ファイアーエムブレム 風花雪月 感想 血に塗れた覇道を往く女と添い遂げられるか? 

世界を革命する英傑であり、同時に戦禍を引き起こす暴君でもある女。あなた(ベレス)はこの血の雨を降らす女に寄り添うことができるだろうか? この問いが作品のエッセンスであり、答えによって評価が大きく左右されると思う。
シリーズ最高傑作の呼び声も高い
『ファイアーエムブレム 風花雪月』は任天堂の人気シミュレーションRPGシリーズの最新作で、メディアのレビューでも個人の感想でも非常に評価が高い。自分でもプレイしてみて、なるほど評判通りの名作だと思った。私は普段ノベルゲームばかりやっていてあまりこのジャンルをやらないのだが、有り体に言ってのめり込まされた。本作の魅力についてつらつらと書く。
シナリオはドラマチックな戦記として読ませてくる。本作は士官学校編と戦争編の二部で構成されていて、傭兵のベレスがガルグ=マク士官学校で教師を務めることになり、三つの国で分けられた三つのクラスの一つを担当することが全てのはじまりとなる。序盤は受け持った生徒と交流し、課題出撃やクラス対抗戦のグロンダーズ鷲獅子戦といった行事を通じて、教師とと生徒・指揮官と将校として信頼を高めていくさまが描かれる。平和な学園生活は、三国とセイロス教団からなるフォドラの均衡を崩そうとする謎の勢力の暗躍が明らかになっていくことで影を差し、ある国が宣戦布告することで破られる。文字通り国を分けての戦争の火蓋が切って落とされると、ベレスは担当していたクラスの国に身を寄せて、戦乱を鎮めるべく、王の悲願を達成すべく、彼女らを補佐してフォドラの統一を目指す。教え子を率いて大陸を跨ぐ攻防を指揮し、敵軍の将となった元生徒と鎬を削り、敵国の王たる元級長と雌雄を決することになる。スペクタクルな展開に引き込まれて、国と国・人と人・思想と理想がぶつかって火花を散らす壮絶さに引き込まれた。
マルチサイト・マルチシナリオのゲームとしてもなかなか完成度が高い。三つの国と三人の当主はそれぞれ掲げる大義も違えばフォドラを統一する目的も異なり、国が内包する権力争いや不穏分子の問題、王と側近が抱える内面の問題もさまざまだ。ルートが変わることで物語のカラーががらりと変わってくるので、陣営が変わるたびに新たな気持ちでプレイすることができた。また、一つのシナリオだけではすべての謎が解決せず、各陣営の視点で見えてくる真実を繋ぎ合わせることで初めて全景が見える構成になっていて、これもルートを踏破するモチベーションへと繋がっている。
戦略シミュレーションとしての難易度・やり応えも素晴らしい。かつての生徒や友人と刃鳴散らす場面の悲痛さや、世界の命運を決める会戦の高揚をゲーム的にも表現している。私が最初にプレイしたのは黒鷲の学級での紅花の章だったが、ギリギリの戦力で挑んだ最終戦は、徐々に悪化していく戦況に半べそをかかされた。どうにか全員を生存させつつ敵将に勝利したときは胸に迫るものがあった。
育成シミュレーションとしてのやりがいもよい。ユニットは戦闘を繰り返してレベルアップすることでも強くなるが、より能力を伸ばして強いスキルを身に付けさせるには、仲間一人ひとりに向き合いつつ手塩にかけて指導する必要がある。指導が実を結んで見違えるように強くなったときは達成感もひとしおだった。
長編のゲームでセリフが膨大にあるにも関わらず、フルボイスが実装されているのも凄い。人と人が交流して惹かれ合い、あるいは衝突してすれ違うことで生まれる喜怒哀楽・悲喜こもごもの声を、戦争で打ち倒された者の無念の叫びと大願を果たした者の勝ち鬨を、声優の熱演が盛り立てる。細かいところで好きなのが、一般の生徒やガルグマク・マク修道院で暮らす人々のセリフにもボイスが当てられているところ。学園編においては生活感や学園行事の盛り上がりが伝わってきて、戦争編では戦時下に暮らす市井の人々の陰鬱さやたくましさが等身大に感じられて、雰囲気を出していた。
劇伴が場面々々を盛り上げてくる。サウンドの表現がハードの性能とともに向上していて耳に楽しく、演出ではメインテーマのフレーズがさまざまな曲で顔を出すところがベタだが心に響いた。最終局面で流れる曲「この世界の頂で」にもあのフレーズが入っていて、ここに至るまでのことが走馬灯のように頭をよぎって感情が揺さぶられた。他には、日常曲が好きなので「ガルグ=マク大修道院の日常」や「女神の天秤」が好きだな。「交わらぬ道」は心拍数が嫌な感じで上がる。
