魔法少女消耗戦線 DeadΩAegis 感想 大団円で泣かせてくる始末の悪い感動ポルノ(誤用) 

やらんでよいです。
作り手の品性を疑い、同時に自分の品性を疑いたくなるようなおぞましい問題作。最後は感動的で泣かせてくるのがなお始末が悪い。
舞台設定――敵性宇宙生物の侵略を受けて人類が滅亡の危機にあり、対抗できるのは一部の人類だけ、魔法少女(ヒーロー)に憧れる女が騙されて惨たらしい目に遭う――を聞いたら誰もが『マブラヴ オルタネイティヴ』と『魔法少女まどか☆マギカ』を想起すると思うが、気分の悪さは『螺旋回廊』のそれに近い。
私はグロ・鬱・凌辱にはそこそこ耐性があるのだが、この作品はけったくそ悪くなって気分が沈んでしまった。ガチでドン引きした。なぜこんなにも胸糞が悪くなるのかというと、主人公であるみのりやその友人であるアリーシャ、七虹らの尊厳が破壊されて、夢や希望、責任感や連帯感や思慕といった善なる感情に付け入られ、徹底した凌辱や脅しに加えて諦めや堕落への誘いで思考を誘導されつつ常識を麻痺させられ、カテドラルの異常に適応させてモノにされていく描写が嫌にリアルだったからだ。特殊戦技兵は女性しかなれず、能力を使うと発情してしまう、性に溺れるほど強くなるという設定はいかにもエロゲーで正直ばかばかしいのだが、異常な状況下に置かれた人間の心理描写が真に迫っていて気持ち悪くなった。具体的には、みのりがリゼットへの憧れや仲間に差を付けられることへの恐れを利用されて、特殊強化装備を付けるよう誘導されるところ。キャラハンを体術で撃退して、皆が少しだけ矜持を取り戻して事態がよい方向に進むかと思いきや、その期待感に付け入られてさらに追い詰められるところ。イリーシャがキニスンから人外の快楽で翻弄されつつ心の傷に付け入られ、篭絡されるのを自覚するところ(「自分は結構簡単だったんだな、と」)。七虹が悪化していく治安の中で身を守るために身体と心に価値を付けて売ることを選び、ボロボロのみのりを助けるために(これが更につらい)彼女にも折れるよう提案するところ。先に男たちに服従する道を選んだ女たちが、抵抗を続けるみのりがお高く止まっている、自分らを蔑んでいると逆恨みして剥き出しの憎悪を向けて来るところ(文字通り足を引っ張ってくる)などだ。ライターの丸谷は、ブラック企業やカルト宗教の洗脳術や軍隊の統率術・恐怖政治についての資料でも読んだのだろうか? ただ非道なだけでなく、合理性を伴っているのがわかってしまうのが気持ち悪かった。
そして、主人公らを追い詰めて屈服させようとするのが、価値観が根本的に異なる異星人のC.Cや、キャラハンや悟のような救いようのないクズだけだったなら、ここまで気分が悪くなることはなかった。使命を同じくする戦友でみのりに希望を見ていたはずの女たちが、彼女の立場が悪くなるや侮蔑の眼差しを向けてくるのが胸糞だったし、キニスンのような統率力や人心掌握に長けた男が、歪められているとはいえ大義や使命感からその能力を以て彼女らを「消費」しようとしてくるのが心底恐ろしかった。
これでイリーシャや七虹がみのりと完全に決別して裏切る展開があったり(イリーシャが特殊戦技兵たちのスパイをやらされるか怯えるところ、「もう勘弁してくれ……」と思った)、地球送還ルートで残雪がカテドラルのやり方で完全に洗脳されていたりしたら、ギブアップだった。
『魔耗戦線』における真の邪悪が、人類から見た侵略者であるC.Cでも、キニスンやキルケでもなく、軍需や見世物の需要、性のはけ口としてカテドラルと魔法少女を消費する人間、人の尊厳を奪って制御しようとする醜悪な人間と社会の仕組みなのは言うまでもない。
