屋上の百合霊さん 感想 駄百合ゲー、ときどき電波 

『屋上の百合霊さん』は、今では絶滅危惧種に近い「普通の」ガールズラブオンリーエロゲーだ。タイトルの通り主要登場人物に幽霊がいるものの伝奇やSFの色合いはまったくなく、現代日本を舞台にしたどうということもない女学生の恋愛話がオムニバス形式で語られる。その語り部となるのが、学園内で女同士のカップルが成立することを願っている「百合霊さん」二人と、ひょんなことから彼女らを手伝うことになった主人公だ。作品全体の雰囲気は、言われているとおり百合漫画専門雑誌「百合姫」の掲載作品に近い。今まで世間で高評価だった百合ゲーは伝奇・SF・クトゥルフといった背景設定が作られていて、神話の神々との対決や国家を転覆する暗殺計画や世界の終わりを告げる集団自殺事件などが起こっていたので、学生の恋愛が話の中心にあるものは逆に珍しいかもしれない。
結論から言うと、私はこの『百合霊さん』はかなり悪い意味で「普通の」百合作品だと思った。「予定調和な」「月並みな」「平々凡々とした」「紋切り型の」「類型的な」と言い換えてもいい。
「百合姫」の全掲載作品を楽しく読める人なら鑑賞してもいいかもしれない。
「百合姫」を買っても『ゆるゆり』くらいしか読まない人にはかなりかったるい。
そもそも「百合なんざ興味ねぇ」という人には鑑賞する価値が全く無い。
この三行で、私が『屋上の百合霊さん』について語るべきことはほぼ終わってしまった。これだけ書いてレビューをぶん投げようかとも思っていた。この作品をADVの観点から評価すると、シナリオ、テキスト、キャラクター、演出、ゲームデザインと、どこを切っても特筆すべき点はない。至って普通の、尖ったところがない……というのはかなり恩情の込もった言い方で、全体的に質が低い。どの要素も過去の名作群とは比ぶべくもない。有名どころの作品を100本も200本も読破しているような人は、この作品をプレイしても得るものはこれっぽっちもないと断言できる。また、私は『百合霊さん』を百合作品としてもさっぱり評価していない。私が心底がっかりしたのは、普通の恋愛話が中心の百合ゲーであるにも関わらず、女同士の恋愛に対するスタンスがそれこそ「百合姫」レベルの月並みさ、稚拙さだったことだ。既に体験版の時点で舌打ちしたくなるようなホモフォビアが散見されていたが、私は「この古くさい上にくどいノリ……。こいつは“フリ”に違いないな! 物語の後半でこれを否定するエピソードがあるんだろう」と淡い期待を抱いていた。嘘屋に期待した私が悪かった。否定するどころか、物語の後半で登場人物のほとんどに恋愛関係が成立し、その上肉体関係まで持った後ですら、旧態依然とした倫理観を滔滔と語り出してくる。あるいは、ネビュラ星雲から受信した電波をナルシズム満載で披露してくる。あれにはほとほとげんなりさせられた。うんざりした台詞の具体例については、後で突っ込みを添えて列挙していこう。
なにが「Liarsoft 30th」だっつの
システム周りが使いづらいのなんのって。体験版からいくらか改善されるかと思ったが、別にそんなことはなかったぜ。私がやった中で最古のライアーゲーは『腐り姫』だが、その頃からろくに進化していないじゃあないか。老舗の会社が開発したUIとは思えないていたらくだよ。おのれら30作目でこんなものしか出来ないのか。まず、未だにバックログが一クリック分ごとにしかできない仕様なのがどうかと思う。文章を読み返すにしろ、スクリーンショットを取るにしろ、ボイスを再生するにしろ、バックログ専用画面が立ち上がって何クリック分もテキストが表示される方が圧倒的に使いやすいだろ。技術的にさして難しいことだとは思えない。また、ゲーム本編から予定帳、予定帳からロード画面にスムーズに移動できないのも面倒くさかった。アナザーストーリーを埋めているときにもの凄く不便に感じた。スタッフの誰か一人がさらっと通しプレイするだけで見つかりそうな不備だと思う。シナリオに語るべきことがないと、こういう細かいところでストレスを感じるね。
無駄に長えぇぇァッ! 眠いぃェッ!
