FATAL TWELVE 感想 練られたデスゲームと真摯なドラマを両立させた力作 

「ようこそ、運命の奴隷の皆サマ――」
喫茶ライオン館のマスター代理を務める女子高生・獅子舞凛火は後輩・日辻直未との帰宅途中、突然、電車内で爆発に巻き込まれる。
直未をかばった凛火は、虚しくも命の終わりを迎えた。
だが、気付けば凛火の死はなかったかのように、いつもと変わらず喫茶店で直未たちと談笑をしていた。
数日後、凛火は夢の世界で女神・パルカと出会う。
一度迎えた死の運命は改変され、≪女神の選定≫と呼ばれる12人が12週間の間に脱落させ合うという儀式の参加者になっていたことが明らかとなった。
戸惑う凛火たっだが、選定の参加者の中に友人・未島海晴の姿を見つけ……?
必要なのは、現実世界で参加者の「氏名・死因・未練」の情報を集め、相手を「指名」することだった。
凛火自身の死の真相と未練。
彼女に命を捧げると宣言した海晴の動向。
自らが生き残るため、それぞれの手段をとる他の参加者たち。
凛火に訪れるのは、様々な想いとの直面。
そして、いくつもの生と死の果てに待つ凛火の決断とは――?
(http://fatal12.com/#story)
物語の中心になっているのは、主人公である凛火たちが巻き込まれる超常の生き残り(正確に言うと生き返り)の儀式「女神の選定」なのですが、いわゆる「デスゲーム」としてよく出来ているのに加えて、ストーリー展開や人物の掘り下げとがっぷり噛み合っているんですよ。
まず、儀式の参加者のキャラが抜群に立っています。主人公の組はもちろん、手段を問わない武闘派、油断ならない穏健派、そして序盤でドロップアウトする端役に至るまで、その人なりの信念や意地や背景を感じせます。私が特に好きなのは、名前がよすぎる凛火と、憎みきれない小悪党のフェデリーコですかね。また、相手を脱落させる条件が生前の「氏名」「死因」「未練」を暴くことなのですが、人間洞察や探り合いの情報戦が熱かったです。ある人の何気ない振る舞いや一見ギャグのような描写にヒントが隠されていて、ハッとさせられたのは一度や二度じゃありませんでした。条件の達成はカードの取得という形で可視化されていますが、カードは儀式の開始時に誰かのものがランダムで配られていて、それも駆け引きの緊張感に一役買っています。
また、3つの条件のうち秘められた「未練」を探るのが最難関なのは言うまでもなく、必然的にシナリオもそれの解明に分量が割かれています。そこでの、相手のセンシティブな内面を知る過程で生まれる人間ドラマも熱かったですね。単なる参加者同士の蹴落としに終わらず、パーソナリティがぶつかり合って展開を作っていくさま(劇中では「交差する感情の連鎖」と表現されていた)はとにかく読ませてくれました。
その他、デスゲームのお約束である前○の○○○りの存在や、華である○ー○○○○ーへの反抗の展開も盛り込まれています。ツボを押さえていますね。また、人間の生死が覆ることで遡及的な辻褄合わせ、運命の改変も引き起こされるのですが、それもストーリー展開に組み込まれていてよく練られているなと感心しました。かてて加えて、はらはらさせつつも真摯な恋愛劇が話の主軸にあって、百合ゲーとしても大満足な出来でした。脚本は総じて満足度が高かったです。
シナリオ以外の要素について。ビジュアルは相変わらず美しく、塗りは前作からさらによくなっています。もちろん劇伴は全てオリジナルで、ボーカル曲も完備、今作でついにフルボイスになりました。UIやTIPSの細かい作り込みも嬉しい。あえてけちを付けるなら、画面効果やSEでの演出が若干伴っていないところが惜しかったでしょうか。特に場面転換でのフェードイン・アウトやBGMの切り替え、女神の選定の舞台や格闘シーンの演出がちょっと物足りなく感じました。ビジュアルがよいだけに……。例えば、指名の順番が廻るシーンで歯車が駆動するSEがあったら、それだけで臨場感が違うんじゃないですかね。それと、私の環境だとバックログがまともに機能しなくて「?」でした。
制作のあいうえおカンパニーは、過去作『しずくのおと』がおそろしいクオリティだったので勝手にハードルを上げていたのですが、今作はその期待に真っ向から応える出来でした。お値段脅威の¥2500(私はSteamのセールで買ったので¥1875だった)なので、みなさんもぜひ購入してみてください。
FATAL TWELVE(フェイタルトゥエルブ)- 公式WEBサイト
FATAL TWELVE [あいうえおカンパニー] | DLsite 同人
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