ときに『マブラヴ』と『まどマギ』について、キュウべぇやBETAが人類と価値観が一切相容れないのは、恐ろしさを感じる一方でほっとすることでもあった。本作のC.Cについても同じ所感で、奴らが容赦ない侵攻で人命を奪ってくるのは想像もつかない行動原理(終盤で「ひとつになろうよ」だと判明する)からなんだろうという妙な納得が出来たし、カテドラルの人間が物語の開始時点からC.C(キルケ)の支配下にあったという事実の判明は、連中はなぜ、人のために命を賭けて戦う特殊戦技兵たちに対してあれだけ酷いことができるのか? という疑問への答え合わせでもあった。人外の倫理であるから理解できないのも仕方ない、という他人事めいた安心があった。だからこそ、第二シナリオである地球送還ルートで、カテドラルの支配とC.Cの脅威から逃げ延びたはずのみのりが、自身や友人たちの安全を盾に取られる形で光臣から再び支配を受ける展開や、残雪が特殊戦技兵の利権を狙う人間から非人道的な人体実験と服従調教を受けているのが判明するところで、頭をガツンとやられた。あの世界の人間が全般的に道徳が低いのを加味しても、欲に目が眩んでいるとはいえ混じり気のない人間が他人にあれだけ酷いことができるのかと、過去1の吐き気に襲われた。意図した構成だったとしたら、丸谷は最高に悪趣味だと思う。みのりが言うように、カテドラルはどこにでもあるのだ。これも本編からのいただきだが、体のよい大義名分があって(光臣は蛇の一族に生まれた宿命、研究所の人間は人類の進歩への使命感とテロへのちゃちい正義感……)、権力と怠惰に守られさえすれば、どこでだって彼らは整然とした狂気と欲望に身を委ねかねないのだ。この厳然と発信されるメッセージは、ある意味安全地帯から悲劇を「消費」している読者の心胆を寒からしめる冷水でもあった。
私はこの地球送還ルートの存在で、作品の評価をかなり上方修正した。
『魔耗戦線』のなおタチが悪いところは、ラストに至る展開が泣かせてくるところだ。終盤はここまでのすべての鬱屈や屈辱を晴らすかのように熱くて手に汗握る展開の連続だ。他人を踏みにじってのうのうとしていたクソ野郎に漏れなく報いを与えて容赦なくぶち殺す、『キャリー』さながらの背徳的な爽快感のある大攻勢だった。少し雑なくらいの怒涛の展開が、却って一転攻勢を演出していて溜飲が下がった。エンディング周りも感動的で、生き残る者は去ってしまった者のことを想い、生涯の友の手を取り、あるいは新しく出来た友と人生に踏み出していく。命を失う者も、未練が解きほぐれて親しい人と安らかに逝くことになる。彼女らの立ち姿は、一時奪われていた尊厳を取り戻して自身を御しているのが一目でわかる美しいものだった。あまり飾り立てない三人称の筆致(どこかバンヤーを思わせる)が、静かに感動を掻き立てていた。すべてをコントロールできると思い上がっていた人間たちは、結局、みのりやイリーシャや七虹や残雪、そして最大の被害者であり諸悪の根源でもあるキルケの尊厳を奪い去ることは出来なかった。どのような理不尽や効率化された非人道的行為も、彼女たちの戦友の絆、恋人の絆を断ち切ることはついぞ出来なかったのだ。その人間賛歌は人の浅ましさに満ちた本作における救いであり祈りだが、これで終わりよければすべてよし……と思えるほど鈍感にはなれなかった。はたして大団円のグッドエンドが、登場人物を度しがたいほど悲惨な目に遭わせる免罪符になるのだろうか? とまれ、この人間性が最後の最後で勝利するフィナーレがなければ、私は本作そのものを受け入れられなかったと思う。
しかしながら、善性の勝利が紙一重の奇跡の上に成立しているのは何とも言えず皮肉だ。キルケが意識の奥底までC.Cに侵食されて彼らと「ひとつになる」、残雪が研究所の洗脳に屈する、みのりが完全に自我を奪われてカテドラルや光臣に所有される、このどれか一つでも起こっていれば惨たらしい結果になっていた。それは三人が三人とも常軌を逸した生命力と精神力を持っていたという生存者バイアスめいた偶然でしかなく、「(人間の醜悪な本性や腐敗した組織の恐ろしさに対して)それって根本的な解決になってませんよね?」と思わずにはいられない。これを完成度の瑕疵と考えるか、本質的な問題提起と捉えるか。
人間は、怖いもの見たさで、他人が……それも善良な人が悲惨な目に遭うところ、あるいは悪に屈服するところを見たいという下卑た欲求を持っている。でなければ、媒体も違えば邪悪の程度も違うが『まどマギ』や『ミッドサマー』や『IT』のような反道徳的で冒涜的な作品があれだけ広くヒットするはずがない。その欲望をフィクションに留めて「消費」するのは、極めて不健全とも言えるし、いたって健全とも言える。『魔法少女消耗戦線』は、そのような下種な感情を徹底的に煽りつつも、非道であることを肝に銘じろと釘を突き刺してきて、人間の善性と精神性・女の執念深さを舐めんねぇ、いつかしっぺ返しを喰らうぞとどやしつけてくる、妙な道徳性を兼ね備えた怪作だ。それは鋭いクリティシズムか、はたまた悪辣なマッチポンプなのか。
