東方Project 感想 無国籍和風伝奇弾幕シューティング/反復の快感 

改めて紹介するまでもない作品……いや、もはや作品という枠に収まりきらないコンテンツ・シェアードワールドと化しているが、近代ギャルゲー・エロゲーを語る上で避けては通れないブツなので、ひと言ふた言書いておこうと思う。
同人コンテンツとしての東方
『東方Project』はZUNの手による、無国籍和風伝奇レトロスペクティブ世界「幻想郷」を舞台にした、弾幕シューティング、弾幕格闘、書籍やCDと言ったマルチジャンル/マルチメディアで展開される作品群の総称である。
東方が史上でも類を見ない規模の同人コンテンツだったことは、誰もが認めるだろう。この作品群があれだけの長期間に渡って隆盛を誇った要因については既に語られ尽くしているが、個人的な意見も述べておく。この項はDG-Lawさんの受け売りがかなり含まれているが、許してほしい。
東方の希有な特徴として、バトルも日常もシリアスもギャグも和風伝奇も西洋ファンタジーも許される風土がある。シリーズを通しての最重要キャラである紫が「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」とのたまっているが、奇しくも東方そのものを言い表していると思う。
まず、このシリーズには明確な目的・ゴールが定まっていない。他の作品・コンテンツで言えば、聖杯戦争を勝ち残るとか、連続猟奇殺人の謎を解くとか、まどかを死守しつつワルプルギスの夜を撃破するとか、そういったものだ。いちおう各作品単位で言うと、神や妖怪が異変を起こして調停者たちがそれを解決する、というフォーマットがあるものの、「異変」の括りが大きすぎて何でもありに近い。これは15弾を重ねる長期シリーズゆえの特性とも言える。物語のベクトルは自由自在・千変万化で、私は近いものとしてテーブルトークRPGを連想した。そして、シリーズとしての明確な終着点、最終回のビジョンは2016年現在を以て提示されていないし、これからもされない可能性が大いにある。
作風もシリアスなのかお遊びなのか、ジャッジが難しい。異変の解決において、ゲームの進行に沿った盛り上がりはドラマチックに演出されるが、終わってみればそれが幻想郷の深刻な危機だった試しはほとんどない。杞憂に終わるどころではない、お騒がせ・ずっこけ・出オチ案件は数知れない。そして弾幕シューティングでも弾幕格闘でも、熾烈な戦闘が繰り広げられはするのだが、スペルカードルールに則ったそれが「弾幕ごっこ」と表現されるのは象徴的だ。私は東方の作風を、ときどきシリアス編やバトル編もやったりする日常ギャグ漫画的、と捉えている。また、原作東方のキャラクターは、わりかし冷淡で皮肉屋、社交性があんまりないとよく言われる。二次創作でのべたべたした描写に慣れていると面食らうこともしばしばある。しかし、原作に情感が全くないかと言われると決してそんなことはなく、キャラクター間の信頼や親愛も描かれている。浪花節なウェットさはないがからっからにドライとも言い切れず、カップリング的においしい描写がふとした折に差し込まれる。
他に作風の自由化に拍車を掛けているものとして、ZUN自らが『三月精』『鈴奈庵』『茨歌仙』といったスピンオフ作品で、幻想郷の日常やどうということもない事件を書いている点も挙げられる。日常系ゆるふわスピンオフの展開自体はある程度の規模のコンテンツでは珍しくないが(『艦これ』も『ガルパン』も『まどマギ』も『ハルヒ』も『咲-Saki-』もやってる)、シリーズの総監督が話を書き、しかもあれだけの量を供給している例はぱっと思いつかない。また、スピンオフ作品群の中でも『秘封倶楽部』の果たしている役割は特筆するべきものだと思う。近未来の日本を舞台に、(異能持ちではあるが)普通の女学生を主人公にして、幻想郷を外から観測するこの作品の存在が、シリーズにさらなる自由度、神秘性と多次元的な奥行きを生んでいることは主張しておきたい。