このように、SRPGとしての美点は枚挙に暇がない。私がその中でも特に感銘を受けたのが、戦略シミュレーションとしてのユーザビリティ、人間関係と会話のパターン、導線の丁寧さだ。
圧倒的な遊びやすさ
戦略シミュレーションで、遊びやすいことは正義だ。
私が今まで遊んだ同ジャンルの作品は『うたわれるもの』『ドラゴンナイト4』『サクラ大戦』、そしてファイアーエムブレムでは『烈火の剣』くらいなのだが、性に合わない場面がかなり多かった。具体的に言うと、先制攻撃を喰らわないために敵ユニットに一つ一つカーソルを合わせて攻撃範囲を確認するのが手間(しかも揮発性の脳みそなので覚えられない)。攻撃範囲のチェック漏れや操作ミスで敵から一方的に攻撃されるのが嫌。戦力の見誤りや理不尽な増援・不意打ちによってユニットのロストや詰みが発生してリセットしたときの戻し作業が苦痛、といったことだ。要するにキャラクターを直感的に動かせないゲームが苦手なんだと思う。
『風花雪月』はこういったわずらわしさやもどかしさを可能な限り取っ払っていて感心した。敵の移動・攻撃範囲は危険範囲またはターゲットの放物線として表示できるので、防御に不安のあるユニットでもスムーズに移動させられる。戦力の見定めについては、攻撃を仕掛ける前に戦闘の結果予測が表示されるので、無謀な戦いで返り討ちにあって自分にイラつくこともない。致命的なミスについては「天刻の拍動」という回数制限の救済システムで盤面を巻き戻すことができ、しかも一手単位で細かく指定できるという至れり尽くせりぶりだ。ちなみにこの運命や因果律に干渉する能力は設定として主人公の出自に関わっていて、よく考えられている。また、戻し作業や周回プレイについては、戦闘をアニメーションの省略や自動戦闘・AIのスキップで段階的に高速化できるのでほとんど苦にならない。ハードの性能向上を何とも有意義に使ってくれている。
こういったユーザビリティが整えられていることが、ユーザー層を超えた支持に繋がったのは間違いないだろう。戦略SLGが苦手な人やあまり経験がない人にこそやってもらいたい作品だ。このジャンルをやり込んでいる人にとっては多少ぬるいかもしれないが、各々で縛りを科すなり難易度を上げるなりして対応できる範囲だと感じた。
会話と後日談のパターンが尋常じゃない
会話のボリュームがとんでもない。『烈火の剣』を遊んだ時に物足りなかったのが、仲間がこちらの陣営に入ったあとはセリフがほぼなく、戦闘面での活躍でしか個性が発揮されないことだった。支援会話をあまり発生させなかった自分も悪いのだが、いまいちシステムを把握できなかったのは導線の問題もあると思う。『風花雪月』は散策で仲間全員と会話できるのがとてもありがたかったし、毎月のシナリオの進行に合わせて内容が変わっていく作り込みが素晴らしかった。学園編では単なる雑談から行事への意気込み、クラスメイトや教師に対する人物評などを聞けるのが楽しかったし、戦争編では戦局への意見や戦いの行く末、終戦後のあるべき未来について意見を言ってくれるのが嬉しかった。新任教師として右も左もわからないところから始まり、話しかけるうちに生徒の顔と名前が一致してきて人物像も掴めてくる。戦端が開かれたのちは、戦いに身を置くことへの実直な想いを聞かせてくれて、共に過酷な戦禍を生き抜いている実感が湧いてくる。そら愛着も湧きますわ。他に細かいところでは、他の学級からスカウトした生徒にも、そのシチュエーションに沿ったセリフがちゃんと用意されているのもよかった。自分のプレイでよく覚えているのは、青獅子の学級にスカウトしたリシテアが、ある人物の様相とこの国の行く末を憂いてずっと苦言を呈していたことだな……(笑)。あの人の目が覚めてからは希望を持ってくれたのが嬉しかったのをよく覚えている。
加えて、散策での活動、支援会話、後日談などにおけるペアのレパートリーが執拗なまでに作りこまれていてびびってしまった。以下、この段落は若干のネタバレが続く。
食事やグループ課題などの二人の仲間を指名するイベントでは、特に関係性が強いペアには汎用ではない専用の会話が用意されている。しかも支援レベル(好感度)によって内容が変化するという手の込みようだ。『風花雪月』のカップリングの中でもヒルマリ(ヒルダとマリアンヌ)がとりわけ人気なのは、専用会話の影響もあってのことだろう。