私は退屈な作品でも短くまとまっていれば我慢できるし、全体としてみれば面白い作品のダレ場についてはそっと目を瞑れる。しかし、果てしなく退屈な上に長ったらしい作品にはどうにも我慢ならない。私は『百合霊さん』をプレイしている間に、春の陽気と花粉症薬の副作用もあいまって軽く5、6回は寝落ちをしてしまった。ここまでプレイの体感時間を長く感じて、一体いつ終わるねんと憔悴させられた百合ゲーはちょっと記憶にない。学生時代と比べて体力の衰えを痛切に感じる。かったるい文章を根性で読み進める筋肉ががた落ちしている。
『百合霊さん』は、しゃべっている割合の方が圧倒的に少ないパートボイス(エロシーン間際になると急にキャラがペラペラしゃべり始めるからビビる)、とても女学生には聞こえない薹の立ったおばさん声、右耳から入って左耳から抜けるようなBGM(全11曲!)と、突っ込みどころ満載でライアークオリティさく裂の作品だが、とりわけテキストの冗漫さが酷いと思った。締まりがないのに長ったらしいったらありゃしない。気取った表現がそれほど多くないことだけが救いだ。この作品はお世辞にも濃密なシナリオだとは言いがたいのに、テキストの分量は一般的なエロゲーとさして変わらない。して、どんなもので水増しされているのかといえば、お寒いノリで愚にもつかないガールズトークと、キャラクターの心の裡や性格などの設定を説明口調で書き連ねる「キャラクターの気持ち発表会」「ノートの設定披露宴」系の生硬なテキストが大半を占めている。キャラクターの心情はその人の言動や振る舞いでさりげなく表現するものであり、またキャラクターの性格や人格形成のルーツは劇中の行動や過去のエピソードから自然に推察させるものであり、直截的にだらだらだらだら書いてしまうのはライターとして下の下である。
他には、主人公と幽霊側の視点とカップル側の視点で、代わり映えがしないにもかかわらず同じシーンを2回3回と繰り返し見せられるのはたまったものではなかった。読んでいて辛かった箇所の一例を挙げてみよう。前者が先に読むことになる主人公と幽霊たちの視点での描写で、後者がほんの少し後に読まされる一年坊視点のそれだ。強調部は完全に使い回されている箇所である。
※主人公と幽霊視点
一瞬だけ、教室に入っていく一瞬だけ、見えた姿は、相原先輩を慕っている牧さんのものだった。
「ど、どうしたのかな?」
「わ、わかんない、けど……」
私は慌てて、恵をくっつけたまま、牧さんが、入っていったドアに駆け寄って。
教室の中をのぞき込んだ。その瞬間だった。
「きゃあ!」
「ふざけんなぁ!」
すごい音。思いっきり、机が蹴り飛ばされた、音。
蹴り飛ばしたのは牧さんで……。
「ま、牧さん……!?」
信じられなかった。小柄な牧さんが、三年生の先輩が腰をかけている机を蹴り飛ばす光景なんて。
そして、床に転がり落ちた先輩に馬乗りになって、胸ぐら、つかみあげているなんて。
「ひっ、やっ!」
「あんたらなぁ! 今、なんつった!? ああ!?」
すごい、大声。怒鳴りつけているなんて。
「ひ……、ひぃ……」
「言ってみろ、もっかいいってみろぉ!」
「マゾ、だぁ!? マゾって言ったのか!? てめぇ、美紀さんのこと、マゾって言って笑ったのか!?」
「ちょ、な、なにこいつ!」
「黙ってろ!」
うわ、すごい。かわいいって印象の牧さんが、とんでもない声でまわりを、私と恵をも、圧倒してる。
止めようとした他の二人の三年生も、牧さんの声で、怯んだのがわかる。
「なんで、てめぇが……」
「美紀さんのこと、笑ってんだぁ!」
「や、やだ……。ちょっと……。誰か……!」
呆然と、牧さんの姿を見つめてる私の横を、二人の三年生が走って廊下へと出て行く。
ど、どうすればいいの、これ……。
「ちょ、ちょっと結奈……。これって、止めた方がいいんじゃないの……?」
「そ、そうだけど……」
でも、怖い。正直、怖い。牧さんの声に圧されて、足が動かない。
「美紀さんに仕事、押しつけて、てめぇは楽して、そんでもって美紀さんのこと笑ってんのかぁ!」
「もっぺん言ってみろ! 美紀さんのこと、マゾだって言って笑ってみろ!」
「二度とそんなこと言えないようにしてやる!」
うわ、ほんとに怖い。で、でも、止めないと……。
「っ……!」
私は勇気を振り絞って、教室の中に入っていく。
なるべく、牧さんの後ろから近づいて。だって、牧さんから見えるとこから近づいたら、怒鳴られそう。そうしたら、立ちすくんじゃう。
牧さんに馬乗りされた三年生の人、うわ、ほんとに泣いてる……。
「ちょ、ちょっと牧さん!」
なんとか、声を出す。考えてみれば、面識、無いんだけど。そんなこと言ってられない。
「もうやめて!」
ダメだ、聞いてもらえない。ただ、三年生をにらみつけてる。大丈夫かな、あの襟、締まってないよね?
どうしよう、どうしたら、牧さんを止められるだろう。そう考えてると。
廊下から、こっちに走ってくる足音が。
「マズい! 先生!?」
「あ、ちがう!」
「あ……」
教室に入ってきた人は。息を切らせて、入ってきたのは。廊下を走るなんてイメージできない人で、相原先輩で。
「ま、牧ちゃん……!」
でも、相原先輩の声も、今の牧さんには届かないのかな……。牧さん、まだ止まらないみたい。
ほんとに、どうしよう……。
「てめぇが美紀さんのことを……!」
また、牧さんが三年生の胸ぐらをつかみ上げて引き起こしたところで。
「聖苗!」
相原先輩の声が、響いた。その瞬間、牧さんの動きは、ピタリと、止まった。
牧さんが、ゆっくりと振り返る。呆然とした、顔で。
「美紀さん……」
美紀さん、まだ息が切れたままだけど、牧さんに声をかける。
「はぁ、はぁ……だ、ダメ、聖苗……」
「もう離してあげて。……ね?」
「乱暴なこと、しちゃ、ダメ。ね、聖苗」
「……はい……」
やっと、牧さんが三年生の人を離してくれた。
「はぁ……」
緊張で詰まっていた息が漏れる。
立ち上がった牧さんは、ちょっとうなだれてて。
「どうして……、こんなこと、したの?」
※一年坊の視点
「ふざけんなぁ!」
机ごと、そいつが、三年生の一人が床に転がったところに、声を上げて、飛びかかる。
「ひっ、やっ!」
「あんたらなぁ! 今、なんつった!? ああ!?」
馬乗りになって、そいつの胸ぐらをつかみあげる。
「ひ……、ひぃ……」
「言ってみろ、もっかいいってみろぉ!」
つかみあげて、揺すり立てる。泣いてんじゃねぇ!
