リコリス・リコイル 感想 「設定」をまんま出すな、世界観と人物像を創ってくれ 

私の『リコリス・リコイル』に対する不満点を要約する。
「設定」だけ作って「世界観」「キャラクター」にまで擦り合わせしていない
人物が同様のミスを繰り返す
人物が感情移入を拒む(「設定」が一人歩きしている、倫理観がおかしい)
真島がジャマ!!
粗の数が臨界点を超えていて、突っ込みモードに入ってしまう
「設定」を「世界観」「キャラクター」にまで昇華していない
『リコリコ』の設定がずさんで、展開と登場人物の行動に突っ込みどころが多いという意見はだいたい一致するだろう。制作陣は、思い思いの「設定」を作るところで終わっていて、ちゃんとした「世界観」にまで創り込んでいないと思う。
例えば、リコリスの根本設定だ。「制服を着た女子の秘密部隊があって、日本の治安を陰から守っている」というカッコいい設定だけ作って終わっていないか? 女子学生の姿は通学時間帯の駅や通学経路に限れば目立たないかもしれないが、逆にそこ以外では不自然だろう。じっさいに5話、深夜の街で名無しのリコリスが真島の部下をトコトコ追いかけるところはあまりにもおマヌケな絵面だった。かたくなに衣装を買えないのはビジュアル面やキャラクタービジネスの関係かもしれないが、それならそれであの衣装にオーバーテクノロジーの身体強化機能があるとか、疑問点を和らげる補足をするべきだろう。
例えば、スーパーコンピューターと戸籍のない孤児を使った組織的な諜報で犯罪を予防するDAの設定だ。前述の通り、女学生が目立たないのは本当に限定的な暗殺任務だけで、4話の地下鉄戦のようなアサルトに引き連れていくのは何の合理性もない。とりあえずかわいい女の子を戦わせたいという制作の都合がまずあって、疑問を解消する補完の設定が一切ない。『GUNSLINGER GIRL』は、改造や洗脳はなるべく若い方がよいと言い訳していたし、『魔法少女まどか☆マギカ』だって、第二次性徴期の少女の希望と絶望の相転移がエネルギー効率がよいと説明していた。納得できるかはさておき、視聴者を説得させようという努力はあった。
例えば、才能のある者を支援するアラン機関の設定だ。吉松が「機関が支援する才能は神のギフトだ、選ぶことなどできない、生まれながらに役割が示されている」としたり顔で語っていたが、こんなのは設定というか走り書きでしかなくて、この組織がどのような稟議のプロセスで人の才能を決めているのかイメージがさっぱり湧かなった。そこに恣意的な意見は介在しないのか、神の意志は誰が決めているのか。千束だって、卓球や女子ボクシングの才能でもよかったのではないか? マネタイズは、成功した実業家やスポーツ選手が寄付しているとして、教義のために国際的なテロリストの真島を支援するという反社会に手を染めている組織がどうやって公安やらの目を逃れて存続しているのかまったく理解できない。よりにもよって、ラジアータのようなコンピューターが存在する世界観にも関わらず、だ。
『リコリコ』のほぼ全編に対する印象だが、まず設定ありき、一度決めた設定ありきで、それをお話の中で動かしたときの絵面や妥当性をろくに検討していないのではないだろうか。制作陣はもっと、脚本家の間での擦り合わせ、イメージボードの共有などをするべきだったのでは。
同様のミスを繰り返す
脚本のいいかげんさを助長している点がもう一つ、組織と登場人物が同様のミスを何も学習せずに繰り返すところだ。
千束に不殺の考えがあるのは別にいいが、真島をちゃんと鎮圧・無力化をしないところは正直言ってイライラさせられた。奴を再起不能にするチャンスは少なくとも2回はあっただろう。特に12話については、真島の兄貴が異常な聴覚が能力の鍵だとわざわざ得意気に教えてくれたんだから、メインカメラの鼓膜は破壊しておけよ。同じヘマを繰り返す主人公らの不手際が際立つし、お目こぼしされただけの悪役が「よ~う♪」とか格好つけてるのを見ていると乾いた笑いが出てきてしまう。真島さんをこの後も活躍させようという制作者の都合で、双方に悪い印象を与えている。
設定のガバガバに拍車を掛けているのは、登場人物がそのずさんさを突かれて致命的なダメージを受けるところが執拗に描写されるからだ。なんで、真島がリコリスの制服をターゲットにしているとわかっているのにDAは頑なに衣装を変えないのか? 囮にしていると言ったって、何の成果も得られないのでは間抜けでしかないのでは?