単純にノベルゲームとして優れているところについても書く。さすがは丸谷と言ったところで、コズミックホラーや宇宙戦記としてもかなり読み応えがあった。最初は魔法少女に押されていたC.Cが、徐々に攻撃へ適応しながらこちらの戦術を潰してきて、逆に魔法少女を(文字通り)取り込んで進化していくさまは不気味極まりなかった。内外から悪化していく絶望的な戦況に身震いさせられた……カテドラルと消耗戦の真実を知ると悲しくなるが。そして、魔法少女の編隊とC.Cの群れが激突する冥界宙域での戦闘は、集団戦の攻防や戦術がしっかりと書かれていて引き込まれた。特殊戦技兵の能力が戦いの中心なのは当然として、キニスンの采配によって文明兵器や質量兵器としての天体が少なからず戦況を動かすところも熱かった。また、2ルートとはいえ8月侵攻ルートと地球送還ルートで展開がまるっきり変わり、相互補完して読ませてくるところもマルチシナリオとしてよく出来ていた。みんな大好きお嬢こと残雪は、どちらのルートでも八面六臂の活躍をしてくれて嬉しかったな。みのりが言っていたが、あちらのルートでも「生きていて欲しかった」。
逆に明らかに欠点と言えるのは、構想に対して立ち絵やCG、ボイスといった物量が明らかに足りていないところだ。同室の三人以外の特殊戦技兵にもネームドのキャラはけっこういて、面白そうな人(赤毛のマーマ、マーマの人など)も多かったのだが、ボイスも立ち絵も実装されていなくて寂しかった。ビジュアル面でも脚本の面でも肉付けされていれば思い入れもぜんぜん違っただろう(その分しんどみが深まるが)。それと、中盤(8月侵攻でキニスンが死んで以降)から終盤に入るまでがけっこうダレて、ただの凌辱(酷い表現)には興味がないのでちょっと眠たくなった。凌辱抜きゲーなのでそちらにリソースが割かれているのはわかるが、私はどうしても『マブラヴ』の幻想を追ってしまって評価が辛くなった。あと、『まどマギ』のようにだまし討ちを喰らわせる方向性でないのは百も承知で(タイトルや公式ページで悲惨な目に遭うのは一目瞭然だし、あの作品は同系統のそれをすべて二番煎じにしてしまった)、キニスンもキルケも既にC.Cに侵食されているのが最序盤から丸わかりなのはどうなんだろう。みのりたちの着任時点であの不穏なモノローグを出していいのか? 引っ張ることでもないという判断なのかもしれないが、サスペンスが薄れているのは間違いない。最後に、私の読解力が悪かったのかもしれないが、リゼットがどんな状態なのか今いちわからなかった。おかげでこの人周りの展開にあまり乗れなかった。
その他もろもろ。
みのりさん強い、マジ強い。何度も心を折られて、カテドラルに残るルートでは家畜のような自我にまで貶められて、地球に帰るルートでは緩やかに悪に加担した罪の意識に押し潰されそうになっても、誰かが自分のような理不尽に巻き込まれるのを察知すると静かに立ち上がる、自分にしかない力で誰かを救おうとする、その姿に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。あんたは誰まごうことなきヒーローだよ。んで、そもそも非道な目に遭わせるのが……フィクションってそもそもが外道なんじゃ……? という思考の堂々巡りについては上述した通り。
イリーシャがよい奴すぎて辛い。初対面のとっつきにくさに反して人一倍仲間思いなのは、本編だけでなく売れないアイドル時代のエピソードからもよくわかる。誰に褒められたいわけでもなく自然と貧乏くじを引いてきた人生だったんだろうけど、やっぱり自分を認めてくれる人、理解してくれる人が欲しかったんだろうな。七虹はかなり頭のネジが緩く、悟に騙されてみのりに攻撃を始める展開は正直アホかと思った。しかし、この人には戦闘だけでなく精神面でも何回助けられたかわからないし、悟の着任後の展開ではみのりを罵倒する言葉の端々に彼女へ抱いていた信頼や期待が透けて見えて悲しくなったなぁ。月並みだが、最期に友だちに戻れてよかったよ。