関係の深いペアには戦争編で対立したときにも専用のセリフが用意されている。私のプレイ体験で語ると、初回の黒鷲の学級のルートでは他のクラスの人間関係までは把握しきれておらず、単純な見た目のよさで青獅子の学級のイングリットをスカウトした。物語の後半でファーガス神聖王国と接敵したさい、特に意識せずグリットをシルヴァンに攻撃させたが、物悲しいやりとりが挿まれてびっくりした。この時点ではそこまで罪の意識はなかったのだが、次に青獅子の学級を担当したときに、彼らが長い付き合いの幼馴染であり、悲惨な事件で共通の親しい人を亡くしていたことを知り、下っ腹がずーんと重くなった。
また、人間関係は基本的にクラスの中で形成されているが、他の陣営から人をスカウトすることで思わぬ繋がりが生まれてくるのも面白かった。例えば、極度の人見知りで引きこもりのベルナデッタと誇り高い騎士を目指すイングリットの二人は、クラスが別で何一つ接点がないように見えるが、同じクラスになるとグリットが自分も部屋に閉じこもる経験があったことから放っておけないとぐいぐいベルに関わっていき、彼女を無理やり引っ立てて訓練に巻き込んでいく。ちなみにグリットが塞ぎ込む原因になったのはおそらく上述の事件で、各人の背景を反映させながら丁寧にイベントを作っていると感じた。ベルナデッタと他の仲間のエピソードだと、がさつで愚直なラファエルやセイロス教会の重鎮で厳格な教師のセテスも彼女とまったく相容れないように思える。しかし、料理が得意なことがよく食べるラファエルとの縁になり、絵を描くのが好きなことが寓話をしたためているセテスとの接点になって、最終的には結婚することが後日談で明かされる。ベルが料理と絵が好きなのも、セテスが寓話を書いているのも第一印象からはまったく想像できないことで、思いがけない一面を見られたようで嬉しくなったし、接点のなかった二人の運命が交わるところに立ち会えたようで何とも言えず感慨深かった。話が逸れるが、セテスの創作趣味についてはヒルダと打ち解けるきっかけにもなっていて、キャラの個性を丁寧に書いていることに感心した。
総じて、人が生きているのが実感される作り込みがされていると感じた。
残酷な仕打ちか、はたまた反戦のメッセージか
物語の終盤におけるある人物の言葉だが、作品の本質を言い表している。
任天堂のゲームはよく導線が丁寧だと言われるが、『風花雪月』のゲームデザインはこの言葉の通り、プレイヤーに仲間の人となりを知るよう誘導している。それはもう、執拗なくらいに。
仲間=ユニットを強化するためにはより強い職種へとクラスチェンジさせていくのが重要だ。クラスチェンジの資格試験に合格するためには剣・重装・信仰といった技能経験値を稼ぐ必要がある。技能経験値は個別指導を行うことで稼げるが、回数をこなすには生徒のやる気を上げてやらねばならない。やる気を上げるためには食事会を開いてその人の好物をふるまったり、贈り物で趣味嗜好に合ったものをプレゼントしたり、落とし物を誰のものなのか推察して届けてやったりする必要がある。
支援レベルは早い話がベレスと仲間または仲間同士の好感度で、ランクが上がると戦闘で近くに配置されているときに能力の補正を受けられる。戦闘で優位に立つためには数の有利に頼るのが定石だが、陣形を組んでいると自然とポイントが稼げるのでうまくサイクルが回るようになっている。また、支援レベルはやる気を上げる行動で同時に上昇するほか、お茶会での会話・悩み相談の投書で相手の性格を踏まえた返答をすることでも上げられる。よく出来ているのが、キャラクター愛の方面でも好循環が回るように設計されていること。前の項で少し書いたが、支援レベルが上がると支援会話という幕間のやりとりが解放されていき、ベレスや友人と関係が深まっていく様子が見られて、その中で好きなものや苦手なこと、思いがけない一面、隠していた事情などがわかるようになっている。支援会話はすべて見ることでエンディング後にペア後日談が発生する条件にもなっているので、ゲームを進めるうちに思い入れがどんどん深まっていくわけだ。
ことほどさように、仲間を強く育てて戦闘を優位に進めるためには、一人ひとりの趣味嗜好や人となりを知っていく必要があり、自然と頭の中に入ってくる設計になっている。
別の世界戦では敵将として討ち取った将軍にも、それぞれの過去があり、大切に思う家族や友人がいて、日常のちょっとした楽しみがあって、つまりは人格があって人生がある。自らの理想の下に挙兵して戦乱を起こす恐ろしい女にも、好きなスイーツがあれば声を上げるほど苦手な動物がいて、同年代の娘となんら変わらない一面がある。誰を敵に回しても貴方にだけは味方にいてほしい、頼りたいという好いた女がいる。この事実はプレイヤーの胸を抉りつけてきて、痛みはルートを踏破するたびに酷くなっていく。