「マゾ、だぁ!? マゾって言ったのか!? てめぇ、美紀さんのこと、マゾって言って笑ったのか!?」
「ちょ、な、なにこいつ!」
「黙ってろ!」
残った二人を怒鳴りつけてから、もっかい、わたしの下にいるヤツをにらみつける。
「なんで、てめぇが……」
「美紀さんのこと、笑ってんだぁ!」
アタマきた。完全に、アタマきた。
美紀さんに仕事、頼むのはいい。美紀さんが引き受けたんだから、それはいい。
でも、なに? 楽できる? そして、なんだって? 美紀さんのこと、マゾだって!? そう言って、笑ってたの!?
「美紀さんに仕事、押しつけて、てめぇは楽して、そんでもって美紀さんのこと笑ってんのかぁ!」
「もっぺん言ってみろ! 美紀さんのこと、マゾだって言って笑ってみろ!」
「二度とそんなこと言えないようにしてやる!」
胸ぐらつかんでいる三年生が、もう、マジ泣きしてる。だからどうした。
泣くくらいだったら、最初っから、陰で人のこと笑うんじゃない!
「ちょ、ちょっと牧さん!」
なんだよ、うるさい! 止めるな!
「もうやめて!」
やめるか!
「あ……」
土下座、させてやる! 美紀さんの前で、こいつ、土下座させてやる!
「ま、牧ちゃん……!」
だって、こいつ、美紀さんのこと……! だって!
「てめぇが美紀さんのことを……!」
「聖苗!」
え……。
わたしの名前。呼んだ、その、声。
振り返った。手はまだ、相手の服、つかんだままで。
そこには。
美紀さん……。
「はぁ、はぁ……だ、ダメ、聖苗……」
ここまで、走ってきたのかな。息を切らせた、美紀さんが立ってた。
「もう離してあげて。……ね?」
そう言われて、一気にわたしの手から、力が抜ける。
「乱暴なこと、しちゃ、ダメ。ね、聖苗」
「……はい……」
わたしは立ち上がる。同時に、今まで組み伏せていた相手が、顔を強ばらせたまま、わたしの脚の間から這い出して、そして、立ち上がる。
み、見られちゃった……。美紀さんに……。
「どうして……、こんなこと、したの?」
>馬乗りになって、そいつの胸ぐらをつかみあげる。
主人公視点の「床に転がり落ちた先輩に馬乗りになって、胸ぐら、つかみあげている」を言い換えただけ。
>残った二人を怒鳴りつけてから、もっかい、わたしの下にいるヤツをにらみつける。
主人公視点の「すごい、大声。怒鳴りつけているなんて」「とんでもない声でまわりを、私と恵をも、圧倒してる」を言い換えただけ。
>アタマきた。完全に、アタマきた。
アタマきてるのは、上級生にクンロク入れている時点で言われるまでもなくわかる。
>美紀さんに仕事、頼むのはいい。美紀さんが引き受けたんだから、それはいい。
>でも、なに? 楽できる? そして、なんだって? 美紀さんのこと、マゾだって!? そう言って、笑ってたの!?
直後に「美紀さんに仕事、押しつけて、てめぇは楽して、そんでもって美紀さんのこと笑ってんのかぁ!」「もっぺん言ってみろ! 美紀さんのこと、マゾだって言って笑ってみろ!」と叫んでいるので、こう思っていることは言われるまでもなくわかっている。
>なんだよ、うるさい! 止めるな!
主人公視点の「ダメだ、聞いてもらえない。ただ、三年生をにらみつけてる」を言い換えただけ。
>やめるか!
略。
>え……。
>わたしの名前。呼んだ、その、声。
>振り返った。手はまだ、相手の服、つかんだままで。
>そこには。
>美紀さん……。
主人公視点の「相原先輩の声が、響いた。その瞬間、牧さんの動きは、ピタリと、止まった」「牧さんが、ゆっくりと振り返る。呆然とした、顔で」という描写で、こいつの内面は言われるまでもなく想像が付く。
>ここまで、走ってきたのかな。息を切らせた、美紀さんが立ってた。
主人公視点の描写と、直前の「はぁ、はぁ……だ、ダメ、聖苗……」で(略)。
>そう言われて、一気にわたしの手から、力が抜ける。
主人公視点の「やっと、牧さんが三年生の人を離してくれた」を(略)。
>み、見られちゃった……。美紀さんに……。
こいつが激昂しているところを聖女に見られてばつの悪い思いをしているのは、主人公視点の「立ち上がった牧さんは、ちょっとうなだれてて」という描写から読み取れる。
さて、一年坊視点から使い回しの台詞と容易に察せられる部分をばっさり切り捨てると――
「ふざけんなぁ!」
机ごと、そいつが、三年生の一人が床に転がったところに、声を上げて、飛びかかる。
「ひっ、やっ!」
「あんたらなぁ! 今、なんつった!? ああ!?」
馬乗りになって、そいつの胸ぐらをつかみあげる。
「ひ……、ひぃ……」
「言ってみろ、もっかいいってみろぉ!」
つかみあげて、揺すり立てる。泣いてんじゃねぇ!「マゾ、だぁ!? マゾって言ったのか!? てめぇ、美紀さんのこと、マゾって言って笑ったのか!?」
「ちょ、な、なにこいつ!」
「黙ってろ!」
残った二人を怒鳴りつけてから、もっかい、わたしの下にいるヤツをにらみつける。
「なんで、てめぇが……」
「美紀さんのこと、笑ってんだぁ!」
アタマきた。完全に、アタマきた。
美紀さんに仕事、頼むのはいい。美紀さんが引き受けたんだから、それはいい。
でも、なに? 楽できる? そして、なんだって? 美紀さんのこと、マゾだって!? そう言って、笑ってたの!?
「美紀さんに仕事、押しつけて、てめぇは楽して、そんでもって美紀さんのこと笑ってんのかぁ!」
「もっぺん言ってみろ! 美紀さんのこと、マゾだって言って笑ってみろ!」
「二度とそんなこと言えないようにしてやる!」
胸ぐらつかんでいる三年生が、もう、マジ泣きしてる。だからどうした。
泣くくらいだったら、最初っから、陰で人のこと笑うんじゃない!「ちょ、ちょっと牧さん!」
なんだよ、うるさい! 止めるな!