お嬢強い、マジ強い(リプライズ)。
キルケがみのりに向けてくる憎悪が熾烈だったが、あれだ、猗窩座が炭治郎を嫌うのと似ているかもしれない。しかし、みのりとキルケはけっこう共通点があるんだよな。魔法少女としての適性はそんなにない(なかった)こと、友だちが少ないこと、自己評価が必要以上に低いのが仇になること。
『魔耗戦線』はある意味では現代の寓話、社会人の哀歌だよね。憧れの人を追って入った会社が実は超男尊女卑のブラック企業で、正義感から組織を変えようとするもののキャリアや責任感を盾に理不尽を押し付けられる。同性の上司は耳障りのよいことを言うだけで横暴な男性陣には強く出ず、いつの間にか環境に順応していた同僚からはだんだん疎んじられ、尊厳が徐々に破壊されて支配されかける。最後の最後で、実は面従腹背だった女上司がセクハラやパワハラの証拠をマスコミや労基にぶちまけて、ステークホルダーまで巻き込んで盛大に報復する……そんなお話。ある程度の規模の組織で働いている人なら多少なりとも受けたことがあるだろう理不尽や拒否感が随所に表れていて、とっても嫌な気分にさせられた。
皮肉と言えば、C.Cの母星を完全破壊して絶滅せしめた出力の出所が、キルケが使い潰して「消費」してきた魔法少女たちの死体というのはあまりにも皮肉だ……。
細かい描写で地味に嫌だったところ。最初はバラバラだった敬礼が次第に一糸乱れぬものに統率されていくところ。
劇伴がかなりよい。
魔法少女消耗戦線 DeadΩAegis

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百合ゲーム レビュー・感想まとめ
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私はグロ・鬱・凌辱にはそこそこ耐性があるのだが、この作品はけったくそ悪くなって気分が沈んでしまった。ガチでドン引きした。なぜこんなにも胸糞が悪くなるのかというと、主人公であるみのりやその友人であるアリーシャ、七虹らの尊厳が破壊されて、夢や希望、責任感や連帯感や思慕といった善なる感情に付け入られ、徹底した凌辱や脅しに加えて諦めや堕落への誘いで思考を誘導されつつ常識を麻痺させられ、カテドラルの異常に適応させてモノにされていく描写が嫌にリアルだったからだ。特殊戦技兵は女性しかなれず、能力を使うと発情してしまう、性に溺れるほど強くなるという設定はいかにもエロゲーで正直ばかばかしいのだが、異常な状況下に置かれた人間の心理描写が真に迫っていて気持ち悪くなった。具体的には、みのりがリゼットへの憧れや仲間に差を付けられることへの恐れを利用されて、特殊強化装備を付けるよう誘導されるところ。キャラハンを体術で撃退して、皆が少しだけ矜持を取り戻して事態がよい方向に進むかと思いきや、その期待感に付け入られてさらに追い詰められるところ。イリーシャがキニスンから人外の快楽で翻弄されつつ心の傷に付け入られ、篭絡されるのを自覚するところ(「自分は結構簡単だったんだな、と」)。七虹が悪化していく治安の中で身を守るために身体と心に価値を付けて売ることを選び、ボロボロのみのりを助けるために(これが更につらい)彼女にも折れるよう提案するところ。先に男たちに服従する道を選んだ女たちが、抵抗を続けるみのりがお高く止まっている、自分らを蔑んでいると逆恨みして剥き出しの憎悪を向けて来るところ(文字通り足を引っ張ってくる)などだ。ライターの丸谷は、ブラック企業やカルト宗教の洗脳術や軍隊の統率術・恐怖政治についての資料でも読んだのだろうか? ただ非道なだけでなく、合理性を伴っているのがわかってしまうのが気持ち悪かった。
そして、主人公らを追い詰めて屈服させようとするのが、価値観が根本的に異なる異星人のC.Cや、キャラハンや悟のような救いようのないクズだけだったなら、ここまで気分が悪くなることはなかった。使命を同じくする戦友でみのりに希望を見ていたはずの女たちが、彼女の立場が悪くなるや侮蔑の眼差しを向けてくるのが胸糞だったし、キニスンのような統率力や人心掌握に長けた男が、歪められているとはいえ大義や使命感からその能力を以て彼女らを「消費」しようとしてくるのが心底恐ろしかった。