プレイヤーはどこにも存在しない大団円のルート――三人の級長が額を突き合わせて談合し、価値観を徹底的にぶつけ合わせて妥協点を見つけ、手を取りあって真の黒幕を倒す――に思いを馳せる。……でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。そして、志半ばで敗れた者のことを悼み、犠牲を乗り越えて理想や大願を叶えた者たちが創り出す未来がよりよいものとなってくれることをただ願う。心の底から、一心不乱に。
神聖を冒涜する英雄
『風花雪月』は神話の背景も丁寧に作られている。神々が地上に降り立って人に知恵と力を与え、歴史の表舞台から姿を消すまでのことが本編へと密接に関わっている。世界観の神話的な奥行きも本作の魅力の一つだが、私が興味を惹かれたのは主人公のベレスとエーデルガルトの出自と神懸かりの力の由来だ。
※ネタバレあり
女神が母親と同胞を思うあまり手を出した反魂の儀式の結果と、女神と人に復讐を誓う勢力による人体実験の最高傑作。正邪の方向性こそ違えどどちらも非道な儀式の犠牲者である二人が出会って惹かれ合い、発現した禁忌の力で以て彼らを打ち倒して世界を新しい形に変えていく。その皮肉で倒錯した因果応報の構図と、文化英雄や親殺しの神話をなぞえらえた完成度の高さが同居していてめまいがした。私は『仮面ライダー』や『デビルマン』、百合ゲーで言うと『リリィナイト・サーガ』『魔法少女まどか☆マギカ』『魔法少女消耗戦線』などのように忌まわしい力で以て己の正義を貫く作品になぜか惹かれる。
※ネタバレおわり
いわゆる貴種流離譚では神に連なる高貴で正統な血筋や神の加護に神聖が宿るのだが、それとはまた違った英雄像が琴線に触れるのだと思う。
結構、楽しそうにゲームのシステムについて不満をもらす
細かい不満点はけっこうある。キャラの3Dモデルはよく出来ているが、モーションの使い回しが目につく(特に戦技や計略)。個別指導が単調なので、『モンスターファーム』の重仕事のようなハイリスクで複数パラメータに関るメニューがあればより育成計画が捗った。個別指導や教員研修の絵面があまりにもさびしいので、これまた『モンスターファーム』のようなミニキャラのアニメでもあればよかった(せっかくドットのアイコンがあるし)。アイテムの使用や交換が直感的にできなくてわずらわしい。グループ課題が変わり映えしない上に特定のユニットには恩恵が薄いので、もっとバリエーションがあって、生徒同士の適性が反映されるようなシナジーがあれば面白かった。飛行ユニットの地形を無視する特性が強すぎて、弓に弱い欠点程度では釣り合わない。逆に騎馬はすぐ移動が制限されるので明らかに不遇だ。落とし物について、コンセプトは理解できるが紛らわしくてなかなか当たらずイラっとするので、せめてDLCの特典である名簿のショートカットは標準搭載してほしかった。エトセトラエトセトラ。
しかしこれはゲーマーが『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の「ここがこうだったら」を永遠に語り続けるのと一緒で、『レベルE』にあった「ゲームにはまる兆候」に近い。好きだからこそ惜しく感じるのだろう。
その他もろもろ
ギャルゲーのグランドエンド論に通じるかもしれないが、あなたは本作をやって大団円のルートがほしいと思ったろうか? 私は「でも、そうはならなかった」上でどうするか、どうなるかというのがこの作品のキモだと思っているので、別にいらなかった。
なんでイングリットはベルナデッタともドロテアともメルセデスとも支援Aにならないんだ、バグでしょ。
エキスパンション・パス(DLC)はぜひとも導入してほしい。独立した番外編の煤闇の章は、露骨なレベリングができないデザインかつ本編のノーマルよりギリギリの難易度に調節されているため、最後まで緊張感があって手に汗握った。戦力も限られているので、本編ではあんまり使ってなかったリンハルトやアッシュに大車輪で働いてもらって、愛着が湧いたな。本編の追加要素だと、煤闇の章を6章までクリアするとアビスの生徒をスカウトできるようになるのと、落とし物でヒントが表示されて名簿のショートカットが追加されるのが大きいだろうか。前者は育てるキャラの選択肢が単純に増える上に既存のキャラとの新しい人間関係まで見られて楽しいし、後者は快適さが格段に上がる。ただし、煤闇の章の終盤にはベレスの出自に関わるネタバレががっつりとあるので、本編を1ルートは終わらせてからクリアするのをおすすめする。
ファイアーエムブレム 風花雪月|Nintendo Switch|任天堂