「もうやめて!」
やめるか!
「あ……」
土下座、させてやる! 美紀さんの前で、こいつ、土下座させてやる!「ま、牧ちゃん……!」
だって、こいつ、美紀さんのこと……! だって!
「てめぇが美紀さんのことを……!」
「聖苗!」
え……。
わたしの名前。呼んだ、その、声。
振り返った。手はまだ、相手の服、つかんだままで。
そこには。
美紀さん……。
「はぁ、はぁ……だ、ダメ、聖苗……」
ここまで、走ってきたのかな。息を切らせた、美紀さんが立ってた。
「もう離してあげて。……ね?」
そう言われて、一気にわたしの手から、力が抜ける。
「乱暴なこと、しちゃ、ダメ。ね、聖苗」
「……はい……」
わたしは立ち上がる。同時に、今まで組み伏せていた相手が、顔を強ばらせたまま、わたしの脚の間から這い出して、そして、立ち上がる。み、見られちゃった……。美紀さんに……。
「どうして……、こんなこと、したの?」
――こうなる。いらんからまるっとカットしてくれや。
この例のように、『百合霊さん』ではあるシチュエーションが別視点で繰り返し語られることが多々ある。しかし、そのほとんどは実況役が変わっているだけで情報量は全くと言っていいほど増えていない。新しく語られる内容も別視点の描写から、あるいは前後の文脈から言われるまでもなく推測できる程度のものだ。すこぶるかったるかった。何度スキップでぶっ飛ばしてやろうと思ったことか。この作品のゲームデザインが凡庸で芸がないと言ったのは、こういうことである。
こういったお手軽別視点は、ぺぺっとソースコードをコピペしてちょこちょこ文章を書き直すだけでカサを稼げるから、作り手側は楽でいいかもしれない。貴重なボイスパートを盛大に使い回して、しゃべっている割合を多く見せかけることもできるしね(笑)。しかし、こんな駄テキストを繰り返し読まされるこっちの身にもなってほしいもんだ。それに、キャラクターが激情を表す迫真(棒)のシーンも、間を置かずに二度も三度も繰り返されると茶番に見えてくるよね。『百合霊さん』は複数人視点、群像劇という形態をまるっきり活かしていない。元より薄いシナリオをさらに二倍三倍に希釈して読者の心証を悪くしているだけだ。
もう一つしょうもないところに突っ込んでおくと、
なんとか、声を出す。考えてみれば、面識、無いんだけど。
机ごと、そいつが、三年生の一人が床に転がったところに、声を上げて、飛びかかる。
わたしの名前。呼んだ、その、声。
振り返った。手はまだ、相手の服、つかんだままで。
なぜ『百合霊さん』の登場人物は、こうもカタコトに区切りながらしゃべるんだ? 読みづらいったらありゃしない。漫画の「気は優しくてウドの大木」系のキャラがこんなしゃべり方するよね。
げっちゅ屋のキャラ紹介文にでも書いてろ
『百合霊さん』のサブキャラに、常に気怠げで眠い眠いと呟いている、『咲-Saki-』の人気キャラである小瀬川白望のデッドコピーのような奴がいるのだが、こいつのマンセーされっぷりが露骨かつ執拗で辟易した。
ちょっと、いやかなり、三山さんの見方が変わった。
いつも眠たそうにしていて、あまりまわりに気を遣わないタイプの人だと思ってたけど……。
けっこう、鋭いところがあるんだな……。そして、友達のために何とかしてあげようって思ってるんだ……。
ええ、そうだけど、学校に来てゆっくり眠れないってどうなのかしら。三山さんって、ほんとに眠りたがりって言うのかな。
それでいて、人のこと、よく見て気付いているところがあるのも不思議なんだけど。おもしろい人。
「音七ってさ」
「うん」
メールの文章、考えて、それからケータイに打ち込んで。それを繰り返しながら、沙紗と話を続ける。
「案外、鋭いとこ、あるよな」
「うん、そだね」
音七、私と沙紗が付き合いだしたこと、ちゃんと知ってた。
それどころか、沙紗が私を好きだってことまで気付いてた。いっつも眠そうな感じなのに、ちゃんと気付いてた。
「正直、あたし、音七にバレてると思わなかった。でも、ちょっと考えてみたら、けっこう、納得しちゃってさ」
「……そだね。確かにそうかも」
前に一度、音七に小学校の時のアルバム、見せてもらったことがある。
その写真の音七は、けっこうぱっちり目が開いてて、すごい頭がよさそうに見えた。でも、ちょっと気むずかしそうで。あまり、笑ってる写真もなかったような。
「きっと音七って、ほんとはすっごい鋭いんだよ。観察眼あるっていうのかな」
いつも眠たそうにしているわりに、音七さんが他人のこと、鋭く観てることは知ってる。双野さんの気持ちに気付いていたみたいに。
強調は引用者による。ブサイクな文章だなぁ。こんなテキストは設定ノートにでも書いて留めておくべきもので、人の目に見せるものではない。ライターがそういうキャラ付けをしたいのはわかるが、「観察眼がある」「鋭いところがある」「人のこと、よく見て気付いているところがある」なんてのは、劇中の行動や発言から、自然に読み手に思わせることであって、周りのキャラに何度も何度も言わせてマンセーしちゃうのは下品極まりない。露骨に書かずにいかに情報を伝えるかって、ライターの一番の腕の見せ所だろう。『百合霊さん』のテキストは職務怠慢のレベルだ。
「名作だぁ?」「へへっ、寝言言ってんじゃねぇよ」
