「そこまで気合入れられると、勢いついてそうで怖いんだけど……」


梢子
「それは?」
保美
「あ、ビーチボールです。今、膨らませてたところなんですけど……」

 残念ながら、頑張っていたわりにはあまり膨らんでいない。(略)

梢子
「ちょっとそれ、貸して」
保美
「え?」
梢子
「私がやるわ」

 世の中には向き不向きというか、適材適所というものがある。

 保美からビーチボールをひったくって、膨らませ始める。

梢子
「ふーーーっ、ふーーーーっ、ふーーーっ」

 私は息が続く方なので、ビーチボールは見る間に膨らんで行く。
 心肺任せの力業だけれど、自分の場合とのあまりの違いに何かコツがあると思い、それを盗もうとでもしているのか――

梢子
「……何? じっと見て」

 保美が私の口元をじっと見ていた。

梢子
「え?」
梢子
「保美、ちょっと顔、赤いんじゃない?」
保美
「別に、そんなことは……陽射しのせいかも……」


梢子
「保美、具合が良くなったんなら、食事の支度してる間だけでも、ナミのこと見ててくれる?」
保美
「別に、私は構いませんけどー」

 保美の声がなぜか冷たい。


 いつの間にか、汀の顔がすぐ近くにまで迫ってきていて――


「ちゅっ」

 そのまま距離がゼロになった。(略)

保美
「しょ、梢子先輩が……先輩が汀さんと……」
百子
「ざわっち、しっかり! 傷は深いぞーっ!?」(略)
保美
「…………」

「オサ!? 何かやすみんの目が冷たいよ!?」
梢子
「自業自得よ」

 汀はちょっとやんちゃをやりすぎた。

百子
「ミギーさんだけごはん抜きとか、ミギーさんのだけわさびが特盛りだとか、そういう意地悪ができないざわっちに感謝してください」

「そーねー、やすみん、ありがとう」
保美
「…………」

 汀にやられた当人ではないのに、なぜか保美が一番おかんむりだった。


 このわざとらしい鈍感ぶり! これを「梢子先輩ラブでやきもち焼きなざわっちカワユス!」と思える人なら『アオイシロ』を存分に楽しめるのかもしれない。
 ここまで白々しいやりとりを繰り返されると、作り物めいたキャラクターに興醒めするし、アピールを徹底的にスルーする小山内梢子の煮え切らなさや人間味のなさに不信が強くならないだろうか。これで最後に梢子が漢を見せるならまだしも、エンディングでも部活の先輩と後輩という距離のままだから笑ってしまう。

吸血(とその代替行為)の意味合いが薄い
 前作と同様にヒロインが主人公の血を吸う吸血シーンが用意されているが、意味合いが薄い上に情感が籠っていないのであざといお色気シーンという印象が先に来てしまう。
『アカイイト』で桂ちゃんがヒロインに血を与える光景は、なぜあんなにも魅力的だったのだろうか。もちろん、美人の女性が相手の肌に口を寄せている絵が綺麗だというのもあるだろう。だがそれだけではなく、桂ちゃんにヒロインたちの力になりたい、自分にできることで彼女らを支えたいという想いがあるからこそ、ほほえましくも目のやり場に困るようなむずがゆさがあるわけだ。烏月さんは人間なので血を吸う必要はないが、それを代替するのが指切りをするシーンで、桂ちゃんの想いが他のヒロインに寄せるものと変わらないから等しく心に響くわけだ。かてて加えて、単純に桂ちゃんが身を捧げる側、ヒロインが受け取る側という構図ではなく、贄の血をサクヤさんが家に来るダシに使ったり(本当に「だけ」ならいいよ)、身体を気遣って血を吸うのをためらうユメイさんをその気にさせたり(多分、わたしの血は甘いよ?)と、一面的ではない人間関係の妙がうかがえるのがグッとくるのだろう。
『アオイシロ』でも、鬼のヒロインは主人公の首筋から血を吸い、人間のヒロインにも精気吸収だ傷を舐めて治療だ人工呼吸だと似たような構図をやらせて、あるいはもっと直截的に唇を奪わせたりする。しかし、そこに相手に対する想い、あるいはエゴや支配欲が込められていなかったら、わざとらしいサービスカットで興覚めでしかない。だって、小山内梢子にとってナミの快復やカヤの安否は、自分が破廉恥な水着をお披露目する心労でかき消される程度の些事でしかないんだろう? 保美はせいぜい剣道部の期待のホープで、汀は好敵手でしかないんだろう? そんな位置付けの人間とやる気なく絡まれても「百合営業お疲れ様です」というくらいの醒めた感想しか出てこないっすわ。

戦闘描写がなおざりかつ無茶苦茶
 伝奇剣戟として見ると、戦闘描写がいいかげんなため評価は低い。中盤の鍔迫り合いはわりかし攻防が書かれているが、肝心かなめの最終決戦やナミ・グランドルートの殺陣がろくに描写されず、ソードマスターショウコばっかりだ。