百合ゲーム レビュー・感想まとめ
シリーズ最高傑作の呼び声も高い
『ファイアーエムブレム 風花雪月』は任天堂の人気シミュレーションRPGシリーズの最新作で、メディアのレビューでも個人の感想でも非常に評価が高い。自分でもプレイしてみて、なるほど評判通りの名作だと思った。私は普段ノベルゲームばかりやっていてあまりこのジャンルをやらないのだが、有り体に言ってのめり込まされた。本作の魅力についてつらつらと書く。
シナリオはドラマチックな戦記として読ませてくる。本作は士官学校編と戦争編の二部で構成されていて、傭兵のベレスがガルグ=マク士官学校で教師を務めることになり、三つの国で分けられた三つのクラスの一つを担当することが全てのはじまりとなる。序盤は受け持った生徒と交流し、課題出撃やクラス対抗戦のグロンダーズ鷲獅子戦といった行事を通じて、教師とと生徒・指揮官と将校として信頼を高めていくさまが描かれる。平和な学園生活は、三国とセイロス教団からなるフォドラの均衡を崩そうとする謎の勢力の暗躍が明らかになっていくことで影を差し、ある国が宣戦布告することで破られる。文字通り国を分けての戦争の火蓋が切って落とされると、ベレスは担当していたクラスの国に身を寄せて、戦乱を鎮めるべく、王の悲願を達成すべく、彼女らを補佐してフォドラの統一を目指す。教え子を率いて大陸を跨ぐ攻防を指揮し、敵軍の将となった元生徒と鎬を削り、敵国の王たる元級長と雌雄を決することになる。スペクタクルな展開に引き込まれて、国と国・人と人・思想と理想がぶつかって火花を散らす壮絶さに引き込まれた。
マルチサイト・マルチシナリオのゲームとしてもなかなか完成度が高い。三つの国と三人の当主はそれぞれ掲げる大義も違えばフォドラを統一する目的も異なり、国が内包する権力争いや不穏分子の問題、王と側近が抱える内面の問題もさまざまだ。ルートが変わることで物語のカラーががらりと変わってくるので、陣営が変わるたびに新たな気持ちでプレイすることができた。また、一つのシナリオだけではすべての謎が解決せず、各陣営の視点で見えてくる真実を繋ぎ合わせることで初めて全景が見える構成になっていて、これもルートを踏破するモチベーションへと繋がっている。
戦略シミュレーションとしての難易度・やり応えも素晴らしい。かつての生徒や友人と刃鳴散らす場面の悲痛さや、世界の命運を決める会戦の高揚をゲーム的にも表現している。私が最初にプレイしたのは黒鷲の学級での紅花の章だったが、ギリギリの戦力で挑んだ最終戦は、徐々に悪化していく戦況に半べそをかかされた。どうにか全員を生存させつつ敵将に勝利したときは胸に迫るものがあった。
育成シミュレーションとしてのやりがいもよい。ユニットは戦闘を繰り返してレベルアップすることでも強くなるが、より能力を伸ばして強いスキルを身に付けさせるには、仲間一人ひとりに向き合いつつ手塩にかけて指導する必要がある。指導が実を結んで見違えるように強くなったときは達成感もひとしおだった。
長編のゲームでセリフが膨大にあるにも関わらず、フルボイスが実装されているのも凄い。人と人が交流して惹かれ合い、あるいは衝突してすれ違うことで生まれる喜怒哀楽・悲喜こもごもの声を、戦争で打ち倒された者の無念の叫びと大願を果たした者の勝ち鬨を、声優の熱演が盛り立てる。細かいところで好きなのが、一般の生徒やガルグマク・マク修道院で暮らす人々のセリフにもボイスが当てられているところ。学園編においては生活感や学園行事の盛り上がりが伝わってきて、戦争編では戦時下に暮らす市井の人々の陰鬱さやたくましさが等身大に感じられて、雰囲気を出していた。
劇伴が場面々々を盛り上げてくる。サウンドの表現がハードの性能とともに向上していて耳に楽しく、演出ではメインテーマのフレーズがさまざまな曲で顔を出すところがベタだが心に響いた。最終局面で流れる曲「この世界の頂で」にもあのフレーズが入っていて、ここに至るまでのことが走馬灯のように頭をよぎって感情が揺さぶられた。他には、日常曲が好きなので「ガルグ=マク大修道院の日常」や「女神の天秤」が好きだな。「交わらぬ道」は心拍数が嫌な感じで上がる。
このように、SRPGとしての美点は枚挙に暇がない。私がその中でも特に感銘を受けたのが、戦略シミュレーションとしてのユーザビリティ、人間関係と会話のパターン、導線の丁寧さだ。
圧倒的な遊びやすさ
戦略シミュレーションで、遊びやすいことは正義だ。