ときに、東方は伝奇作品としても評価が高いが、その名に反してバックボーンは日本や大陸系の神話・奇譚だけでなく、西洋の神話や果てはネット発祥の怪談までをも無節操に取り込んでいる。幻想郷には「われわれの世界で忘れ去られたありとあらゆるものが流れ着く場所」という特性があり(非公式だったら、にわか丸出しで申し訳ない)、これはもう根幹の設定の時点で勝ちと言った感がある。これから先に何が起こって誰が登場しようとも問題ないわけだからだ。
であるからして、その二次創作も、シリアスでもギャグでも何をしてもよいし、何もしなくてもよい、そんなあんばいになっているのだろう。本編と同様になにがしかの異変が起こって、主人公勢がそれを解決するのもよい。真剣に能力バトルや陣営間の勢力争いを展開してもよいし、人妖の重厚なドラマや恋愛があってもよいし、ナンセンスなスラップスティックコメディに終始してもよい。パロディやコラボレーションもどんとこい(東方Projectコラボタグ一覧)。キャラクターを借りる形で、ゲームやスポーツやミステリーをやったり、食や文化や学問のうんちくを語ったりするのもよい。はたまた、霊夢が神社の縁側で、蓮子とメリーが大学近くの喫茶店で、だらだら茶ぁしばいてくっちゃべっているだけでもよい。本編のよい意味でのいいかげんさが、同人・二次創作という土壌に恐ろしく相性がよかったのだろう。
他にも、東方があれだけ流行った要因として、原作者が二次創作に対して非常に寛容であること、コンテンツの間口が広くて弾幕シューティング・対戦格闘、能力バトル、キャラクター、神話・伝奇、音楽、女の子の交流(百合)といったもののどれか一つにでも興味があれば参入できること、キャラクターの作り込みがデザイン・伝奇ネタ・専用のスペルやテーマ曲など多方面からされていること、フレーズを強調した音楽がアレンジとグンバツの相性だったこと、作品の最盛期とニコニコ動画などのネット創作コミュニティ最盛期が被っていたこと、何のかんので「かわいい女の子がいっぱい」というのがシンプルに強力無比であることなども挙げられるだろう。しかし、あの自由で無節操な作風でなかったら、同人コンテンツとしての東方は全く違った扱いになっていただろうとも思う。
弾幕シューティングゲームとしての東方
東方の作品性やゲーム性について語っていく。
参考情報として、私の腕前は『紅魔郷』から最新作の『紺珠伝』まで本編をノーマル・エクストラまでクリアできる程度だ。弾幕アクションのほうはいちおうトライしてみたもののさっぱり動かせなかったので、諦めてストーリーだけ把握している。
弾幕シューティングゲームとしての東方の面白さは「反復」の気持ちよさではないかとつねづね思っている。所見ではどう見ても避けられないように思えた弾幕が、「繰り返し」プレイすることによって、抜け道が見つかったりトリックが割れたりして、次第に見切れて避けられるようになる。通常弾の難易度やスペルカードの枚数から、とてもじゃないが倒せない! 無理ゲー! としか思えなかったボスが、安全牌のスペルを増やしたり決めボムを仕込んだりすることで、「段々と」太刀打ちできるようになる。それらがいわゆる「パターン」の構築というやつで、練り上げたパターンでさんざっぱら苦戦させられた弾幕・ボスキャラを打ち破ったときの気持ちよさは、言葉に言い表せない。東方は「今まで出来なかったことが出来るようになる」という遊びの根源的な快感を刺激するゲームデザインをしている。プレイヤーの達成感・してやったり感を盛り立てるのがめっぽう上手いゲーム、と言い換えてもよい。