「ふんっ、引っかかったのは雑魚ばかり――か」

「役の付かない鬼切りでもね、あんたら下っ端の式神ほど雑魚じゃないのよ!」

「はっ――!」

「ふんっ――!」

「守天応身流が舞の手――」


剣鬼カヤ
「ははは──っ!」

「がっ──っ!?」
梢子
「汀──っ!?」

 反撃を受けた汀が遠くへ飛ばされ――
 そして汀は立ち上がれない。


 汀が渾身の力でワイヤーを引き絞る。

剣鬼カヤ
「がっ……」

「ああああっ!」

「ふんっ!」
剣鬼カヤ
「ぐはっ――!」

 《剣》が、腕ごと、落ちる。


 また、各人の戦闘力の優劣がさっぱり理解できないのも大問題だ。
  • 根方さんに「海柘榴」で何度もあえなく首チョンパにされる、猪武者のカヤ。(カヤルート)
  • そのカヤ一人に叩きのめされた、汀ほか鬼切部守天党の面々。(前日譚)
  • その汀に「はっ――!」「ふんっ――!」で瞬殺される魍魎。(多数)
  • その魍魎に何度となく殺される、部活動レベルの剣道を嗜んでいる小山内梢子。(多数)
  • その梢子を得物で数段勝っているのに仕留められず、分身に頼るコハク。(保美ルート)
  • そのコハクと真っ向勝負で互角の戦いになるカヤ。(コハクルート)
  • そのカヤに気付いたら倒されている、鬼退治の剣法使いの根方宗次(グランドルート)。
  • いつの間にか死んでいる馬瓏琉。(保美・汀ルート)

 水増しされたバッドエンドと妙な難易度のせいで、読者は主人公やヒロインがあっさり殺されるところを何度も何度も見る羽目になる。ところが、別のシーンに移るとそいつが別のキャラを瞬殺しだすので、力関係はますます不明瞭になって緊張感や臨場感は雲散霧消する。ヘタレにワンパンされたキャラがヘタレ化する、という嫌なサイクルがぐるぐる回ってパワーバランスが崩壊している。

難易度が無駄に高くてストレスフル
 無計画に選択肢と分岐を増やしたのが災いしたのか、難易度が妙に高くなっており、バッドエンドで詰まるプレイヤーが続出した。
 難易度が高くてバッドエンドが多い作品でも、それがゲーム性や世界観の表現に繋がっているなら受け入れられるだろう。例えば、『Fate/stay night』は主人公がことあるごとに殺されるが、シチュエーションが作り込まれていて感心するし、バッドエンドの数が英霊との彼我の実力差を表現していて、一瞬の判断ミスが死に直結する緊張感を生んでいた。和泉万夜の作品である『MinDeaD BlooD』や『EXTRAVAGANZA』は、悲惨なバッドエンドの山が殺伐とした世界観を作り、どうにかそれを潜り抜けた先にある王道のシナリオがより一層光っていた。
 比べて『アオイシロ』のクソ難易度のどこが駄目なのか。まず、試行錯誤ののちにようやくバッドエンドを回避しても、振り返ってみてなぜその選択が生存のフラグになっているのかぜんぜんわからない。だから物語を読み進めるのを妨害する嫌がらせとしてしか機能していない。その上、首チョンパと溺死と魍魎の不意打ちのパターンが多すぎるし、ただ死んで終わりなので余韻も何もなく、うんざりしてしまう。私はこの作品を発売直後にプレイした人間のひとりだが、根方さんに梢子や夏姉さんがあえなく首チョンパにされるのを嫌になるほど見せられた。当然ながら攻略もまだないので、メモを取りつつ総当たりのようにパターンを試すことでどうにか先に進むことができた。達成感も何もなく疲れただけで、物語やキャラクターに対する熱はすっかり醒めていた。この作品については、私のように先駆者がいない中で必死になって解いた人や、ネタバレを避けるかゲーム性を楽しむために攻略を封印して挑んだ人と、詰まったらさっさと攻略を見て先に進んだ人(このゲームに限って言えば、かしこい)とでは、悪印象の度合いが根本的に異なると思っている。

ルートの封印と情報の管理が雑
 前作に比べて、ルートの封印もルートごとの情報管理もずさんすぎる。ギャルゲー・エロゲーを100本もやっている人なら、メインビジュアルの位置からメインヒロインと推察されるナミや、物語の神話的背景に関わっていそうなコハクさんを後回しにしなきゃいけないのは直感でわかるが、みんながみんなそうではない。現に最初にナミルートに行って泣きを見た人を一人知っている。スレッドを見ていたら、2周目でグランドルートに入ってしまって盛り上がりもへったくれもなくなった人がいて笑ってしまった。個別のルートでも、カヤルートで重要な回想を見ないままトゥルーエンドまで行けるような問題があって、細かい配慮が足りない。前作でも、烏月ルートの「一緒のお布団で寝る」(「お母さん、わたし大丈夫だよ……」)の展開を回避できたり、サクヤルートの「本当に『だけ』なら」のシークエンスをすっ飛ばせたりと、はてなな部分はいくつかあったが。個人的にノベルゲームは、分岐のせいで重要な伏線や心に残るイベントを迂回できてしまうようなら別にいらない、シンプルな選択肢だけでよいと思っている人間なので、肌に合わなかった。

『for Windows』について 
『アオイシロ』の初出はPS2用のソフトだが、さすがにスタッフも出来に思うところがあったのか、PS2版の発売から半年を待たずに追加・修正要素のある『for Windows』を発表している。

PS2版との違い

PC版だからこそ実現する ビジュアル表現の進化と新規ビジュアル
PC版の制作にあたり、CGは全編にわたって高解像度化を実施。
また、高解像度化だけにとどまらず、コンシューマー版では実現が困難だった一部ビジュアルの描写を制作側が意図するオリジナルの描写に修正します。
更にPCオリジナルの新規イベントシーンも追加されます。

シナリオ・演出の強化と特別番外シナリオの追加
多数の分岐が存在するシナリオの整合性を徹底的に追求。
演出ボリュームバランスも合わせて調整。
ゲーム開始からエンディングまで、重厚なストーリー&ビジュアルで展開します。
PS2版をプレイした人でも新鮮な印象で新たな『アオイシロ』の世界を楽しんでいただけます。

また、大きなポイントとしてPS2版では語られなかった、
“事件の前日譚”と“事件の裏で起こっていたある出来事”の2つのストーリーが新たに描かれます。
本作品の前作にあたる『アカイイト』に登場したあのキャラクターも登場!?