私が『百合霊さん』を駄作と言ってはばからないのは、百合ゲームというごくごく狭い枠に限定しても、この作品が足元にも及ばないほどよくできた作品がいくつもあるからだ。「百合ゲー+群像劇」という縛りでも『素晴らしき日々~不連続存在~』の壁が高く聳え立つし、『カタハネ』のクオリティにも遠く及ばない。さらに「百合ゲー+幽霊」という凄まじく狭い括りでも、フリーゲームの最高峰である『彼女と彼女と私の7日』が立ちはだかる。ライアークオリティでフルプライスを分捕っている『百合霊さん』はちと分が悪いかな(笑)。
例えば『すばひび』だ。各ルートのクライマックスで繰り広げられる、屋上での間宮卓司と悠木皆守の対決は、視点が変わることによって(読者の作品に対する理解度によって)その意味合いが目まぐるしく変わっていった。最初の視点ではただの引っ込み思案、ただの狂人にしか見えなかった人物が、別視点での描写によって一個の人間として存在感を増していった。どうだい? ああいった複数視点を利用した目の覚めるような演出が『百合霊さん』にあったかい? 例えば『アカイイト』だ。『アカ』のテキストはノベルゲームというジャンルにおける最高到達点の一つだ。分量自体は少なめの部類なのに、何気ない一文やキャラクターの何気ない一言(使った慣用句や言い回しにさえ)に尋常ではない情報量が込められていた。再読するときに「こんな含みがあったのか!」とハッとさせられっぱなしだった。どうだい? 『百合霊さん』のテキストにあれだけの密度があったかい? 例えば『アトラク=ナクア』だ。あの作品の文語調で格調高いテキストは、発表から十数年経った今でも異彩を放っている。どうだい? 『百合霊さん』のテキストに、質でも形態でもいいので何かウリになるようなことはあったかい? 『カタハネ』には原画から塗りからUIからフォントまでこだわられた美しさがあり、 『ととのか』にはフリーゲームという最強のアドバンテージとビジュアル・サウンド・テキストの総合力があった。『百合霊さん』が他の作品に誇れるものって何かあったかい? 登場するカップルの数と、男が絡まない(笑)ことぐらいじゃあないの?
こんなことを書くと「『アカイイト』や『アトラク=ナクア』は和風伝奇だし、『カタハネ』は中世ヨーロッパが舞台だし、『素晴らしき日々』だって超自然要素がある! 現代日本が舞台の『百合霊さん』の引き合いに出すのは卑怯だ! 面白さの基準が違うし、同性愛に対する倫理観も違うんだ!」と言う人が出てきそうだが、『百合霊さん』のゲームデザインの陳腐さ、シナリオの凡庸さ、テキストの薄さ、掛け合いのつまらなさ、価値観の古くささは、そんなこととは関係なく酷い。百合ゲーではないが、同じく普通の学園恋愛ものである『この青空に約束を―』のテキストはこんなに無駄だらけで、掛け合いはこんなにつまらなかったかい? 『Crescendo~永遠だと思っていたあの頃~』の登場人物はこんなに類型的で薄っぺらくて、アナザーシナリオはこんなクソどうでもいい余談レベルの内容だったかい?
考えてみれば、斬新な設定があるでもなく、大事件が起きてスペクタクルな展開があるでもなく、学生がただ勉強して部活して悩んで恋愛する百合ゲームって今までほとんどなかったんだな。スキマ産業だ。それで登場人物が普通に思い悩んで、普通に成長して、普通に恋愛をしてくれるんならよかったんだけどね。私は体験版をプレイして、『百合霊さん』がそういった作品になってくれることを期待していた。しかし、蓋を開けてみたらヤマもオチも意味もなく淡々と毒素をまき散らし、その上落としどころが「女同士、普通じゃない! でも愛し合ってる、ワタシたちの愛は絶対☆無敵!」というしょうもなさだったんだけどね。
百合ゲーの中にもADVの蒼々たる傑作群と比べても遜色ない作品はいくつも出ているが、この作品は「百合ゲーだから」とお目こぼしを受けないと評価できるレベルではない。その上、百合作品としても偏見丸出しで気分が悪くなる。駄作以外にどう言えっちゅうんじゃ。
『屋上の百合霊さん』適性チェック!
購入の参考になれば幸いだよ。本編から参考になりそうなテキストを抽出してきた。以下のテキストから受ける印象によって、この作品に向いているか向いていないか判定していこう!
※物語の導入部での台詞です
「女の子が好きで、大好きで……。その想いを強く抱えたまま死んでしまったから、こうして幽霊になっているの」
「恵も、サチさんのことが大好きで幽霊になったのよ!」
「ありがとう、恵。私も恵のことが大好きよ」
「…………」
え、なに、なにこの人たち。
「……えーと、あなたたちって、その……。
………………レズの人?」
「そういう、いやらしい言い方しないでほしいな。恵とサチさんはもっときれいな関係なんだから」
「のっけからよく言ってくれた! そうそう、百合とレズを一緒くたにしないでほしい」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「嫌な予感がする(I have a bad feeling about this)」と思ったあなたには絶対に向いていない。
「月代ちゃんってさぁ、その……、経験ずみなの?」
「え? なにが?」
「えっと、その、セックス」
「え、えええええ!?」
あ、真っ赤になった、今日初めて、月代ちゃんの真っ赤な顔、見れた。
「な、なんでそんなこと聞くの!?」
「だ、だって……、すっごく慣れてるみたいなんだもん。さわり方とか、キスの仕方とか、それっぽいし」
「な、な、ないです! ありません!」
「……じゃ、処女?」
「……そ、そうよ……。悪い?」
「ううん、悪くない」
なんか、すごいほっとする。独占欲なのかな、これって。うわ、独占欲ってこんなに幸せなもの!?
