その花びらにくちづけを ミカエルの乙女たち 感想 ワンパンレズゲー 

同人レズゲー『その花びらに口づけを』シリーズで知られるサークル「ふぐり屋」が商業進出し、「ゆりんゆりん」ブランドとして発表した処女作である。タイトルからも分かる通り、その花シリーズの世界観をそのまま引き継ぐことにしたらしい。今作でも物語の舞台は今までと同じ学園であるし、また新カップル一組に加えて歴代のカップルどもが総登場し、各作品のエンディングを迎えた後のあれやこれやが描かれる。このように、今作品はその花シリーズの総まとめ的な色合いが強い。
さて、同人時代はあくまで遊ばせてもらっている身だったので余計なことを言うのを避けていたが、晴れて商業化されたので忌憚のない意見を述べることにする。まるで成長していない……。同人時代から何も進歩していない。どこを切っても同人丸出しだ。脚本は相変わらずのイチャコラアンアン先にありきで「プロット? フック? ドラマツルギー? ストーリーテリング? カタルシス? 何それおいしいの」状態だ。キャラは歩く記号といったあんばいの空疎さ、薄っぺらさで、プレイから数ヶ月か経った今では誰一人名前を思い出せやしない。サウンドもひどい。この業界は音楽単体でも心に染み入るような出来の作品と、ホームセンターやスーパーの安売りを連想させる作品との二極化が激しいな。グラフィックは唯一の救いなのだろうか。確かにぺこの絵そのものは可愛いらしいし、絡みも綺麗に描けている。が、よく見ると塗りが暗めで今ひとつだな。
はっきり言って、こんなものをフルプライスで売り出してはいけないと思う。2000円で売る低価格路線の作品を5本分ぶっ込んだところで、商業フルプライスのクオリティーになるわけがない。
ワンパンレズゲー
このサークルの同人時代の作品に対する印象は「ワンパンレズゲー」だった。ここで言う「ワンパン」とは以下のような意味である。
ワンパターン(素直になれないOR一目惚れ→イチャコラ→すれ違い→イチャコラ)
ワンナワー(一時間読んだだけで)でパンパン(もうお腹いっぱい)
ワンナワー(一時間も読めば)でパンッパンッ!(エロシーン)
このうち即ハメだけは改善されていた。要するに、シナリオの分量だけは盛大に水増しされていた。しかし、テキストの質が同人時代から全く上がっていない。地の文章は小学生の日記のようで、掛け合いは毒にも薬にもなりゃあしない。やたら多い季節のイベントネタも、過去作品のヒロイン勢との絡みも、読んでいて何ら面白くないので嬉しくも何ともなかった。こんな出来ならむしろさっさと終わってくれた方が嬉しかったのは内緒だ。ワンパターンはなお健在で、フルプライス用に増設されたシナリオを何本も読まされるので余計に際立っていた。一時間でもうお腹いっぱいだ胃もたれと胸焼けがする、というものを五、六回読まされた私の心境をわかってほしい。
擁護になるか分からないが、一応、シナリオに起伏や山場らしきものは用意されてはいる。努力(悪あがき)の痕跡はかろうじて見受けられる。しかし、総じて芸がなさすぎる。新カップルはくっつくまでに結構な期間の溜めがあるのだが、まず「ひょっとして私はあの子のことが好きなのかしら? いや、そんなはず無いわ……きっと気のせいよ……」という鈍感さで引っ張り、次に「ひょっとしてあの子は私のことが好きなのかしら? いや、(略)」という鈍感さで引っ張るという芸のなさ。そんなものは作劇ではなく単なる引き延ばしである。また、新規のカップルにも既存のカップルにも、シナリオの後半に申し訳程度のすれ違いや衝突が起こるのだが、それに向かう様子があまりに茶番じみている。まず最初にすれ違うという結果ありきで、そこに至るまでの思考や行動の経過に全く説得力がない。説得力を持たせようとする意思が全く感じられない。強引すぎる展開と意味不明な心理描写のせいで、先が気になったりやきもきさせられたりするより前にキャラの正気と思考力の欠如を疑ってしまう。シナリオというものはキャラクターを生き生きと描写するためにあるものだと思うが、それがキャラの思考を殺しているのでは本末転倒だ。こんな有様なら徹頭徹尾イチャコラキャッキャッウフフに徹した方がまだましだったのではないだろうか。
こんなことはグローバルスタンダードになってほしいものだが
このサークルは同人時代からそうだったが、古臭い偏見や鼻につく選民意識がないのはよいね。だが、それが2012年現在において強力なセールスポイントになるかと言われると何とも言えない。2010年代前半に量産された百合オンリーゲーを振り返っても、『星彩のレゾナンス』だってホモフォビアは全く無かったし、厨房の選民意識を擽る作風なのは『屋上の百合霊さん』だけだ。あれがいかに時代錯誤かよく分かる。この作品はとりあえずスタート地点に立ってはいるが、そこから一歩も踏み出していない。『マリみて』をちょろまかした世界観にどこかで見たような造形のキャラを配置して絡ませているだけだ。百合(女の子同士のいちゃいちゃ)が好きで書いているのは端々から伝わってくるが、クリエイターとしての矜持や誠意といったものは全く感じられない。
まとめ
仏の顔も同人時代まで。商業フルプライスでこの品質はありえない。今日性が全く見当たらない。少女たちが92や69、貝合わせに興じる絵面に過剰な価値を見出せる人以外にはお薦めしかねる。処女厨をこじらせた類の百合厨はこの程度の作品でも大満足なのだろうが、ひとえに面白い百合ゲーがやりたいだけの私には何も得るものがなかった。このブランドの新作を律儀にプレイするのは賽の河原の石積みに等しいことがよくわかった。もうやらないだろう。
何でもこの作品は萌えゲーアワードで何かの賞を獲ったらしいが、百合厨のお歴々の執念と団結力もバカにならないな。可愛い絵とエロを取ったら本当に何も残らない本作や、『百合霊さん』のような前時代的で低品質な作品がもてはやされている辺り、百合ゲー業界はまだまだ黎明期の様相だ。あのような低予算・低品質・高価格の作品群を御の字で受け入れてはいけない。
その花びらにくちづけを ミカエルの乙女たち

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