PS2版との違い|アオイシロ for Windows


 今からこの作品をやる方がいるなら、絶対に『for Windows』のほうがよい。
 PS2版からの追加・変更点で大きなところは、まず、まともな未読スキップ機能がようやっと実装された。食事や蘊蓄などのテキストを丸々使い回しているのに未読扱いだったシーンが快適にすっ飛ばせる。また、マシンスペックが向上したからか全体的な動作が見違えるほど軽くなっていて、メニューやバックログを開くだけでもワンテンポ遅れていたのが改善されている。これはシンプルによい。CGも解像度が目に見えて上がっていて、もともと綺麗だった絵がさらに鮮明になっている。

シナリオ・演出の強化
 だが、非常に残念なことに、もっとも求められていた「シナリオの強化」については大きく期待を裏切る内容だった。1シーン内で明らかに矛盾している描写やおかしいセリフが直っているという程度の修正しかなかったからだ。全般的に書き込みが足りていなくて筋運びが雑、登場人物の行動原理に共感できない、という根本の問題はほぼほぼ解決していない。小山内梢子が人間味を感じないのも、サブキャラがただのにぎやかしなのも、卯良島に渡ってからメイド・イン・ヘブンばりの巻きなのもそのまんま。……冷静になって考えてみれば、すでに開発が完了している作品へ大幅に手を加えて加筆修正するのは難しいのはわかる。シナリオとテキストに手を入れようにもその分演出を付けないといけないし、セリフを追加・変更するなら新録が必要で予算がさらに掛かるし、キャラやルートを削除しようものなら文句を言う奴も出てくるだろう。そういった事情はわかる。わかっちゃいるが、ノベルゲームとしてあんなに酷い出来だったのだから、無理を承知でどうにかしてもらいたかった。ちなみに、誓って言うが、『for Windows』の初報ではコンセプトビジュアルに「改訂増補版」という表記が間違いなくあったんだ……いつの間にか消されていたが。

特別番外シナリオ
 二本とも数分で読み終わる。
 一つ目は鬼になったカヤが《剣》を探して守天党を襲撃し、汀を叩きのめすまでの話。カヤに《剣》の在処を教えた大学時代の知り合は、サクヤさんか他の鬼切り関係者だと予想していたが、あにはからんやただの名無しの刀剣マニアだった。馬瓏琉の情報収集力がカタギの刀剣マニア以下だということが判明し、彼の残念さを際立たせるお話だった。そして夏姉さんはなんで汀にすら使った虎鶫み(双竜閃)を根方さんとの再戦で出し惜しみしたんだ?
 二つ目は顧問の教師とサクヤさんの話。「『アカイイト』に登場したあのキャラクターも登場!?」ということで期待していたが、サクヤさんはただの客寄せパンダで、出番は三分くらいで終わってしまった。居酒屋でどうでもいいことくっちゃべって、はいおしまい。あっはっは、何だこれは。
 シナリオというより、ただのこぼれ話ではないだろうか。

修正イベントシーン
「一部ビジュアルの描写を制作側が意図するオリジナルの描写に修正」と御大層なことを言っているので何かと思えば、服をはだけて刀傷を見せているカヤや幽体になっている保美の身体の線をくっきりと描きました、入浴シーンで裸を隠す謎の湯気を薄くしました、というだけの話らしい。正直に言うと、この期に及んでまだどうでもよいお色気シーンに注力するのか、こんなんやってる暇があるなら誤字の一つでも直せとドタマにきた。ジャンプのお色気漫画をこっそり読む小学生じゃないんだから、ただ女の子のボディラインが見えて肌色の面積が増えたところで嬉しくも何ともない。冷静になって考えれば、この作業を削ったところで麓川御大の筆が進むかと言えばそんなことはないのはわかる。わかっちゃいるが、むかっ腹が立つのは抑えられない。どうとも勝手にしやあがれ。
 追加のCGについては、牛若丸の兄さんの追加カットなどはよかった。でも、梢子が綾代の首筋をおさわりしているようなあざといやつは別にいらない。

二次創作用WKSスクリプト
 二次創作用に公開された開発ツールらしい。文章を書いたのち背景や立ち絵の指定・演出のスクリプトなどを打ち込んで実行すると、ノベルゲームとしての演出が再現できるようだ。包み隠さず言うと、まるで改善されていないグランドルートが終わったあとにこれを見せられて、本編がこのザマなのに二次創作に期待してどうするんだ、まず本家がちゃんとしたものを作りやがれとキレそうになった。だが、冷静になって考えれば(以下略)。

 まとめると、作品の評価を覆すような追加・修正はなかった。「新鮮な印象で新たな『アオイシロ』の世界を楽しんでいただけ」るというのは誇大広告もいいところだと思う。



優れた点 
 十余年越しのダメ出しもとい恨み節についてはだいたい終わったので、『アオイシロ』の美点についても語っていかねばならない。前回のレビューを書いたときはあまりにもブチ切れていて、優れた点については本当にさらっとしか書いていなかった。