「恋人らしいってどういうことなんだろうね。私も、実はよくわからない。ずっと、恋愛ってわからないと思ってたから」
「わかんないの。その、私、誰かを好きになったこと、ないから。比奈のこと、その、恋愛の相手として好きなのかどうか、はっきりしないの」
「初々しい! よくわかってる、過去の話でも男の描写とかいらない」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「おっさんみたい」「処女厨・独占厨と百合厨って似た者同士だよな」と思ったあなたにはきっと向いていない。
「あたしたちのギョーカイでは、百合とレズの間には、深くて暗い川があったりするのです。もちろん、どっちもいけちゃう人もいますが」
「わかるわ~。相手を人間として好きになって、精神的な繋がりを大事にするのが百合で、最初から肉体が目当てなのがレズだ。一緒にすんなよな」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「くたばれ」と思ったあなたには絶対に向いていない。
「本当にすごくおいしいわ。恵はいいお嫁さんになれるわね」
「そんな……、お嫁さんだなんて。わたしには、サチさんがいれば……」
「ええ、わたしは幸せものね」
「……! は、はいっ!」
「結奈、き、聞いた? つまりね、今のはね、わたしがいいお嫁さんになって、サチさんに嫁ぐから、旦那様のサチさんは幸せっていう意味なのよ-」
「百合夫婦とか萌ゆる!」と思ったあなたには向いているかもしれない。
「旦那様……」と思ったあなたにはきっと向いていない。
※カップルになった後、よい雰囲気になっての台詞です
「ごめん。イヤだった?
なにするか、わかんないかも、あたし」
イヤって言ってくれたら、元に戻るから。そしたら、このまましばらく、適当に話してから、眠れるはずだから。なんにもしないですむんだからさ。
「ん、ちゅ……。桐……、気持ち悪く、ないよね?」
「いい……コーフンする。やっぱり女の子同士のエッチには背徳感と禁断の香りがないとな」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「気持ち悪がられかねないと思っていることをやんなよ」と思ったあなたにはきっと向いていない。
すごい、前向きだな。うまくいかないことって考えないのかな。だって、相手は同性なのに。
「えっと、あの、さ」
「ん?」
「C組の有遊さんってことは、その、同じ学校なんだよね?」
「ん。そうだけど」
「あのさ、同じ女同士だってこと、わかってるの?」
「へ?」
私の質問に、陽香はぽけんとした顔をして。しばらく黙っていて。
「あ、ああっ! そう言えばそうだな!」
なんて……、今気付いたような声をあげて。
いや、たぶん、ほんとに今気付いたんじゃないかな。そんな気がする。
「うわー、女同士じゃん。全然、気付かなかった!」
「はぁぁ……」
「まぁ、気付いてなかったのはいいとして……でも、今、気付いたでしょ? どうするの?」
「うーん……」
「でも、これってすごいロックな恋だよな!」
「そ、そうじゃないでしょ? 自分が変だと思わないの?」
「そうか? だって好きなものは好きなんだしさ。女同士だからって関係ないだろ?」
なんとなくわかった。
陽香にとって、有遊さんだけが好きになった特別な人で、他は関係ないんだ。女同士だとか、そういうことは。
「陽香にとっては、女同士って言うのは、あんまり気にならないことなのね」
「つか、ツッコまれるまで気にしなかったぜ」
本当はツッコまれても気にしねぇけど。
「ロッカーは些細なことぁ気にしねーんだ!
ビートは外したら怒り狂うけどさ」
「そうだよな、真実の愛に性別なんて関係ない! 性別を超えた愛って綺麗だよな」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「性別が些細なこと……?」「ロックロックってよ、テメェは洋楽覚えたての厨房かコラ」と思ったあなたにはきっと向いていない。
※同性愛者の知人が何人も出来たあとの主人公の台詞です
「お、女同士なんだよ? もう今さら、それが変だとか思わないけど……。
でも、まわりの人は、そう考えてくれないかも。お父さんやお母さん、比奈のおじさんやおばさんを困らせるかもしれない」
「比奈にだって……、私が恋人だってことで、迷惑かけるかも。比奈が、変な目で見られたら、どうしよう……」
「結奈、別に、同性愛とか百合とか、女の子同士とか、そういうのが嫌いってわけじゃないんだよね?」
「そう思っている。確かに、最初は変なことだと思った、恋愛って男女の間のものだと思っていたから。それが普通だと。
でも、確かに普通じゃないかもしれないけど。誰かを好きという気持ちの行き先には、たとえその先が同性であっても、変じゃないと」
「ウンウン、やっぱり百合には葛藤や世間の偏見がないと駄目だよな。最近の百合作品は何の障害もなく恋愛しだすから困る」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「畜生か何か?」「てめぇが抱えてる偏見を相手や周りの人間のせいにしてんじゃねぇスッタコ」と思ったあなたには絶対に向いていない。
※教え子に手を出した国語の教師の弁です
学生相手に、恋人だけは作っちゃうなんて……。しかも、同性、女の子。どういうことなのよ……。
桐に告白されて、そのまんま、押し切られちゃった、感じ? だって、どんどん綺麗になってく桐が悪いんだもん。
だって……、私、先生で桐は学生なのよ? 同じ学校の先生と教え子なのよ? しかも、女同士なのよ? ほんとにこれでいいのかなって悩んじゃうわよ。
「……でも、好きなんだよ、私、月代ちゃんのこと」
「うん、知ってる。そういってくれたものね。大好きよ、桐」
「うん……」