これでイリーシャや七虹がみのりと完全に決別して裏切る展開があったり(イリーシャが特殊戦技兵たちのスパイをやらされるか怯えるところ、「もう勘弁してくれ……」と思った)、地球送還ルートで残雪がカテドラルのやり方で完全に洗脳されていたりしたら、ギブアップだった。
『魔耗戦線』における真の邪悪が、人類から見た侵略者であるC.Cでも、キニスンやキルケでもなく、軍需や見世物の需要、性のはけ口としてカテドラルと魔法少女を消費する人間、人の尊厳を奪って制御しようとする醜悪な人間と社会の仕組みなのは言うまでもない。
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私はこの地球送還ルートの存在で、作品の評価をかなり上方修正した。
『魔耗戦線』のなおタチが悪いところは、ラストに至る展開が泣かせてくるところだ。終盤はここまでのすべての鬱屈や屈辱を晴らすかのように熱くて手に汗握る展開の連続だ。他人を踏みにじってのうのうとしていたクソ野郎に漏れなく報いを与えて容赦なくぶち殺す、『キャリー』さながらの背徳的な爽快感のある大攻勢だった。少し雑なくらいの怒涛の展開が、却って一転攻勢を演出していて溜飲が下がった。エンディング周りも感動的で、生き残る者は去ってしまった者のことを想い、生涯の友の手を取り、あるいは新しく出来た友と人生に踏み出していく。命を失う者も、未練が解きほぐれて親しい人と安らかに逝くことになる。彼女らの立ち姿は、一時奪われていた尊厳を取り戻して自身を御しているのが一目でわかる美しいものだった。あまり飾り立てない三人称の筆致(どこかバンヤーを思わせる)が、静かに感動を掻き立てていた。すべてをコントロールできると思い上がっていた人間たちは、結局、みのりやイリーシャや七虹や残雪、そして最大の被害者であり諸悪の根源でもあるキルケの尊厳を奪い去ることは出来なかった。どのような理不尽や効率化された非人道的行為も、彼女たちの戦友の絆、恋人の絆を断ち切ることはついぞ出来なかったのだ。その人間賛歌は人の浅ましさに満ちた本作における救いであり祈りだが、これで終わりよければすべてよし……と思えるほど鈍感にはなれなかった。はたして大団円のグッドエンドが、登場人物を度しがたいほど悲惨な目に遭わせる免罪符になるのだろうか? とまれ、この人間性が最後の最後で勝利するフィナーレがなければ、私は本作そのものを受け入れられなかったと思う。
しかしながら、善性の勝利が紙一重の奇跡の上に成立しているのは何とも言えず皮肉だ。キルケが意識の奥底までC.Cに侵食されて彼らと「ひとつになる」、残雪が研究所の洗脳に屈する、みのりが完全に自我を奪われてカテドラルや光臣に所有される、このどれか一つでも起こっていれば惨たらしい結果になっていた。それは三人が三人とも常軌を逸した生命力と精神力を持っていたという生存者バイアスめいた偶然でしかなく、「(人間の醜悪な本性や腐敗した組織の恐ろしさに対して)それって根本的な解決になってませんよね?」と思わずにはいられない。これを完成度の瑕疵と考えるか、本質的な問題提起と捉えるか。
人間は、怖いもの見たさで、他人が……それも善良な人が悲惨な目に遭うところ、あるいは悪に屈服するところを見たいという下卑た欲求を持っている。でなければ、媒体も違えば邪悪の程度も違うが『まどマギ』や『ミッドサマー』や『IT』のような反道徳的で冒涜的な作品があれだけ広くヒットするはずがない。その欲望をフィクションに留めて「消費」するのは、極めて不健全とも言えるし、いたって健全とも言える。『魔法少女消耗戦線』は、そのような下種な感情を徹底的に煽りつつも、非道であることを肝に銘じろと釘を突き刺してきて、人間の善性と精神性・女の執念深さを舐めんねぇ、いつかしっぺ返しを喰らうぞとどやしつけてくる、妙な道徳性を兼ね備えた怪作だ。それは鋭いクリティシズムか、はたまた悪辣なマッチポンプなのか。