伝奇・民俗学の要素はべらぼうに面白い
 特筆すべき点は、何かと目をつぶれば伝奇浪漫としてめちゃくちゃ面白くて、関連してコハクルートが読ませてくることだ。
 彼女の正体については、梢子に剣術の稽古をつけるくだりで「天狗」や「生き別れのきょうだい」といった言葉が出てきてようやく察しが付き、じっさい的中していて物凄く嬉しかった。義経の二人一役説・双子説や弁慶の式神説が『京洛降魔』で語られていたのでピンときた。その上、義経の話が壇ノ浦の戦いで失われた神剣と落ち延びた安徳天皇(ヤスヒメサマ)の逸話や、源為朝が琉球の地に逃れて初代琉球王の親となる伝承にまで発展していくとはついぞ思わず、ぐいぐい引き込まれてしまった。牛若丸と虎姫の双子でうしとら(艮・鬼門)というのもかっつり嵌まっていて気持ちいいし、「八男なのに九郎」の意味付けについては、藤原不比等の五女の謎から双子の姉であるノゾミちゃんの存在を見出したアプローチと似ていて面白かった。ヤスヒメサマは海に飛び込んだことと言霊を司る言仁から人魚、八百比丘尼に発展させたのだと思うが、こういった創作物は他にもあるのだろうか。
 当時「保美ルートと汀ルート終了時点でほぼ全容はわかってしまった」と書いている方がいて、正直言って半信半疑だったのが、2021年時点で保美ルートを読み返してみると、なるほど二人の正体はわかって然るべきだった。コハクさんは、小兵で麗人の兵法者と山のような偉丈夫のペアというのがそのままだし、根方さんが馬瓏琉を鬼一法眼と例えているのが直球だし、海に飛び込んで逃げた梢子たちを追う時にこれ見よがしに八艘飛びを披露しているのもポイントが高い。関連してヤスヒメサマも、天叢雲剣と縁の深い人物というと限られてくるし、それを抱いて海に落ちるというのはどストレートだ。最後につぶやいた「この度こそは本当に、波の下へと連れて行きます」は「浪の下にも都の候ぞ」だろうから、ほぼ答えに近い。
 かてて加えて、九郎とクロウクルウ(クロウ・クルワッハ)という掛けから馬瓏琉(バロール)らケルト神話の要素まで貪欲に取り込んでいるのも見上げたものだ。
 一方で、『アカイイト』に比べて作品の中核をなす要素が不明瞭で統一感に欠けるとも感じた。前作はタイトルの通り「贄の血」の縁で繋がれた鬼と人(羽藤家)のサーガだとひと言で説明できるし、「血」が作品の象徴からイメージカラーまで支配していた。また、オハシラサマのご神木が世界観の真ん中に屹立していて、タイトル画面を飾るに相応しい存在感があった。あとは「鬼」がいずれのルートでも重要な意味合いを持っているのもよく出来ている。『アオイシロ』が何の物語だったのか説明するのは難しい……。創作における義経の物語は神剣に象徴される権力に狂わされた者たちの骨肉相食む悲劇と捉えられるが、本作もといコハクさんの半生はテイストがまったく異なる。鬼切部守天党は為朝が開祖とおぼしいので源氏と縁が無きにしもあらだが、根方の家は無関係なはずで、かろうじてヤスヒメサマと馬瓏琉が間接的に両者を繋いでいる。梢子と夏姉さんは完全な部外者で巻き込まれだ。タイトルの「青い城」はおそらく瑠璃宮のことだと思うが、物語に占める位置づけでタイトルに冠されるほどのものかというと、どうにも首をかしげる。

マルチシナリオはなかなか面白い
 ルート構成の段で書いたが、マルチシナリオの観点だと面白い要素が取り揃えられている。卯良島に渡って≪門≫を閉じるという大筋は変わらないものの、敵対しているのは誰で、≪剣≫を持っている(混沌に犯されている)のが誰で、生存者の中で≪剣≫を使う資格があるのは誰で≪門≫を閉じるにはどうするか、というので話が展開いくのはよかった。多少の矛盾点や違和感は見て見ぬふりをしてもよいくらいだ。

音楽があまりにも素晴らしい
 音楽は前作と同じくMANYO(Little Wing)謹製で、出来栄えは言葉にできないほど素晴らしい。私は今までプレイしたギャルゲー・エロゲーの中で音楽がよい作品を5本選べと言われたら確実に『アオイシロ』を入れるし、オールタイム・ベストエロゲソングを選出するなら今作のオープニング曲「闇の彼方に」を選ぶ。

 劇伴は「悠久の彼方から」「水の囁き」「瑠璃の宮処」の3曲がとにかくよい。その中でもタイトル画面曲の「水の囁き」が大好きだ。水底から何かが水面へ浮かんでくるような、海を感じさせる音作りがゾクゾクして、中盤のしっとりしたメロディーが耳から離れず(コンプリート後のタイトル曲「誘水」と共通している)、バイオリンの音色(生音)が琴線を揺さぶってきて、最後のソロで泣かしてくる。ぜひ音響のよい環境で聞いてほしい名曲だ。「悠久の彼方から」や「竜攘虎搏」もバイオリンがフィーチャーされた和風曲で、雰囲気を作っている。
「闇の彼方に」はRitaと霜月はるかのツインボーカル・曲展開・アレンジ・歌詞と非の打ち所がなく、個人的にはベスト・オブ・ベストの曲だ。寄せては返す波のように次第に盛り上がっていく曲展開とボーカルの演出が堪えられない。5分以上ある長さをまったく感じさせず聞き耽ってしまう。麓川智之御大がしたためた歌詞もまたよい。麓川節の真骨頂でとにかく言葉選びが美しく、二人でどこまでも歩んでいくというメッセージが泣かせる。それが入れ代わり立ち代わるツインボーカルによって共鳴して響いて、感情の奔流が止め処ない。三たび繰り返される、ふたり「どこまでも」のユニゾンが狂おしく好きだ。あと、サビの出だしは「闇」で統一されているのは意図的として、後半の始まりが「波」の狭間に生まれた、「足」の痛みを堪えて、「凪」の間に浮かんだ、「八千」の嵐に荒ぶる、とすべて韻を踏んでいる(ai)のがリズムを生んでいるが、偶然なのか、物凄いこだわりなのか。
 逆に残念だった点は、『アカイイト』の楽曲のアレンジ版がやたら使われていること。新曲の数は十分足りていると思うのだが。「いつかのひかり」を思わせる「貝殻を耳に目を閉じて」はよいとして、「泡沫」と同じポジションで最終戦闘の曲である「道征く死を越え」はえらくお手頃な曲になってしまったな。そして、単なる八つ当たりだが、「闇の彼方に」の歌詞はあなたの手を放さない、いかなる嵐にも屈しないというストレートなメッセージが泣かせてくるが、本編の小山内梢子の熱意とえらく違っていて果てしなく悲しくなる。まあ、御大も作詞をしたときはまだ元気だったんだろうな……。