私が今まで遊んだ同ジャンルの作品は『うたわれるもの』『ドラゴンナイト4』『サクラ大戦』、そしてファイアーエムブレムでは『烈火の剣』くらいなのだが、性に合わない場面がかなり多かった。具体的に言うと、先制攻撃を喰らわないために敵ユニットに一つ一つカーソルを合わせて攻撃範囲を確認するのが手間(しかも揮発性の脳みそなので覚えられない)。攻撃範囲のチェック漏れや操作ミスで敵から一方的に攻撃されるのが嫌。戦力の見誤りや理不尽な増援・不意打ちによってユニットのロストや詰みが発生してリセットしたときの戻し作業が苦痛、といったことだ。要するにキャラクターを直感的に動かせないゲームが苦手なんだと思う。
『風花雪月』はこういったわずらわしさやもどかしさを可能な限り取っ払っていて感心した。敵の移動・攻撃範囲は危険範囲またはターゲットの放物線として表示できるので、防御に不安のあるユニットでもスムーズに移動させられる。戦力の見定めについては、攻撃を仕掛ける前に戦闘の結果予測が表示されるので、無謀な戦いで返り討ちにあって自分にイラつくこともない。致命的なミスについては「天刻の拍動」という回数制限の救済システムで盤面を巻き戻すことができ、しかも一手単位で細かく指定できるという至れり尽くせりぶりだ。ちなみにこの運命や因果律に干渉する能力は設定として主人公の出自に関わっていて、よく考えられている。また、戻し作業や周回プレイについては、戦闘をアニメーションの省略や自動戦闘・AIのスキップで段階的に高速化できるのでほとんど苦にならない。ハードの性能向上を何とも有意義に使ってくれている。
こういったユーザビリティが整えられていることが、ユーザー層を超えた支持に繋がったのは間違いないだろう。戦略SLGが苦手な人やあまり経験がない人にこそやってもらいたい作品だ。このジャンルをやり込んでいる人にとっては多少ぬるいかもしれないが、各々で縛りを科すなり難易度を上げるなりして対応できる範囲だと感じた。
会話と後日談のパターンが尋常じゃない
会話のボリュームがとんでもない。『烈火の剣』を遊んだ時に物足りなかったのが、仲間がこちらの陣営に入ったあとはセリフがほぼなく、戦闘面での活躍でしか個性が発揮されないことだった。支援会話をあまり発生させなかった自分も悪いのだが、いまいちシステムを把握できなかったのは導線の問題もあると思う。『風花雪月』は散策で仲間全員と会話できるのがとてもありがたかったし、毎月のシナリオの進行に合わせて内容が変わっていく作り込みが素晴らしかった。学園編では単なる雑談から行事への意気込み、クラスメイトや教師に対する人物評などを聞けるのが楽しかったし、戦争編では戦局への意見や戦いの行く末、終戦後のあるべき未来について意見を言ってくれるのが嬉しかった。新任教師として右も左もわからないところから始まり、話しかけるうちに生徒の顔と名前が一致してきて人物像も掴めてくる。戦端が開かれたのちは、戦いに身を置くことへの実直な想いを聞かせてくれて、共に過酷な戦禍を生き抜いている実感が湧いてくる。そら愛着も湧きますわ。他に細かいところでは、他の学級からスカウトした生徒にも、そのシチュエーションに沿ったセリフがちゃんと用意されているのもよかった。自分のプレイでよく覚えているのは、青獅子の学級にスカウトしたリシテアが、ある人物の様相とこの国の行く末を憂いてずっと苦言を呈していたことだな……(笑)。あの人の目が覚めてからは希望を持ってくれたのが嬉しかったのをよく覚えている。
加えて、散策での活動、支援会話、後日談などにおけるペアのレパートリーが執拗なまでに作りこまれていてびびってしまった。以下、この段落は若干のネタバレが続く。
食事やグループ課題などの二人の仲間を指名するイベントでは、特に関係性が強いペアには汎用ではない専用の会話が用意されている。しかも支援レベル(好感度)によって内容が変化するという手の込みようだ。『風花雪月』のカップリングの中でもヒルマリ(ヒルダとマリアンヌ)がとりわけ人気なのは、専用会話の影響もあってのことだろう。
関係の深いペアには戦争編で対立したときにも専用のセリフが用意されている。私のプレイ体験で語ると、初回の黒鷲の学級のルートでは他のクラスの人間関係までは把握しきれておらず、単純な見た目のよさで青獅子の学級のイングリットをスカウトした。物語の後半でファーガス神聖王国と接敵したさい、特に意識せずグリットをシルヴァンに攻撃させたが、物悲しいやりとりが挿まれてびっくりした。この時点ではそこまで罪の意識はなかったのだが、次に青獅子の学級を担当したときに、彼らが長い付き合いの幼馴染であり、悲惨な事件で共通の親しい人を亡くしていたことを知り、下っ腹がずーんと重くなった。
