魔法少女消耗戦線 another record -ちいさきものたちのゆめ- 感想 月生まれは義理堅いんですのよ、それはそれは残酷な話ですわ 

本編の補完については、くどくどしいものやしょうもないものもかなりあったが、「アリシャ・オラオンは死んだ」がとにかく素晴らしかった。私は本編の感想でこんな不満を書いていたが……。
逆に明らかに欠点と言えるのは、構想に対して立ち絵やCG、ボイスといった物量が明らかに足りていないところだ。同室の三人以外の特殊戦技兵にもネームドのキャラはけっこういて、面白そうな人(赤毛のマーマ、マーマの人など)も多かったのだが、ボイスも立ち絵も実装されていなくて寂しかった。ビジュアル面でも脚本の面でも肉付けされていれば思い入れもぜんぜん違っただろう(その分しんどみが深まるが)。
(魔法少女消耗戦線 DeadΩAegis 感想 大団円で泣かせてくる始末の悪い感動ポルノ(誤用))
……それにピンズドで応えるようなエピソードだった。短編ながらキャラを立たせてやり取りを際立たせるのが抜群にうまかった。語彙力を無くすと、アリシャとキバキの面はゆい距離感が好き。シガーキスのところが好き。八月第侵攻の前にお互いの最後について約束して、それが錯綜して果たされるのが好き。
なぜかアリシャは、その男がうらやましかった。
アリシャは、ちょっとつまらなかった。
文学的で好き。
「タバコ、輪っか、ライター、むらさきのけむり、
きれいにできる、うらやましい、唯一の、
彼女は、並んでいたい、ずっとずっとずっとずっと!」
疑似脳の中で、ちぎれた記憶が一斉に輝く。
それは何かあたたかく、何より貴重で、
ささやかで、しあわせで、かえがたい。
それは今までのアリシャ・オラオンという存在の経験の中で、
一番価値のあるものだった。
素体13をどうしようもなく引きつける存在。
それはひとりの特殊戦技兵だった。
特殊戦技兵のなかのひとりではない。
ここも好き。つらい。
そうね。そうね。
なにもかもきづくのがおそすぎた。
もっとふみこんで、もっとちかづいて、
そうしていたら、なにかちがっていたのかもしれない。
キバキのこともそうだが、もし同室の二人と腹を割って話して、愚痴って、お互いの人生を知る機会でもあったら……と考えずにはいられない。
あと、人気投票でのリゼットとの絡み、このお話とでどんどんかわいくされていく死体アリシャに笑った。
「續・月軌道会戦」、黒幕であるキルケの視点で時系列に沿って事象を整理すると、事態があそこまで悪化した要因はリゼット・キルケ・お嬢(+キニスン指令)の分断にあるのがよくわかる。なので、この作品で真の邪悪と間違いなく断じられるのはキャラハン、もとい彼に象徴される搾取の構図なんだよな。これは本編のメッセージ性に綺麗に繋がっていて感心した。んで、「熱の檻」でも書かれていてたが、そんな救いようのない人間の屑でも、知ってみれば生活があって、なけなしの人間らしさや愛嬌みたいなものがあるのが、却っておぞましくて吐き気を催す。こういうところはつくづく悪趣味だと思った。
「ちいさきものたちのゆめ」は本編の第3ルートとも言うべき大ボリュームのIFストーリーで、社会派気取りの悪辣な感動ポルノ(誤用)である『魔耗戦線』の真骨頂とも言うべき熱い話だった。つくづく、もしあそこでああしていたら……ああならなかったら……に想いを馳せさせられる作品だったなと。作中の言葉を使うと「介入点」を探したくなる、かな。読破したら絶対に誰かとIFを語りたくなる。時空震駭存在であるみのりとリゼットには介入できないとのことで、どう展開にするのかと思いきや、あそこでのイリーシャに働きかけるとはね。
それこそゆめものがたりのようなご都合主義の大団円エピソードで、一気呵成の勢いに善悪の境界すらあいまいになるのだが――大鴉(キルケの兵装)が醜悪と言われつつも、人類の希望の最終兵器みたいに扱われて乾いた笑いが出てしまった――それでもキルケを生かさなかったのは最後の一線なのかな。ただ、彼女たちを許してかばってくれる友人と知人がいてくれたのが救いなんだろう。まさか、あのブサイク世界から来たような変態医師のブラカーシさんに泣かされるとは。
お嬢強い、マジ強い……。あれだけ裏切られて、尊厳を踏みにじられて、生来の一本気のせいで割りを喰いまくって、それでもなお友人を許せる度量が強すぎる。義理堅いってレベルじゃねーぞ!
キルケは、今人気投票を取り直したらかなり順位が上がってるんじゃないだろうか。
きっと、その言葉だけが聞きたかったのだ。
「そうか、自分は、
リゼットと肩を並べて飛びたかった、
それだけだったんだ……」
『魔耗戦線』はキルケに始まりキルケに終わる作品だと改めて思った。
その他もろもろ。
私が一番笑ったのはここ。
「リゼット……やっぱり……ステキ……」
おまえーっ!
『摩耗戦線』は怨念、妄執といったさまざまな激情が錯綜する作品だが、特に作風を色濃く染めているのが「妬み」の感情ではないだろうか。
アリシャは今更気付いた。
ペトロヴナもイイヅカも、なんとなく嫌いだった。
嫌いだったんじゃない、うらやましかった。
(アリシャ・オラオンは死んだ)
思い出してみれば最初から、
私と残雪に向けられる男達のまなざしは、
どこか違っていました。
私はただただメスとして見られ、
戦えないと軽蔑され、
彼女に他強いては、どこか畏怖の念がありました。
だから、私は。
残雪も私と同じ単なるメスとして扱われるところが、
見たかったんです。
私と同じに……。
ああ、そうか……
「多分、私は、彼女が妬ましかったんですね」
(續・月軌道会戦)
本編において、先に男たちに服従する道を選んだ女たちが、抵抗を続けるみのりを自分らを蔑んでいると逆恨みして足を引っ張ってきたが、キルケに関しては、まったく同じ動機で同じ愚を犯してるんだよね。
散々な人生を送ってきて、流れ着いたこの場所でも裏切られて、惨たらしい目に遭って。そんな惨状だからこそ、仲間や友だちと手を取って連帯しなきゃならないのに、ささくれだった心のままに相手を拒絶して思い詰める奴らがいれば、相手を引きずり下ろすべく足を引っ張って、ともに溺れていく奴らもいる。浅ましいという他ないが、だからこそ、それが今際の際だろうとも、本当に大切なものを取り戻した者、自分がなすべきことを見つけた者には、ささやかな拍手を送りたい。
これも本編の感想に書いたことだが、
細かい描写で地味に嫌だったところ。最初はバラバラだった敬礼が次第に一糸乱れぬものに統率されていくところ。
(魔法少女消耗戦線 DeadΩAegis 感想 大団円で泣かせてくる始末の悪い感動ポルノ(誤用))
この意趣返しみたいなシーンがあって、ニヤリとするのと同時に胸が熱くなった。
魔法少女消耗戦線 another record -ちいさきものたちのゆめ-
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