グラフィックが美しい
 Hal氏がよい仕事をしている。キャラクターデザインについて、ヒロインは神秘的な少女から愛くるしい後輩、快活な女性、闇を背負った美丈夫、幻想的な人外の麗人と描き分けられていた。個人的にはデザインや並んだときの統一感は『アカイイト』の方が好みなのだが、好き好きだろう。イベントCGは美麗かつ潤沢に用意されていて、楽し気な日常から勇猛な戦闘、おどろおどろしい怪物、神秘的な儀式まで描きも描いたり、塗りも塗ったり。テキストのへっぽこさとシーンの短さが勿体なく感じるくらいだった。『アカイイト』は少ないCGをクローズアップでやりくりしていて苦労が偲ばれたが、今回は予算を有効に活用してくれていた。質・量ともに当時のコンシューマの最高峰だったと思う。
 美術も美しく、卯奈咲の田舎風景、咲森寺の歴史を感じる建物、鬼の踏み石の険しい景観、椿の森や瑠璃宮の幻想的な佇まいが見ていて楽しかった。



なぜ失敗してまったのか 
『アオイシロ』がなぜこれほど散漫な失敗作になってしまったのか、その原因を考えていきたい。
 もはや知る人も少ないと思うが、PS2版の発売から一週間ほど経ったタイミングで、シナリオ担当の麓川智之御大が制作に対する反省点を個人のブログで書いている。これ以上参考になる情報はないので、まるっと引用させてもらった。

色々あります。わかります。
人に言われてわかることもあれば、言われるまでもなく重々承知していることも多々。
反省しても世に出たものが変わるわけではなく、次の機会に活かすしかないわけですが。
まあ、もし次に何かやる機会があるとするならば、切実なのは以下二点でしょうか。

・長くしようとしない
・攻略キャラを増やそうとしない

二点といいつつ、実際はキャラを増やした上で同程度の密度を保とうとすると長くせざるを得なくなるので、上記は地続きの問題なわけですが。

「Kanon」ヒット後の「AIR」でメインキャラを三人(+α)に絞ったのは英断だった思います。
そういえば「月姫」ヒット後の「Fate」も登場キャラクター数は増えてますが、攻略キャラという点で考えると、五人から三人に減ってますね。
原点ともいえる「痕」でも四人姉妹のうちひとりがシナリオ的には空気扱いされていることを鑑みるに、やはり三人(+α)というのが実際ベストに近い形なのかもしれません。
大好きな「あやかしびと」も四人ヒロインのうちひとりは浮いてるという評判がありますし、次作の「Bullet Butlers」では三人ヒロインになってますし。
会話させるのも三人組って一番バランスいいですしね。(いや、この場合主人公を別に入れると四人になるのか)

それ以上になると分量的にもネタ出し的にも複数ライターとかじゃないと辛いよなーと、考えます。
もちろん、ひとりで多数キャラクターを書いて、それでも高クオリティを保てる人もいるわけですが、俺的な適正を考えると、プロット的にもテキスト的にも量より密度を上げる方に注力した方が結果的に良いものになりそうな感じです。

もちろん以上は一人称テキスト主体のアドベンチャーという縛りにおけることなので、表現方法が変わればまったく逆の手法が功を奏するかもしれませんが。

でも「前作よりヴォリュームダウン」っていうのは営業文句的に難しいんだよなー。逆はすごくわかりやすい売りになるだけに、通しやすいんだけど。

あと追加で「前作とのかぶりに神経質になりすぎない」とか?

まあ、色々と反省点。 - 鋼鉄典範 ―Rule of Steel―



まず5ルート(ヒロインが5人)+グランドルートという構成ありき
まずエンディング数56がありき

 これについてはシナリオ担当その人が相当悔いているようなので、明確な失策ではないだろうか。テキストは、物語後半のじっくり描写するべきところをダイジェストで済ませていて、明らかに息切れを起こしている。6ルートの構成は、前述の通り対峙する相手が変わるのは面白いものの大筋の展開は変わらないので、ナミやグランドルート辺りで顕著にネタ切れを起こしている。
 文章が原稿用紙換算でこんなにある、前作を上回るボリュームというのは、印象的な出会いから始まり、相手を認めるところや惹かれ合うところ、挫折と再起と成長、息をのむサスペンス、手に汗握る立ち回り、感動的なフィナーレといった場面々々を一個々々丁寧に書いていって、それが積み重なって長編になったときに初めて意味があるわけで、しょうもないレクリエーションや食事の場面、見苦しい使い回しのテキストで嵩増しするのは的が外れている。同様に、エンディング数がこんなにあるというのは、「こんな結末があってもよい」「こんな別解も面白い」という形で積み重ねていった魅力的なIFのパターンの数が誇れるものであって、数字目標を達成するためにテキトーな死亡エンドや唐突な決別エンドを見繕うのは目的を履き違えている。この水増しがテキストの密度の薄さやストーリー展開のちぐはぐさ、何の面白みもない難易度によるしらけを助長しているので、「営業文句」を優先させたのはただただ悲しい。最初に発表してしまったヒロインを降格させる(ルートを削る)のも、公表したエンディング数を訂正するのも難しいのはわかるが、覚悟してばっさり切り捨てていたほうが、読者の時間当たりの満足度が上がって最終的な批判も少なくなったのではないだろうか。