また、人間関係は基本的にクラスの中で形成されているが、他の陣営から人をスカウトすることで思わぬ繋がりが生まれてくるのも面白かった。例えば、極度の人見知りで引きこもりのベルナデッタと誇り高い騎士を目指すイングリットの二人は、クラスが別で何一つ接点がないように見えるが、同じクラスになるとグリットが自分も部屋に閉じこもる経験があったことから放っておけないとぐいぐいベルに関わっていき、彼女を無理やり引っ立てて訓練に巻き込んでいく。ちなみにグリットが塞ぎ込む原因になったのはおそらく上述の事件で、各人の背景を反映させながら丁寧にイベントを作っていると感じた。ベルナデッタと他の仲間のエピソードだと、がさつで愚直なラファエルやセイロス教会の重鎮で厳格な教師のセテスも彼女とまったく相容れないように思える。しかし、料理が得意なことがよく食べるラファエルとの縁になり、絵を描くのが好きなことが寓話をしたためているセテスとの接点になって、最終的には結婚することが後日談で明かされる。ベルが料理と絵が好きなのも、セテスが寓話を書いているのも第一印象からはまったく想像できないことで、思いがけない一面を見られたようで嬉しくなったし、接点のなかった二人の運命が交わるところに立ち会えたようで何とも言えず感慨深かった。話が逸れるが、セテスの創作趣味についてはヒルダと打ち解けるきっかけにもなっていて、キャラの個性を丁寧に書いていることに感心した。
総じて、人が生きているのが実感される作り込みがされていると感じた。
残酷な仕打ちか、はたまた反戦のメッセージか
ずっと……どうして他の国と同じ
士官学校で勉強するのか疑問だったんです。
でも、やっとその意味を
理解できたような気がします。
他の国の人たちのことを知れば知るほど、
戦争なんて、したくなくなりますから。
物語の終盤におけるある人物の言葉だが、作品の本質を言い表している。
任天堂のゲームはよく導線が丁寧だと言われるが、『風花雪月』のゲームデザインはこの言葉の通り、プレイヤーに仲間の人となりを知るよう誘導している。それはもう、執拗なくらいに。
仲間=ユニットを強化するためにはより強い職種へとクラスチェンジさせていくのが重要だ。クラスチェンジの資格試験に合格するためには剣・重装・信仰といった技能経験値を稼ぐ必要がある。技能経験値は個別指導を行うことで稼げるが、回数をこなすには生徒のやる気を上げてやらねばならない。やる気を上げるためには食事会を開いてその人の好物をふるまったり、贈り物で趣味嗜好に合ったものをプレゼントしたり、落とし物を誰のものなのか推察して届けてやったりする必要がある。
支援レベルは早い話がベレスと仲間または仲間同士の好感度で、ランクが上がると戦闘で近くに配置されているときに能力の補正を受けられる。戦闘で優位に立つためには数の有利に頼るのが定石だが、陣形を組んでいると自然とポイントが稼げるのでうまくサイクルが回るようになっている。また、支援レベルはやる気を上げる行動で同時に上昇するほか、お茶会での会話・悩み相談の投書で相手の性格を踏まえた返答をすることでも上げられる。よく出来ているのが、キャラクター愛の方面でも好循環が回るように設計されていること。前の項で少し書いたが、支援レベルが上がると支援会話という幕間のやりとりが解放されていき、ベレスや友人と関係が深まっていく様子が見られて、その中で好きなものや苦手なこと、思いがけない一面、隠していた事情などがわかるようになっている。支援会話はすべて見ることでエンディング後にペア後日談が発生する条件にもなっているので、ゲームを進めるうちに思い入れがどんどん深まっていくわけだ。
ことほどさように、仲間を強く育てて戦闘を優位に進めるためには、一人ひとりの趣味嗜好や人となりを知っていく必要があり、自然と頭の中に入ってくる設計になっている。
別の世界戦では敵将として討ち取った将軍にも、それぞれの過去があり、大切に思う家族や友人がいて、日常のちょっとした楽しみがあって、つまりは人格があって人生がある。自らの理想の下に挙兵して戦乱を起こす恐ろしい女にも、好きなスイーツがあれば声を上げるほど苦手な動物がいて、同年代の娘となんら変わらない一面がある。誰を敵に回しても貴方にだけは味方にいてほしい、頼りたいという好いた女がいる。この事実はプレイヤーの胸を抉りつけてきて、痛みはルートを踏破するたびに酷くなっていく。
