白衣性愛情依存症 感想 散漫とっちらかっぷりはさらに悪化 

まず作品全体の構成について。出自が不明な主人公がヒロインとの距離を縮めていくうちに彼女の心の裡と多層的な謎が明らかになる、という構成は一般的なシナリオゲームのそれに近く、前作に比べて作品を通しての読み応えは微増していた。一方で、タイトルにもある白衣……看護については真面目に向き合うのはほんの序盤だけで、前作ではいくらか冗長ですらあった描写はなおざりもいいところになっている。シナリオの比重は前述した過去の謎の解明に移っているのだが、謎の研究施設、謎の人体実験、謎の超能力、謎の人格憑依といった設定はかなり突拍子がなく、バックボーンは説得力があんまりない。一つまた一つと謎が解けていくさまはそれなりに楽しいのだが、その謎に引きずられる形で作品の芯はますます不明瞭になっていて、終わってみたら何について書かれた作品だったのかよくわからなくなること必至。
前作から継承された要素としては、ショッキングなゴシップの要素がある。不倫に始まり薬物洗脳、果てはカニバリズムやネクロフィリアまでよりどりみどり、全年齢対象でやりもやったりだ。しかし、キワモノエンドが各ヒロインに1個ずつご丁寧に用意されているさまはまるで営業ノルマをこなしているかのようであり、分岐もバッドエンド前の選択肢で決まるお手軽さなので、上滑りがさらに酷いことになっている。悲劇に対する美学もこだわりもまったく感じられず、「ゆるふわ萌えゲーと思わせてショックを与えちゃる!」という下心はこれまで以上に明け透けだった。けっこう鼻についた。このおやつ感覚の鬱要素が作風の乱れに拍車を掛けているのは言うまでもない。
シナリオ担当の向坂氷緒について。過去作『384, 403km―あなたを月にさらったら』はHライトノベルとして割と楽しく読んだのだが、この作品は才気がさっぱり感じられなかった。せいぜいクラゲ(部部長)や星(をおうひと)というモチーフの落とし込みに片鱗の切れっぱしくらいが見えた程度だ。
テキストは、主人公の頭のゆるさに呼応するように前作よりさらにゆるくなっていて、単刀直入に言うと幼稚だった。ますますターゲットの年齢層がわからなくなる。中には
なんで今日になって、
すとーかーさん(←やわらか表現)
みたいな真似を?
びゅうう、ってそれに風も出てきて、
なんだか不穏な感じのする空、天気だった。
わたし、えっへん。
「うう…………(ずーんorz)」
といったあまりにも頭の悪い文章があったが、サブライターの仕事であってほしいな。
これならまだ、共通ルートに限れば看護の仕事と人の生き死にに真剣に向き合っていた前作のほうが多少なりとも訴えてくるものがあった。作品としての出来はどっちもどっちで、どちらもあんまりお勧めできない。
白衣性愛情依存症 - 工画堂スタジオ