2 0 0 6 年 1 0 月 0 5 日
ブログのアカウントだけはいっぱい持ってるほんまPです(ノ´∀`)ゞタハ

皆さんから見て左が「アカイイトのフロー」右が「アオイシロのフロー」。

なんかものすごく多くないですか?Σ(・ω・;)
バッドエンドが前作よりも増えてる感じするけど…???

麓川「バッドエンドも売りの一つ!くっくっくっ」
(ただし無駄に殺しすぎてる感じもしてきたので、
前作「一片の残花」「赤い維斗」といったイベント絵指定のないデッドエンドは、
本編作成中に減る可能性があります。ご了承ください。by麓川)

確かに…
アカイイトのバッドエンドは、グッドよりも印象に残ってたしね。
本人曰く、アカイイトの2割増らしいのですが
作品にこだわるあなただもの…書いてるうちにもっと増えそうよね;;
嬉しいけれど、お母さんスケジュール通りいくのかドキドキしちゃうわっ(ノωT)

●ほんまPの一言コーナー●


 この時点ではまだバッドエンドの必要性を吟味する予定があったらしいんだよなぁ……。

ライターが書きやすいところだけ先に書いて力尽きた
 食事の場面は献立の詳細なレポートから蘊蓄の披露までたっぷり尺を取って語られて、用語辞典は設定から本編に関係ないことがらまで充実のラインナップで子細に書かれているが、肝心かなめのシナリオ、とりわけドラマのさわりの部分やクライマックスの場面は性急でダイジェスト風味というちぐはぐさ。十中八九、用語辞典や前半部分の食事シーンは開発初期の時間に余裕があるときに書いて、後半は尻に火が付いてから書こうとして推敲を断念したのだろう。
 何人もの思惑が交錯する舞台設定で、ストーリーを整合性を以て――いつ・どこで・誰が・どうして・どうするかを説得力を持たせて――書くことが死ぬほど大変だというのは門外漢でも想像できる。用語辞典や設定の語りとは、執筆に要するカロリーがまったく違うのだろう。しかし、少なくとも私は、ノベルゲームを読むときに一番気に掛かるのは、主人公やヒロインが何(誰)のために・何を思って・どうするかで、一番知りたいのは、主人公やヒロインがどんな人なのかだ。これに尽き申す。裏設定やこぼれ話や余談は、本編が面白い、主人公やヒロインのことが好きだという大前提があって初めて面白く読める。だから、まず本編を徹底的に練って、何度となく読み通した上で推敲を重ねてほしかった。雰囲気を作るという範囲を超えた蘊蓄や用語辞典に取り掛かるのはそれからで、納期に間に合わないならバッサリ切ってほしかった。それは読者のエゴなんだろうか。

まずイベント(CG)ありき
 まずお色気イベントありき。シナリオの流れや行動原理の一貫性よりも前にお色気イベントありき。小山内梢子は海辺に現れる魍魎の危険性を身を以て知ったあとでも、数時間後にはのんきに海岸でバーベキューを始めるし、強くなって夏姉さんを止めたい! と意気込んで素振りをしていたかと思ったら、二日後には元気にビーチボールで遊んでいるし、大切な家族や部員の安否・夏姉さんと繋がっている隻眼鬼の謎といった重大ごとも、きわどい水着を部員に披露するという悩ましいイベントを前にすると頭の片隅に追いやってしまう。嫌だよ、こんな主人公……。
『アオイシロ』の脚本がここまでちぐはぐになってしまった原因の一つとして考えられるのが、麓川御大が開発中に回っていた外注の仕事だ。

今日は月間コミックRUSH発売日ですよ♪

公開日:2007/04/26 18:53

ところで、ずっと気になっていたんですけど
出稼ぎってどこに行ってたんでしょうか?
伏せている以上、なにか大人の事情がありそうですけど
もし差し支えなければ教えてください。

ほんまPと麓川は、現在他社様の開発スタッフとして
締め切りに追われる毎日です。
タイトルは…大人の事情ですw

http://maglog.jp/aoishiro/index.php?module=Article&action=ReaderDetail&article_id=86589


 邪推でしかないが、御大が開発に戻ってきて執筆作業に本腰を入れようというときには、既にきわどい水着のお披露目・スイカ割り・オイル塗り・花火といったCGが上がっていて、予算を掛けて作った素材を無下に没にするわけにもいかず、イベントをシナリオにどうにかねじ込んだのではないだろうか。くだんのお色気イベントのテキストがあまりにもやる気がないのが、この説の信憑性を高めている。

まず百合ありき
 前作『アカイイト』には百合要素が少ない・百合度が低い、恋愛ではなく家族愛の範疇なので百合じゃないという批判が数多くあった。そんなアホみたいなことを抜かす奴がいるのかと疑問に思うかもしれないが、当時の百合厨は今にもましてぼんくらばっかりで、単純な絵面や煽情的な場面だけで点を付けて、男は出ないかかませになれば許すという評価をしている奴がいくらでもいたのだ。生き証人の一人として証言する。当時のパープリンなレビューについては、ちょうど匿名のWikiによい例があったので引用させてもらおう。