プレイヤーはどこにも存在しない大団円のルート――三人の級長が額を突き合わせて談合し、価値観を徹底的にぶつけ合わせて妥協点を見つけ、手を取りあって真の黒幕を倒す――に思いを馳せる。……でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。そして、志半ばで敗れた者のことを悼み、犠牲を乗り越えて理想や大願を叶えた者たちが創り出す未来がよりよいものとなってくれることをただ願う。心の底から、一心不乱に。
神聖を冒涜する英雄
『風花雪月』は神話の背景も丁寧に作られている。神々が地上に降り立って人に知恵と力を与え、歴史の表舞台から姿を消すまでのことが本編へと密接に関わっている。世界観の神話的な奥行きも本作の魅力の一つだが、私が興味を惹かれたのは主人公のベレスとエーデルガルトの出自と神懸かりの力の由来だ。
※ネタバレあり
女神が母親と同胞を思うあまり手を出した反魂の儀式の結果と、女神と人に復讐を誓う勢力による人体実験の最高傑作。正邪の方向性こそ違えどどちらも非道な儀式の犠牲者である二人が出会って惹かれ合い、発現した禁忌の力で以て彼らを打ち倒して世界を新しい形に変えていく。その皮肉で倒錯した因果応報の構図と、文化英雄や親殺しの神話をなぞえらえた完成度の高さが同居していてめまいがした。私は『仮面ライダー』や『デビルマン』、百合ゲーで言うと『リリィナイト・サーガ』『魔法少女まどか☆マギカ』『魔法少女消耗戦線』などのように忌まわしい力で以て己の正義を貫く作品になぜか惹かれる。
※ネタバレおわり
いわゆる貴種流離譚では神に連なる高貴で正統な血筋や神の加護に神聖が宿るのだが、それとはまた違った英雄像が琴線に触れるのだと思う。
結構、楽しそうにゲームのシステムについて不満をもらす
細かい不満点はけっこうある。キャラの3Dモデルはよく出来ているが、モーションの使い回しが目につく(特に戦技や計略)。個別指導が単調なので、『モンスターファーム』の重仕事のようなハイリスクで複数パラメータに関るメニューがあればより育成計画が捗った。個別指導や教員研修の絵面があまりにもさびしいので、これまた『モンスターファーム』のようなミニキャラのアニメでもあればよかった(せっかくドットのアイコンがあるし)。アイテムの使用や交換が直感的にできなくてわずらわしい。グループ課題が変わり映えしない上に特定のユニットには恩恵が薄いので、もっとバリエーションがあって、生徒同士の適性が反映されるようなシナジーがあれば面白かった。飛行ユニットの地形を無視する特性が強すぎて、弓に弱い欠点程度では釣り合わない。逆に騎馬はすぐ移動が制限されるので明らかに不遇だ。落とし物について、コンセプトは理解できるが紛らわしくてなかなか当たらずイラっとするので、せめてDLCの特典である名簿のショートカットは標準搭載してほしかった。エトセトラエトセトラ。
しかしこれはゲーマーが『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の「ここがこうだったら」を永遠に語り続けるのと一緒で、『レベルE』にあった「ゲームにはまる兆候」に近い。好きだからこそ惜しく感じるのだろう。
その他もろもろ
ギャルゲーのグランドエンド論に通じるかもしれないが、あなたは本作をやって大団円のルートがほしいと思ったろうか? 私は「でも、そうはならなかった」上でどうするか、どうなるかというのがこの作品のキモだと思っているので、別にいらなかった。
エキスパンション・パス(DLC)はぜひとも導入してほしい。独立した番外編の煤闇の章は、露骨なレベリングができないデザインかつ本編のノーマルよりギリギリの難易度に調節されているため、最後まで緊張感があって手に汗握った。戦力も限られているので、本編ではあんまり使ってなかったリンハルトやアッシュに大車輪で働いてもらって、愛着が湧いたな。本編の追加要素だと、煤闇の章を6章までクリアするとアビスの生徒をスカウトできるようになるのと、落とし物でヒントが表示されて名簿のショートカットが追加されるのが大きいだろうか。前者は育てるキャラの選択肢が単純に増える上に既存のキャラとの新しい人間関係まで見られて楽しいし、後者は快適さが格段に上がる。ただし、煤闇の章の終盤にはベレスの出自に関わるネタバレががっつりとあるので、本編を1ルートは終わらせてからクリアするのをおすすめする。
ファイアーエムブレム 風花雪月|Nintendo Switch|任天堂

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