凍京NECRO<トウキョウ・ネクロ> 感想 絶望と死の渦中で希望と生がひかめくダーク・スチームパンク 

『凍京NECRO〈トウキョウ・ネクロ〉』はまずもって、ダークファンタジー、武装アクション、スチーム&サイバーパンクといったジャンルものとしてよく出来ています。先が全く読めない脚本と、生と死、生者と死者、愛と憎、絶望と希望が激しく明滅するドラマ。ひと癖ふた癖どころでは効かない、強烈な個性揃いの味方陣営。憎んでも余りある下劣漢なのに、歪んだ美学や哀れさも持ち合わせた敵陣営。士郎正宗(『攻殻機動隊』への言及は二、三回あった)を引き合いに出したくなるほどの無駄な情報量の多さ(褒め言葉)。近未来でカオスでどこか勘違い日本チックでパイプ地獄な凍京のビジュアル。ニトロのお家芸である3Dモデルで描かれる、チンポ触手槍、3Dプリンタ特殊銃弾(開発時期を考えるともの凄く手が早い)、銃剣ならぬサイ・ピストルといった奇怪奇天烈な武装。奇手また奇手の応酬でぐいぐい引き込まれる殺陣。主観カメラで視点と手元が面白いほどよく動く、疑似3Dの戦闘パート。ついに時代もここまで来たかという、ぐりぐり動く完全3Dの戦闘パート。才気や技術力や金や手間暇がこれでもかと注ぎ込まれています。延期を辛抱強く待った甲斐はありました。最終的にこんなモノを出力してくれるなら、むしろがんがん延期してください。
『凍京NECRO』が並じゃあないところは、上記のような完成度に加えて、マルチシナリオのアドベンチャーゲームとしての完成度も両立されているところなんですよ。この作品ほど、読み物としての面白さとそれとが高い次元で結合している代物はなかなかありません。縦軸の脚本の面白さもさることながら、横軸の世界線をまたぐ演出が白眉なのです。まず、一つのルートだけでは全ての謎、全ての人物の真意が判明せず、全ルートを読み解くことで初めて世界の全体像が確認できるデザインが秀逸です。そしてマルチシナリオは、ルートの違い(フラグの違い)によってそれぞれ全く異なる展開と結末を見せるのが素晴らしいですね。ルートによって、妙な巡り合わせから呉越同舟する敵がいるかと思えば、悲劇の末に立ちはだかるかつての味方がいます。エクスブレイン、メッシュネットワーク(ハイウェイコマンド)、仮想環境、都市といったガジェット・概念は展開によって発展・拡大解釈され、時には他の要素と結びつけられて、枝分かれした物語をあらん限りの力で牽引していきます。その発想力、応用性には度肝を抜かれました。あるエンディングを迎えても「早く次のルートを読みたい」と思わせる訴求力は、結局コンプリートまで衰えることはありませんでした。率直に言って、いかれた構成力だと思います。
他にも、本編におけるある人物の進化とリンクする、タイトル画面とエンディング曲の演出や(ああなることは予測できていたが、最初の一語が聞こえた瞬間涙がちょちょぎれた)、シーンを盛り立てる高品質の楽曲(ニトロのサウンドは本当に安定してるなぁ)など、美点を挙げればキリがないです。全方位において隙がない作品、という賛辞を送らせてください。画面演出やサウンド、そしてプレイヤーとのインタフェースまでを含めた総合芸術、と言い換えてもよいです。
あえてケチを付けるなら、この期に及んで同性愛を「嗜好」と表現しているとか(深見真はずっと前からこう書いている)、テキストが、食い入るように読んだ虚淵のそれに比べると若干見劣りして感じられるとか、場面転換の演出で毎回ご丁寧にネタバレするのはどうなのよとか、完全3DのモデルがPS2レベルのローポリであるとか、それぐらいでしょうか。こんな漠然とした指摘や挙げ足取りしかできないことから、完成度の高さを察してください。
最後に、この作品が非常に人を選ぶ作品であることは断っておきます。それはもちろん、深見真イズムさく裂な暴力・欠損描写、拷問描写、果ては生命倫理や親しい人の人間性が冒涜される描写があることの注意でもあります。しかし、この作品の何が一番おぞましいかと言えば、人間の浅ましさ、絶望への弱さをこれ以上ないほど克明に描いている点です(この点が低俗なサイコスプラッタと一線を画す理由でもある)。少なからぬトラウマを植え付けられる可能性もありますが、同時に愛と希望の限りない尊さを謳う、どこか甘っちょろくてヒューマニスティックな作品でもあります(この点が皮相な露悪を超越できた理由でもある)。なので、最終的な判断は自分自信で下すべきでしょう。
「生きている限り、希望はあるよ」
希望ってやつは、少しだけ、残酷だ。
生きるとは、死ぬことだ。
人間は、種をそうやって繁栄させてきた。
願わくば、悲しみの感情よりも、喜びの感情が多いことを。
憎しみよりも、愛の感情が多いことを。
生きるってことは、死ぬってことで。
だから、胸を張って言おう。
あたしは精一杯、生きたんだ。
――よし、決めた。
とことんまで楽しんでやる。
とことんまで暴れて、とことんまで――生きてやる。
最後の最後まで、謳歌してやる。
それがあたしの生き様で――
死に様だ。
一年半と少し前、『NECROMANCER ネクロマンサー(仮称)』のティザーサイトを見て、私のエクスブレインは「深見真か。銃器とレズビアンと拷問だな」「発売日に買って、やる」とサジェスチョンを出していたのですが、大正解だったと胸を張って言いましょう。
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