賛否両論点

百合要素が薄い。
一応ユメイとはキス一歩手前までいくが(前述の鼻血のアレのシーンである)、それ以外では「恋愛」描写があまり無い。
桂の口から「好き」という言葉が出るものの、それが友人としてなのか恋人としてなのか曖昧な表現になっているのである。
ただし、一緒の布団で寝たり一緒の布団で寝る事を誘われたり、一緒にデートをしたりする描写はあるのだが。
「百合」というよりも「絆」の物語と言った方が正確である。
とはいえシナリオ自体は良作である為か、それ程表立って批判される事は無かった。コンシューマーとしてはこれ位が丁度いいのではないかという意見も。

続編の『アオイシロ』では明確なキスシーンが追加された。

アカイイト - ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~ - atwiki(アットウィキ))


余談

本作の発売と同月に放送開始されたアニメ『神無月の巫女』は、「日本神話と百合要素の融合」や「報われない男キャラクター」という点で本作と共通する。ただ、そちらの方は詳細は伏せるが本作よりも百合要素の濃さでは大きく上回るのだが。

アカイイト - ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~ - atwiki(アットウィキ))


問題点

百合ゲーなのに男の主要人物がいる。
しかも、物語上で(特にユメイルートと烏月ルート)重要な役割を担う人物だったりする。百合ゲーなのに。
おまけにラスボスさえも筋肉質の男である。百合ゲーなのに。
『ストロベリー・パニック!』のように、男キャラを全員排除する位はして貰いたかった物だ。

アカイイト - 名作・良作まとめ @ ウィキ(跡地) - atwiki(アットウィキ)


 なぜこんなところでトンチキ百合アニメを宣伝しているんだ……? 「明確なキスシーン」があるから何だってんだ……? そして、白花ちゃんが報われないって、作品の精神性やメッセージをまったく理解できていないのか……? このレビューでも出てくるが、百合厨がよく使う「百合要素」や「百合度」といった指標がいかなるものなのか、私はいまだによくわからない。そいつは相手の唇を無断で奪ったりレイプしたりすると加点されるものなんだろうか。
『アカイイト 設定解説ファンブック』に書いてあったが、前作は最初から百合作品を目指していたわけじゃなかったんだよな。「吸血」というコンセプトがまず最初にあって、男の主人公が敵から逃げまどったり血を吸われたりするのは様にならないというのと、当時御大が恩田陸や『マリア様がみてる』にはまっていたことから女性主人公にしたんだったな。それで女主人公と攻略されるヒロイン勢という構図で、結果的に百合になったんだろう。『アオイシロ』は最初から百合を想定して作りはじめた作品で、注目度も前作と段違いだった。上掲のレビューのような、百合厨どものやくたいもない要望がスタッフの耳に届いていたのは想像に難くなく、変に気張りすぎてしまったんじゃないだろうか。カップリング妄想用のサブヒロインだ、ムフフな密着ストレッチやきわどいオイル塗りのイベントだ、ヒロインの好き好き嫉妬アピールだ、キスだ人工呼吸だ口移しだ姉妹丼だと考えなしに追加していくうちに、とっちらかった脚本と狂った主人公が完成してしまった可能性がある。
 タイトルに「百合」を冠するような、百合のプロでございという人が鼻息も荒く作った作品より、そんなに思い入れがない人があまり気張らずに書いたもののほうがあざとさや押しつけがましさがなくてよい、という事象は百合作品ではままある。

前作の要素を考えなしに引き継いだ
 要するに吸血シーンのことだ。前の段でも書いたが、『アカイイト』は血を吸う絵面だけがウケたわけではない。天涯孤独の身になってしまった少女が、失った絆を取り戻すため、新しく生まれた縁を守るために心血を注ぐ姿が美しく、その精神性が血を流して与えるという行為に象徴されていたという話だ。女が女に唇を寄せる絵面を取り入れたところで、心が伴っていなければただのグラビアでしかない。人間の梢子に汀の血までべろべろ舐めさせて、綾代にさえ顔を寄せて首筋を触らせるスチルを追加で用意しているのは、あざとさを通り越して滑稽の領域に入っていた。こんなので喜ぶのは、粘膜接触の描写があるかないかで作品を評価するようなスッタコの百合厨どもだけだ。
 スタッフ自身が案外『アカ』の魅力に気付いていなかったフシがある。芸術や創作では思い付きで変えた部分や何とはなしに入れた要素が劇的なケミストリーを生むのは珍しいことではない。『アオイシロ』ではその奇跡が起こらなかったというだけだ。

