SaDistic BlooD/真愛の百合は赤く染まる 感想 ピギー・スニードすぐ死ぬ 

選択肢でダイナミックに展開が変わる構成やメインルートの妙に熱い王道シナリオが好きなんだよォォッ!
というわけで、和泉万夜がやにわに発表した2本の百合ゲーム『真愛の百合は赤く染まる』『SaDistic BlooD』をまとめて評論する。序文が感想のほぼすべて。
バンヤーがなぜ立て続けに百合ゲーを? と首をかしげたが、思えば『MinDeaD BlooD』では悠香と今日子でなかなかグッとくる女女の関係を書いていたし、『EXTRAVAGANZA』でも夢美とアゲハにえげつない愛憎をぶつけさせていた。嫌いではなかったんだろう。
まず、『アカイイト』や『カタハネ』のような百合ゲーをやりたい人にはまったくもってお薦めしない。バンヤーを履修している人には今さらな忠告だろうか。『真愛』も『サディブラ』も主役のペアが凄惨な凌辱や拷問を受ける上、その度合も心身ともに修復不可能なレベルで破壊される容赦のなさだ。加えてガチガチにヘテロノーマティブで男性本位である……倫理観のぶっ壊れた凌辱ゲームに言うのも変な感覚だが。例を挙げると、『真愛』では主人公の真奈美に同級生からの差別でまともな学校生活が送れなくなったという酷い過去があり、『サディブラ』ではパートナーの愛撫も男性器を挿入される快楽には敵わないというシオシオのパーな描写がある。
和泉万夜の作品としても、名作の呼び声が高い『MinDeaD BlooD』『EXTRAVAGANZA』『無限煉姦』からは一枚落ちると感じた。私は凌辱や人体破壊のシーンでまったく心がときめかない人間で、にもかかわらずバンヤーの作品を読んでいるのは、出だしで書いたようにシナリオや分岐の面白さが抜きん出ているからだ。しかし、この二作品については持ち味があまり発揮されていなかった。以下、若干のネタバレがある。
『サディブラ』は主人公側の吸血鬼の選択――パートナーに吸血で力を与えるか、分かれて戦うか――によって敵方のハンターとのパワーバランスや攻防が入れ替わるのがよく出来ていて、甘言や交渉によって相手の裏切りを誘って戦況がひっくり返るところも面白かった。あとは由奈と静羽の関係性が素敵で、マスター・スレイブの結びつきがちょっとしたミスディレクションまで含めて魅力的に書かれていた。
逆に物足りなく感じる点は、一つは登場人物の掘り下げが中途半端なこと。主人公側は文句なしに書けているが、敵対する優衣架の人物像がぜんぜんわからなかった。彼女の部下であるグレーテルは美意識が狂った奴で、いかにもバンヤーという異様な存在感を発していたが。もう一つは、分岐はあるもののハンターの襲撃から決着が付くまでがあっという間で、それこそ『MinDeaD BlooD』のいちエピソードというくらいの尺しかないこと。勝敗が決してから敗者が受ける拷問や凌辱については過去作品と同等に奇天烈なものが執拗に書かれているのだが、上に書いた通り私はバンヤーのゴア表現が好きなわけではない。不満点はおおよそロープライスのボリュームに起因するだろうか。
『真愛』のよいところは不穏さだ。真奈美は最初こそ愛実という運命の相手に出会えたことに舞い上がり、恋人との生活に酔いしれるが、だんだんと相手の性格に重篤な問題がある(控えめな表現)のに気づいていき、幸せな関係と幸せな日々に綻びが生じていく。さらに、謎の人物が愛実を奪った真奈美に対して憎悪を募らせていく様子がインタールードで語られていく。このじわじわと足元が崩れていくような不穏さが残酷に読ませてきた。そして、愛実が完全に本性をあらわにしてからは、一つ行動や言動を間違えるとスイッチが入って恐ろしい目に遭わされる(かなり控えめな表現)ので、選択肢は不発弾の信管を抜くような緊張を強いられてスリリングだった。他には、明確なトゥルーエンド以外にも印象深いエンディングが実装されているのもグーだ。中でも愛実に両○○○を○り○○してもらうエンドは、シリアスなギャグに突入している破壊の描写や絵面のインパクトもあって面食らってしまった。あれは相手の如何ともしがたい衝動まで含めて受け入れる真実の愛という捉え方もできるし、相手の狂気に取り込まれたとも考えられる。いずれにせよ、真実の愛というのは酷く畸形的なものだ(『水夏』)。
一方で、過去作ではドス黒いシナリオの中でも、王道ジャンプ漫画もかくやのバトルや悲運に見舞われた者にも誰かが救いの手を差し伸べてくれる浪花節が光っていた。今作は立ち回りや駆け引きがほぼない上に存在感のある脇役もいないので、この一服の清涼剤が燃料切れを起こしてしまった。真奈美らの末路が決まってから心と身体が捻じ曲げられていくさまがたっぷりねっぷり描写されるのは『サディブラ』と同様なので、読み進めるのがなかなか厳しかった。
他に過去作品と共通する点は、難易度が異様に高いところだ。さすがに『マイブラ』ほどではないが……。個人的にはノベルゲームでフラグ立てに四苦八苦するのはそんなに好きではないのだが、バンヤーの作品はクソ難易度と魅力が密接に関わっているので判断が難しい。『真愛』のトゥルーエンドはおそらく○外○○して結○する終幕で、『サディブラ』は鉄塔で二人が○○する「主と眷属と」だと思うが、あまりにも惨たらしいバッドエンドを嫌というほど見せられて、終わりなきトライ&エラーの末にどうにかこのエンドに辿り着いたときは、思わずうるっと来てしまった。バンヤーの冷静な文体が静かに感動を掻き立ててきて、美しく印象的な一枚絵がグッと胸を揺さぶってきた。救いのないホラー映画を見終わって現実に帰ったときのような、悪夢から覚めて夢だと気付いたときのような、心がととのう感覚があった。しかし、どうにも騙されている気がする。これってDV彼氏がきまぐれに優しくしてくるとよい人に見えたり、ブラック企業のブラック研修で新人が救われたように感じたりするのとおんなじ理屈ではないだろうか? よく言えばクリフハンガーが巧くて、カタルシスを演出している。悪く言えばマッチポンプで、吊り橋効果かストックホルム症候群の類ではないか。和泉万夜の作品にはいつも騙されている……。でも、どうせ騙されるなら予算と時間をたっぷり掛けたシロモノで盛大にだまくらかされたい。
その他もろもろ。
『サディブラ』の原画担当である上田メタヲは人体とポーズが硬くてカッチカチやぞという印象があったのだが、今作と『魔法少女消耗戦線』をやってかなり認識を改めた。ずいぶん、鍛え直したな……。
『サディブラ』は過去作品の傾向通りで、主役二人での絡みは導入の一回こっきりで、あとは乱交か拷問か凌辱だ。一方『真愛』は中盤まで愛のあるエッチがあり、いちゃラブなデートシーンもけっこう尺が取られている。だからあの御方が暴れ出してからの酷さが際立つんだけどね。
百合ゲームが好きな人に薦める気は毛頭ないが、バンヤーの才能の片鱗を感じる二作だった。
BLACK Cyc 18禁PCゲーム『SaDisticBlooD』公式サイト

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