人物が感情移入を拒む
私は特に、物語後半の千束に共感できなかった。序盤でもところどころ倫理観がおかしいところあったが、後半の所作は理解を拒絶していてしんどかった。不殺の信念があるらしく、命を粗末にする奴は嫌いだと啖呵を切っていたけれど、これを話(制作陣)の都合で出したり引っ込めたりするから人物像がよくわからなくなる。あなたがコーヒーを飲みかわしてジュースを回し飲みして、映画談義に花を咲かせている相手は、あなたの好きな風景や周りの人々を破壊しようと画策しているんだけど。てめぇの勝手な屁理屈のために警察署を襲撃して、無辜の人を皆殺しにしてるんだけど。あなたのお店の顔なじみにも警察官がいなかったっけ? じっさい、リコリスの後輩は何人も殺されているし、サクラは重傷を負わされている。フキやたきなも殺されていてもまったくおかしくなかった。繰り返しになるが、悪人相手にストレスを感じたくない、守るのは手の届く範囲の人だけ(『るろうに剣心』はこういった落としどころだった)というならそれを尊重するけれど、明らかな危険分子を無力化して以後の脅威を取り除く機会が何度も何度もあったのにそれをしないのは、かなり自分の肌感覚からずれていた。
私は割と潔癖というかナイーブで、『HUNTER×HUNTER』でも一般人相手にイキリ散らかす幻影旅団と談笑するところが好きじゃないのは付け加えておく。『ドラゴンボール』だとベジータが家族や悟天を守るためにブウへ自爆特攻したあたりで、これでようやく禊かなと思うタイプの人間だ。
真島がジャマ!!
間に挟まる男を許さない百合厨と思われてもいいけど、この小者が終始出張りまくって幼稚な演説を開陳してくるところでかなり評価を下げた。どのあたりが邪魔くさいかは、同様のミスの繰り返し、感情移入の拒否の項目でおおよそ書いた。何というか、制作陣が想定していると思しい、悪のカリスマ・ダークヒーロー・ジョーカー・もう一つの正義みたいな真島さん像と、私の中での、クズの人殺し・手前勝手でブレブレな理屈で気持ちよくなりたいだけのしつこいオッサンという印象が、かなり乖離しているように感じる。
真島さんを主人公のライバルとしてカッコよく活躍させるために、登場人物がことごとく愚かになって倫理観がぶっ壊れてしまったのか。それとも、ガバガバな設定と行動が真島をのさばらせたのか。それは卵と鶏の話でしかないだろうか。
粗の数が限界を超えている
その他、細かい難点はいくらでも挙げられる。
振り返ってみると、最初から最後まで真島の一派と吉松の差し金と延々戦っていて、世界が恐ろしく狭く感じた。登場人物の私的な情動に世界が振り回される、非常に幼い作風に拍車を掛けていた。
そもそも4話の地下鉄戦は、不穏分子の存在がつかめていて乗客も排除できていたなら、毒ガスか爆弾でも積んでおけば話が早かったのではないか。なんでご丁寧にリコリスをずらずら並べて、しかもハンドガンで銃撃戦をやったんだろうか。
ミズキはもっと元情報部らしい活躍や、疑似家族の姉らしい役割は持てなかったんだろうか。独身弄りだけは念入りに入れてあって、ふた昔前くらいのノリで悲しかった。
ロボ太くん、彼にはもう少しパーソナリティとかないのだろうか。「打倒ウォールナットを目指しているハッカー、真島に協力させられる」という設定で動く、文字通りのロボにしか思えなかった。脅されているとはいえ、国家転覆の犯罪に加担している覚悟があるようにはとんと見えなかった。
人は、好きな作品の瑕疵についてはそっと目をつむることができる。しかし、難点があまりにも多すぎて臨界点を超えると、終始揚げ足取りのモードに入ってしまう。『リコリコ』はよかった探し、加点方式での評価も難しい完成度だと思った。
