ことのはアムリラート 感想 ろくな衝突もない異文化交流、展開に動かされるキャラクター 

超展開百合ゲーの雄、J-MENTによる異世界・異言語ファンタジーです。私は過去作『Volume7』『ひとりのクオリア』『ふたりのクオリア』の出来にげんなりしていたので、今作はかなり期待値を低く設定していたのですが、そこは越えない出来でした。
まるで成長していない……と思ったのは、あまりにも掴みの弱い導入部です。思ったんですが、この人の作品って常にシチュエーションありきなんですよね。『クロスクオリア』では「引きこもりとまめまめしく世話を焼く子のほのぼの同棲生活」「イケメンのヒモと彼女にかどわかされる女学生の刺激的な同棲生活」、本作では「言葉が異なる少女たちのドキドキ同棲生活」といった設定がまずあって、その枠にキャラクターが押し込められているとしか感じられないのです。そこに至るまでの過程や、キャラクターの想い、バックグラウンドはろくすっぽ描写されません。初っぱなの掴みが弱すぎるから、その後のドラマに訴求力が生まれないんですよ。今作でも、主人公のタヌキさんはいきなり異世界に放り出されて、知人もいない、言葉も通じないという状況に困惑して絶望するのかと思い気や、とんとん拍子にウサギさんに拾われて同棲生活に順応し、あっという間にお風呂場でラッキースケベに出くわすといったあんばいです。私はこの時点で気が遠くなりましたが、気付いたときにはウサギさんのボディをおさわりしながらのムフフな単語学習をさせてもらっている有様で、例のごとく置いてけぼりにされていました。
ときにこの主人公、あまりにも背景が薄っぺらくないですか? ときどき思い出したように描写が希薄な回想が差し込まれるものの、この人が物語の開始以前にどんな人生を送ってきたのか全然イメージできなかったのですが。酷い言葉ですが、作者がドキドキ同棲生活を送らせるためだけに創り出したコマのようでした。
主人公が迷い込む異世界もかなり不気味です。元の世界と鏡写しの世界
逆にいくらか改善されていると思ったのは、同棲生活のホストになるウサギさんに納得のいく動機付けをさせているところです。実はウサギさんもタヌキさんと同じく元訪問者で、同じように困り果てていたところをフクロウさんに保護された経験があるため、自身も彼女の立場になって人を助けたかったというのは、とても共感できて好感が持てました。もっともこの事実が明かされるのはほとんど終盤に入ってからなので、物語を牽引しているかというとこれぽっちもしていないのですが。また、タヌキさんがウサギさんにより強く想いを伝えるために言語の勉強に打ち込む姿勢はグッときました。上に書いた通り、なんでこの状況で平然と勉強してるの? 元の世界に戻る方法は調べないの? とはずっと思ってましたが。あと、訪問者の先輩であり、辛い別れを経験しているフクロウさんが二人に託す想いも泣かせました。フクロウさんは既に自身の物語が完結していて一歩引いた立場にいるので、頓珍漢な展開に巻き込まれて人間性を失うことがなかったのがよかったです。
それにしても、クライマックスの展開があまりにも投げやりであ然としてしまいました。異世界ものにおいて、主人公は今の世界に留まるのか、元の世界に戻るべきなのか? パートナーないし周囲の人間は引き留めるのか、送り出すべきなのか? それは永遠の命題でしょう。しかし、主人公の元いた世界や残してきた人に対する思いが真っ当に描写されていないのに、帰る帰らないで悩んでぐだぐだと引っ張られても興醒めするだけです。同様に、どう見てもヒロインと主人公の思いが通じ合っていて、かつ元の世界に帰すことに妥当性や緊急性が見受けられないのに、相手が主人公を送りだそうと躍起になられても「は? なんでなん?」としか思えません。話の都合のためにキャラクターを動かさないでください。悲劇を演出するためにキャラクターの人間性を踏みにじらないでください。あまりにも当たり前のことなので、口にしていてこっ恥ずかしいです。
ちょっと前に『SHOW BY ROCK!!』を見たときにも思ったことですが、主人公に占める元の世界のウェイトがあまりに希薄なら、どうして帰る必要があるんですかね? そらあ現地妻のいる異世界に残るっしょとしか思えないんですが。読み手にそう思わせてしまう時点で、筋運びやバックボーンの構築に失敗しているのは明らかでしょう。
あとは、予算の都合なのかもしれませんが、原画にしろグラフィックにしろサウンドにしろボーカル曲にしろ、過去作に比べて大幅にグレードダウンしているのは残念でした。特に立ち絵、主要登場人物が三人しかいないのに基本ポーズのパターンすらないのはあんまりじゃあないでしょうか。みみっちさを感じるだけでなく、視覚的に情感を乏しくしています。あと、女性陣のの顔がサリーちゃんのよし子ちゃんみたいなナスビ顔で可愛くない……。予算がないならないで切り捨てるものを見極めるべきであり、そうなると真っ先にぶった切るべきなのはあの
あの勉強システムが「しょうもない」としか思えなくて、やらされてる感、ぼくの調べ物大発表会・ノートの設定披露宴に参加させられている感が強いのは、言語学習の進度と二人の思いの深度がほとんどリンクしていないからでしょう。二人のお互いに対する好感度は、異世界に転生した「小説家になろう」の主人公のごとく、最初からカンストしているようにしか見えませんでした。だから同棲生活の行く末にもあんまり興味が持てないわけで。私はあくまで物語の展開、キャラクターの人間性に興味があるのであって、作者が考えた設定のお勉強をさせられたいわけではありません。
他によかったのは、単語や文法が分かってくることでテキストが変化し、物語の解像度が上がっていくあざやかな演出くらいでしょうか。全般的に疑問符が残る出来で、ラストはいくらなんでもひどいと思いました。ファンの方はあれで納得できたのでしょうか。
結局、この作品が抱える問題の大元を辿っていくと、「言葉を勉強しながらのイチャイチャ同棲生活♪」というシチュエーションありきの姿勢に行き着くと思います。
ことのはアムリラート - sukerasparo

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