私は、先生なのに。桐は、学生なのに。そして、二人は女同士なのに。
「でも……」
この関係は間違いなんかじゃない、勘違いでもない。
つないでいる手は、確かなもの。
「大好きな、桐。大好きって言ってくれた、桐」
「あなたがいてくれるから」
これは、本当は許されないこと。教え子と恋仲になる教師、だなんて。それも、同性同士でなんだもの。
私が教師であるのなら、これからもあり続けたいのなら、あの子の気持ちに応えるべきではなかったのかも。
最初の告白を受けたときのように、教えて、諭して、言い聞かせて。そのまま、二度目の告白に応えるべきじゃなかった。あの子の未来を考えるなら。
(まあ、いいか)
ふ、と、今度こぼれたのは、溜め息なんて憂鬱なものじゃない、軽やかな笑みで、自分でもおかしいくらい。
ええ、そう、そうよ。そんな笑みを漏らしてしまうくらい、私は浮かれている。
道ならぬ恋、表にはできない恋。そんな言葉に非難されても、罪悪感は私の心を上すべりしていくばかり。危機感というのは、自分でもあきれてしまうくらい、薄い。
あの子が私に寄せる想いに応えたかったの。そんなどこかで聞いたみたいな建前なんかよりも、何よりも私の方だったの。桐、あなたを好きになってたの。
その想いのほうが、大人が、教師が、という立場よりも強かっただけのこと。
(なんとかなる、そういうものよ)
「切ねぇ……。でも、女の子同士の恋愛はは障害が多いからこそ美しいし、許されないからこそ燃え上がるんだ!」と思ったあなたなら楽しめるかもしれない。
「酷ぇ出来のポエム、本当に国語の教師なの」「こんな偏見まみれで無責任な奴が教鞭を取ってるところがユートピアなわきゃあない」と思ったあなたには絶対に向いていない。
やっぱり女教師の電波度が頭一つ飛び抜けているな。未成年と校内セックスというやることはしっかりやってるくせに、よくもまぁこれほど稚拙で電波全開な持論を脂下がった面で垂れ流せるもんだ。誘惑に負けて許されないこと(この女の弁)をやって、しれっと(まあ、いいか)(なんとかなる、そういうものよ)で流してんじゃあないよ。無責任にもほどがあるだろう。教師の風上にも置けない、唾棄すべきクソ野郎だよ。
ナノニーダケドーデモー
「先輩、同性愛ってどう思いますか?」
「え、ええ!?」
「あああ、え、えっと、その、わ、わたし、わたしって!
その、自分がそういう人だっていう自覚とかなくて、別にそう思ってるわけじゃないんですけど!」
「その、やっぱり先輩のこと、好きなんです。先輩、女の人なのに好きなんです! ほんとに!」
「だ、だから、先輩がそういうの嫌だったらやだなってその、でも先輩好きなのはほんとで、あれ、あれ?」
こんなに牧ちゃんががんばれるのはやっぱり、わたしが好きだからだろうか。私の思い上がりかもしれない。でも、そうだからなんだろうか。
同じ女の子同士なのに、それが変かもしれないとわかっていながら、でも、わたしに告白してくれた。それは、すごい勇気のいることだったにちがいない。
初めて聖苗が好きって言ってくれた時は、わからなかったけれど……。
今なら、わかるの。聖苗が、好き。女の子同士だけど、好きなの。あなたの気持ちに……。
すごい、前向きだな。うまくいかないことって考えないのかな。だって、相手は同性なのに。
あたしは答える。うん、そう。友達としてじゃなくて、好きなんだ。いつも羽美が言ってくれる、友達としてじゃなくて。
「そ、そのさ……、それって、変じゃ、ない? わたしたち、女の子同士なのに、さ……」
「……うん、そうかも」
そんなこと、わかってる。
「でも、あたし、羽美のこと、好きなんだ。
あたし、変でもいいよ。でも、好きなんだ。ずっと、言いたかったんだ」
比奈の想いを変だと思うことはもうない。今まで、女同士でも、あんなにひたむきに、まっすぐに、想いを相手に向けている人を見てきた。
「……でも、好きなんだよ、私、月代ちゃんのこと」
「うん、知ってる。そういってくれたものね。大好きよ、桐」
私は、先生なのに。桐は、学生なのに。そして、二人は女同士なのに。
「でも……」
この関係は間違いなんかじゃない、勘違いでもない。
つないでいる手は、確かなもの。
「大好きな、桐。大好きって言ってくれた、桐」
「あなたがいてくれるから」
強調は引用者による。どんだけ好きなんだよ。
この「なのに」「だけど」「でも」のつるべ打ち! 凄ェ! 最後の電波教師による三連撃が圧巻だ。悲劇のヒロインぶって「トクベツ」な恋愛をしている自分たちに酔っていることがよくわかる。
こんなカビくさい表現を平然と使いつづけている時点でライターの底が知れるよ。いくらリベラルぶって理解があるよう取り繕っていても、馬脚が見えてるっつの。WEBの国語辞典で確かめたが、「なのに」「だけど」って前者(女同士)と後者(好き)が相反するとき、矛盾する時に使う言葉だよ? もし、当事者の視点で真摯に書こうと思っていたら、登場人物に延々こんなことを言わせるなんてことは出来ないはずだよ。少なくとも私は、自分たちのアイデンティティを「なのに」「だけど」などとスティグマ扱いされたくないし、誰からもこんな放言を聞かされたくない。公表するかどうかはさておき、自分の性に胸を張って生きていきたい。みなさんはどうでっしゃろ。