よかったところ
『リコリコ』のよかったところも書いていく。
この作品が百合TLでも話題になったところだが、3話の「私は君と逢えて嬉しい、嬉しい、嬉しい」のくだりは素晴らしかった。噴水のあるエントランスというロケーションがまずよい。千束の台詞は文語のような直接的な言葉だが、これはこれでストレートに想いを伝えていて尊い。ただ、ここも「リコリスはみんな好きだもんね、ここ」という話が急に生えてくるので、1話でたきながDAを追いやられるときにこの噴水の前で立ち尽くす1カットでもあればなぁ、と思わんでもなかった。あとは、行きの電車では向かい合わせで座ってたのが帰りでは隣になっているのもよい。二人の距離が縮まったのを何より説得力のある映像で表現していた。
銃器の描写やガンアクションも、ガバい箇所はあるにせよ絵になるところもあった。私が好きなのは千束の銃の撃ち方だ。非殺傷弾なので弾道が安定しないのを補うために、身体からあまり離さず腰だめに撃つ、視線に寄せて構える(C.A.R.システムと呼ぶのはこの作品で知った)。この辺りはきっちり考証したのだろう、妥当性もあって絵面も格好よかった。これも、5話でいきなり千束が空中に踊り出して、落ちながらバンバン撃ち始めておったまげてしまったが。あそこはリアリティラインがぐらぐら崩れる音がした。スゲェ、あの姉ちゃん、落ちながら戦ってる……。リアリティの話は6話で滅茶苦茶になり、もっと肩の力を抜いて見る作品だと期待値を下げた。
ファッションについては、リコリスの制服のデザインは素晴らしかった。AKBの衣装のようで、シンプルに目を引くかわいさだ。そして、この作品が基にしている『GUNSLINGER GIRL』は子どもに対する搾取に対するクリティシズムがあったが、搾取の総本山のようなAKBを引用してくるセンスを買いたい。オープニングでも、サビ部分の映像はまるで坂道系アイドル曲のPVのようで、かっちりと決まっていた。しかし、子どもを使い潰す社会構造に対する批判は本編でされるものかと思っていたが……別にそんなものはなかったぜ!
登場人物の動機にケチをつけ通しだったが、私が一番感情移入できたのはたきなだった。理由は言うまでもなく、恩人である千束のために頑張るところがけなげで応援したくなるからだ。喫茶リコリコが千束にとって大切な場所だとわかったから、どうにか軌道に乗せるべく経営を改善してメニューも考案する。千束が遊びの楽しさを教えてくれたから、自分も彼女を楽しませたくてあり合わせの知識でがんばってデートプランを練る(千束も、それがわかっているからタイマーに追われるせわしなさでも嬉しそうにしている)。千束の命を救うために戦う。わかりやすくてよい。何のかんの言ったところで、物語を動かして読者を引き付けるのは行動原理だ。
好きな話は3話や8話かな。主な理由は、直前で書いたとおりたきなを応援したかったからだ。3話については千束もよかった。たきなの名誉を取り戻すために戦っている姿は、主人公の佇まいだった。
まとめ
佳作と呼ぶには完成度に難がありすぎる。光るところもあるトンチキ百合アニメだった。
設定がガバガバ、同じヘマの繰り返し、倫理観がおかしい、真島がジャマ。これらの問題は整理してみると同じ根っこだった。
オリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト
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