宣伝広報の空回り、まず声優オーディションありき?
 予算が増えたことで、宣伝も広告の掲載から漫画版の連載・WEBラジオ・声優オーディションと手当たり次第に展開していたが、あまり効果を伴っていないどころか設定や脚本の練り込みを阻害していた疑いすらある。
 私が最も理解に苦しんだのが『アオイシロ -花影抄-』の連載だ。ゲームの発売前に本編の漫画版を先んじて連載するという企画である。改めて言わせてもらうが、全ルートを統合したダイジェスト版を先に読んでしまったら、ノベルゲームの華であるルートごとの情報の秘匿と開示による演出が台無しにされてしまうだろう。『アカイイト』がそれの最高峰だったというのは上述の通りだが、もし、いいとこどりのストーリーである小説版『アカイイト 絆の記憶』で先にネタバレしていたら、あのあざやかな感動が台無しになるだろうよ。『アオ』については残念ながら、キャラクターを攻略するごとにパーソナリティが理解されて、世界観が断片的に見えてくる演出はほぼなく、ネタバレを回避して臨むほどの作品ではなかったわけだが。しかも、作画を担当しているのは片瀬優というライトノベルのイラストレーターで、漫画連載の実績すらなかった人間である。「月刊コミックラッシュ」という聞いたこともない漫画雑誌で、動きがぜんぜん感じられない作画の漫画を連載して、いったいどれくらいの人がゲームに興味を持ったのだろうか。それと、この連載の最初の二話は『アカ』の番外編が掲載されていた。『アオ』の脚本がまだ完成していないからだそうだ。次回作を宣伝する漫画の連載のために、次回作の構成作業を中断してなぜか前作の番外編の話を考えているというのは、本末転倒もよいところなのでは……? 私はこのダイジェスト版は邪魔にしかなっていなかったと思っている。
 声優オーディションの企画についても余計なことを言う。顧問の教師の花子と剣道部副部長の綾代は、公開オーディションの企画の中で投票で選ばれた声優が声を当てている。綾代の人は経験者、花子の人はずぶの新人だったはずだ。ひょっとすると、この二人は声優オーディション用に無理くり作られたキャラクターだったのではないだろうか? ゲームの宣伝用に公開オーディションをやりたい、でもメインキャラに新人を起用するのはチャレンジすぎる、ならオーディション枠のサブキャラを二人くらいねじ込んでおけばよい、という流れを勝手に予想した。繰り言で申し訳ないが、花子も綾代も本編で役割がほぼなく、どうにか活躍させてドラマに絡めようという気がまったく感じられないので、そんな邪推もしたくなった。
 当然、漫画は原作がなければ描けないし、オーディションや収録は台本がなければできない。もし、このちんぷんかんぷんな広報戦略のせいで設定の練り込み、脚本のブラッシュアップの期間が狭まったのだとしたら、本当に残念でならない。
 秋葉原に出していた広告と、前日譚である『アオイシロ -青い城の円舞曲-』の連載についてはよい施策だったと思う。『青い城の円舞曲』は単体でも出来がよかった。本編よりだんぜんキャラクターがいきいきとしているが、これも御大が気力のあるうちに原作を上げてたんだろう。

 つまるところ、脚本の作り込み(行動原理の整合性)、文章の練り込みを第一義とする制作になっていないことが敗因だったのではないだろうか。アドベンチャーゲームは総合芸術だが、やはりノベルゲームでもっとも大事な要素は脚本と文章だし、ギャルゲーの完成度を決めるのはギャル(人間)の確かさだろう。それが満たされていない時点で、私は『アオイシロ』を良作と認めるのは厳しい。伝奇要素や音楽がどれだけ素晴らしかろうともだ。



『アオイシロ』リメイク案 
 ずっと否定的なことばかり言ってきて、建設的なことは言えないのかと怒られそうなので、『アオイシロ』を一から創り直すなら具体的にどうしたらよいか考えてみた。
  • ルートを整理する
  • 1.保美 2.カヤ 3.コハク 4.ナミ(兼グランドエンド)が無難か。
    剣鬼カヤと戦う展開はほしいが、分岐でどうにか。
  • 脚本を徹底的に練って文章を推敲する
  • 不要な選択肢とつまらないバッド・ノーマルエンドを削除する
  • サブキャラクターを整理する(でなければ物語上の役割をちゃんと持たせる)
  • モブの剣道部員もいらなくないか?
  • クソしょうもないお色気イベントを本編から削除する(せめておまけコンテンツに移す)

 これだけで見違えるようによくなると思う。
 あとは「ぼくのかんがえた」でしかないが、小山内梢子が戦闘要員としてもヒロインとしても中途半端なので設定から見直した方がよいと思う。いっそ最初からカタギでなく、鬼切部のどこかの党の見習いでもよかったのでは。それなら魍魎くらい蹴散らしてくれてストレスが溜まらないし、女子高生が東西の神話伝承や≪剣≫の来歴についてぺらぺらしゃべり出す違和感も薄れる。


まとめ 
 私が当時『アオイシロ』の出来にあれだけ怒り狂って、十数年経った今でも気が狂いそうになっているのは、グラフィックと音楽、伝奇要素は例えようもなく素晴らしいのに、脚本とテキストの練り込みという肝心かなめのところがやっつけ仕事なせいでおじゃんになっているからだ。無謀な開発計画と的外れな広報、無為な要望を無節操に取り入れたのが原因とおぼしき歪みが見て取れるのもひたすらに悲しい。さらに追い打ちをかけるように、改訂増補版という挽回のチャンスがあったにもかかわらず、PS2版から半年程度で矢継ぎ早に発売して、根本的な問題が一切解決していなかったことに心底落胆した。一度完成したものに大鉈を振るうのが難しいのはわかるが、感情では受け入れがたい。『アカイイト』とはまた趣が異なる良作が生まれる目は十二分にあったはずだ。それが永久に失われてしまった口惜しさで、私は今も地面をのたうち回っている。

アオイシロ - サクセス
アオイシロ

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百合ゲーム レビュー・感想まとめ
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toppoi
Author: toppoi.
百合ゲームレビュー他。アカイイト、咲-Saki-、Key・麻枝准、スティーヴン・キングの考察が完成しています。
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コメント(2)

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2022/09/17 (Sat) 08:28

カトケン

あなたのレビューは大枠においては尤もな内容だとは思う(肯定派への配慮に欠けている点は否めませんが)んですが、しかし神無月の巫女やストロベリー・パニックなどを貶める様に感じる記述があるのはいただけませんね。個人的には神無月こそ至高の百合作品だと感じでいるもので、トンチキとか言われるのは腹立たしいです。あそこまで少女同士の純愛を正真正銘描き切った作品は当時無かったと思いますし。後、あなたが神無月をどう思っているかも聞かせていただければと思うんですが?

2021/11/30 (Tue) 05:27