単純にノベルゲームとして優れているところについても書く。さすがは丸谷と言ったところで、コズミックホラーや宇宙戦記としてもかなり読み応えがあった。最初は魔法少女に押されていたC.Cが、徐々に攻撃へ適応しながらこちらの戦術を潰してきて、逆に魔法少女を(文字通り)取り込んで進化していくさまは不気味極まりなかった。内外から悪化していく絶望的な戦況に身震いさせられた……カテドラルと消耗戦の真実を知ると悲しくなるが。そして、魔法少女の編隊とC.Cの群れが激突する冥界宙域での戦闘は、集団戦の攻防や戦術がしっかりと書かれていて引き込まれた。特殊戦技兵の能力が戦いの中心なのは当然として、キニスンの采配によって文明兵器や質量兵器としての天体が少なからず戦況を動かすところも熱かった。また、2ルートとはいえ8月侵攻ルートと地球送還ルートで展開がまるっきり変わり、相互補完して読ませてくるところもマルチシナリオとしてよく出来ていた。みんな大好きお嬢こと残雪は、どちらのルートでも八面六臂の活躍をしてくれて嬉しかったな。みのりが言っていたが、あちらのルートでも「生きていて欲しかった」。
逆に明らかに欠点と言えるのは、構想に対して立ち絵やCG、ボイスといった物量が明らかに足りていないところだ。同室の三人以外の特殊戦技兵にもネームドのキャラはけっこういて、面白そうな人(赤毛のマーマ、マーマの人など)も多かったのだが、ボイスも立ち絵も実装されていなくて寂しかった。ビジュアル面でも脚本の面でも肉付けされていれば思い入れもぜんぜん違っただろう(その分しんどみが深まるが)。それと、中盤(8月侵攻でキニスンが死んで以降)から終盤に入るまでがけっこうダレて、ただの凌辱(酷い表現)には興味がないのでちょっと眠たくなった。凌辱抜きゲーなのでそちらにリソースが割かれているのはわかるが、私はどうしても『マブラヴ』の幻想を追ってしまって評価が辛くなった。あと、『まどマギ』のようにだまし討ちを喰らわせる方向性でないのは百も承知で(タイトルや公式ページで悲惨な目に遭うのは一目瞭然だし、あの作品は同系統のそれをすべて二番煎じにしてしまった)、キニスンもキルケも既にC.Cに侵食されているのが最序盤から丸わかりなのはどうなんだろう。みのりたちの着任時点であの不穏なモノローグを出していいのか? 引っ張ることでもないという判断なのかもしれないが、サスペンスが薄れているのは間違いない。最後に、私の読解力が悪かったのかもしれないが、リゼットがどんな状態なのか今いちわからなかった。おかげでこの人周りの展開にあまり乗れなかった。
その他もろもろ。
みのりさん強い、マジ強い。何度も心を折られて、カテドラルに残るルートでは家畜のような自我にまで貶められて、地球に帰るルートでは緩やかに悪に加担した罪の意識に押し潰されそうになっても、誰かが自分のような理不尽に巻き込まれるのを察知すると静かに立ち上がる、自分にしかない力で誰かを救おうとする、その姿に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。あんたは誰まごうことなきヒーローだよ。んで、そもそも非道な目に遭わせるのが……フィクションってそもそもが外道なんじゃ……? という思考の堂々巡りについては上述した通り。
イリーシャがよい奴すぎて辛い。初対面のとっつきにくさに反して人一倍仲間思いなのは、本編だけでなく売れないアイドル時代のエピソードからもよくわかる。誰に褒められたいわけでもなく自然と貧乏くじを引いてきた人生だったんだろうけど、やっぱり自分を認めてくれる人、理解してくれる人が欲しかったんだろうな。七虹はかなり頭のネジが緩く、悟に騙されてみのりに攻撃を始める展開は正直アホかと思った。しかし、この人には戦闘だけでなく精神面でも何回助けられたかわからないし、悟の着任後の展開ではみのりを罵倒する言葉の端々に彼女へ抱いていた信頼や期待が透けて見えて悲しくなったなぁ。月並みだが、最期に友だちに戻れてよかったよ。
お嬢強い、マジ強い(リプライズ)。
キルケがみのりに向けてくる憎悪が熾烈だったが、あれだ、猗窩座が炭治郎を嫌うのと似ているかもしれない。しかし、みのりとキルケはけっこう共通点があるんだよな。魔法少女としての適性はそんなにない(なかった)こと、友だちが少ないこと、自己評価が必要以上に低いのが仇になること。
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