私は「確かに普通じゃないかもしれない、でも私たちは愛し合っている!」などというお高尚な思考は、しょせんは空想のキャラクターだからできるものだと思っている。一度きりの人生を歩む、血の通った人間の思考とはとても思えない。「違う! それこそ偏見だ!」「普通になんてならなくていい!」と言われても「じゃあ根本的に価値観が違うんですね」としか返せないが。こんな無茶苦茶なことを言わせられるのは、あくまで書き手にとって他人事に過ぎないからで、自分が「普通じゃない」扱いされる側に回ることを考えたこともない奴がひりだすクソたわ言だと考えている。だから『百合霊さん』はマジョリティ側の「こうだったら美しい! こうだったら萌える!」という都合のいい妄想――ユリトピア(爆笑)だったっけ?――の具現化にすぎないし、フツーじゃない恋愛に憧れる人に向けたお花畑ファンタジーだと思っている。登場人物が総じて現実味が無く、思考が支離滅裂で浅薄極まりないのは、ユリトピア(笑)を維持するためだけに存在する“コマ”にすぎないからだろう。思考の一貫性なぞ望むべくもないし、端から求められてもいないわけである。あくまで求められる萌え台詞を正確にしゃべるのが仕事なのだから。
私はこの作品のように、一見理解があるようで、その実無邪気に「普通じゃないもの」「背徳的なもの」「許されないもの」という価値観を刷り込んでいる作品は、露骨に偏見を示している作品よりタチが悪いと思っている。
よかった探し
上述したように、この作品の登場人物は思考回路が理解不能な人間が大多数を占めるが、人間味を感じる人もちらほらいた。最も考え方に共感が持てたのは陸上部の部長と副部長のペアだ。この二人は将来を約束しあっていて、卒業後は一緒の大学に進学してルームシェアをする計画を立てている。学生のうちからちゃんと将来を見据えている。えらいっ。「同性同士の恋は一過性のもの」「儚いからこそ美しい」という風潮がある中で(前者はこの作品中で電波教師が力説していた)、こういう地に足の付いたカップルを描いているのは賞賛できる。それとこの二人は肉体関係についてあっけらからんとしていているのもいいね。他の「気持ち悪く、ないよね……」だの「嫌だったら言ってね……」だのうだうだ言い出す連中に比べてずっとクールだ。
そんな人でも、こんなに残念なことを口にするところが『百合霊』の並じゃあないところだ。
女の子同士なのにとか、そういうことはあまり深刻に考えなかった。
ちょっとは悩んだけど、それ以上に茉莉が好きなんだという気持ちに気付かされたのが大きかった。
あるいは……、そのうち、二人とも普通の恋愛へと目が覚めるかもしれない。そう考えていたのかも。友達の延長くらいに考えていたのかも。
こんなに長い付き合いになるなんて、想像していなかったのかも。
茉莉のご両親はけっこう寛容な方たちだったけど、うちはちがう。お父さんもお母さんも、私をちゃんと愛してくれているけど、躾とかそういうのは厳しい。
茉莉が私の恋人だと知ったら、どんな反応するだろう。きっと、反対する。それが当たり前。常識的な人たちだから。ちゃんとした意味で。
この「きっと、反対する。」「それが当たり前。」「常識的な人たちだから。」「ちゃんとした意味で。」の怒涛の勢い! まるで奴隷の鎖自慢のようで、当事者のセリフとはとても思えない。あと、躾が厳しくて常識的なことと、セクシャリティに正しい理解があるかどうかは全く別物では……。
エンディングの曲はまずまず悪くなかった。Ritaのソウルフルなボイスはよいね。
ノベルゲームとして優れているところは、どう頭を捻っても思いつかない。
悲しいかな、アウトプットのトンチキさが際立っている
『百合霊さん』のストーリーにおいて、最終的に七組ものハッピーな同性カップルが成立することになる(数え間違えていたら申し訳ない)。カップルの組み合わせも(学園の構成員という括りはあるものの)教師と教え子、先輩と後輩、仲良し三人組からの派生など多種多様だ。全ての組がお互いを大切に思っているのも好感が持てる。とても素晴らしい。うん、いいこった。剛直棒至上主義のアダルトゲーム業界で、これだけ女同士のカップルが登場する作品を発表したチャレンジ精神は買われてしかるべきだろう。しかし、結局、何組ものカップルの仲を取り持った主人公に「同性同士の恋愛はやっぱり普通じゃない。でも、お互いが好きあっていればOK」という玉虫色のロジックしか言わせることができないのが、ライアーソフト並びに睦月たたらなるライターの限界なんだろう。お里が知れる。……何だか不安になってきたんだが、「なぜそこから『同性同士って案外ありふれているのね』という結論が出てこないんだ」と思ったのは私だけじゃあないよね?
この発言に代表される、『百合霊』の登場人物が周囲の人間もとい自分自身へ向けるスティグマ視に対して、未熟な学生だから仕方ないし本人は差別しているつもりじゃない、ライターの意見じゃない、という擁護を見かけた。無理筋ではないだろうか。当然成人しているだろう人間が脚本を書き、登場人物に斯様な発言をさせている以上、それを否定させる展開すら入れないのは偏見を肯定しているのと同じことだろうよ。
新しい百合ゲーが世に出ることは、いち百合ゲーマーとしてもちろん嬉しいことだ。だが、私は『屋上の百合霊さん』程度の凡作で満足できるほど痩せた考えは持っちゃあいないし、つまらない上に随所で有害な電波を発してくる作品を人に薦めようたぁ思わない。このレベルの作品が量産されてもちっとも嬉しくない。
思えば、全盛期のめてお在籍時代から通して、嘘屋の作品を鑑賞して「よかった!」と思ったことがほとんどねぇや。
屋上の百合霊さん

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「たった7組」か? 「7組もいる」のか? マジョリティ目線の妄想ユリトピア(笑)『屋上の百合霊さん』
※コメントありがとうございます
「たった7組」説から弱者憑依まで - どうしても同性愛を「普通じゃない」ことにしたい百合オタさんたちのロジックが変すぎる - みやきち日記
2012/04/14 言葉が足らないところがあったので大幅に加筆修正。初投稿時の2.5倍くらいになった。まだ書き足りないので、近いうちに新しく記事を立ち上げる。
2021/07/26 また加筆修正。
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