また、東方の(特にWin三部作に顕著な)特徴の一つである、フレーズと「リフレイン」を強調した音楽も、その「繰り返し」の心地よさをさらに高めていると思う。「ラクトガール ~ 少女密室」のあのフレーズに調子を合わせながら通常弾幕2のレーザーを躱す楽しさ、「広有射怪鳥事 ~ Till When?」のあのフレーズに昂ぶりながら畜趣剣「無為無策の冥罰」を隙間を縫う気持ちよさ、あれは実際にプレイしてもらわないと上手く伝わらないだろう。
こういったゲームデザインにずっぽし合致した演出、あるいはゲーム展開を盛り立てる演出の数々については、ゲームデザイナーからライター、作曲家、プログラマー、総合演出まで務めるZUNの特異性、強みがもろに出ている部分ではないだろうか。
百合ゲーとしての東方
始めに断っておくと、私は東方に限らずある作品が「百合か、百合じゃないか」という議論をする気はさらさらない。ただ、「東方は百合ゲーじゃない!」「百合とか二次創作だけ、原作はこれっぽっちも百合じゃない!」と鼻息も荒く主張する人には、ちょっと聞いてみたいことがある。あんた「夜まで待っても、いいのよ」「大丈夫、生きている間は一緒にいますから」を見たのかと(前者:『紅魔郷』霊夢A装備、後者:『永夜抄』夢幻の紅魔組)。ちゃんと自力でプレイして見たのかと。私は初めて本腰を入れてプレイしたシューティングゲームが東方で、ノーマル・ノーコンティニュークリアを初めて達成したのは『紅魔郷』だったのだが、数えきれないトライ&エラーの先で見た「ねずみの腐ったような嫌な匂いがしますが、ねずみは腐っていません 」「じゃぁ20年分位にしておこう」(前者:魔理沙B装備、後者:霊夢B装備)は、胸に迫るものがあったぞ。
ただし、何のかんの言ったところで、二次創作あっての東方という側面はある。幸運にもシリーズの最盛期をリアルタイムで追っていたわれわれと、ブームも小康状態になった今になって参入する方々では、様々な指標において評価に差が出てくることは想像に難くない。本編でも絡みの多いゆかれいむやレミ霊やマリアリやはともかく、もこけーねやにと雛や勇パルやあやもみやといった字面から受ける印象は全く異なるだろう。
こと東方に関しては、原作と二次創作を切り離して評価するのは詮無いことだと思っている。
『東方Project』の最高傑作は?
この問いは人によって全く異なる答えが返ってくると思う。私はゲーム全体を通した壮快感、歯ごたえ、単純明快さ、反復の心地よさが極まったゲームデザイン、サウンド以外は完ぺきな音楽、キャラクターの異常な存在感、センスがあるんだかないんだかナンセンスなんだかわからないテキストなどを加味して、リブート後の一作目『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』がベストだと思っている。異論は大歓迎。圧倒的な遊びやすさと伝奇要素で『永夜抄』が次点かな。
『紅魔郷』の音楽の何が凄いかって、すべての楽曲が「ここしかない!」という箇所に収まっているのが凄いんだよ。一枚のコンセプトアルバムのように完ぺきな流れが出来ていて、一箇所たりとも入れ替えられない。勇ましくてコミカルな「ほおずきみたいに紅い魂」はこれ以上ない1面道中曲だし、お間抜けな「おてんば恋娘」は2面ボス曲にちょうどいいし、一転してダウナーな「ラクトガール ~ 少女密室」は物語が終盤に差し掛かる4面ボス曲にふさわしいし、激しすぎる「月時計 ~ ルナ・ダイアル」は陣営のナンバー2である5面ボス曲にしか使えないし、壮大な展開の「亡き王女の為のセプテット」は言うまでもない、これが最終6面ボス曲でなかったら何だというのだ。「魔法少女達の百年祭」と「U.N.オーエンは彼女なのか?」のお祭り感も、エキストラモードのハレの雰囲気をこれ以上なく出している。
マイベスト東方
私は熱心な信者でないので人気投票には参加していないが、もし入れるならこんなラインナップである。
□人妖部門
八雲紫(ラスボス・黒幕としての完成度の高さ、強キャラ好き)
藤原妹紅(もこけーねももこすみも好き、『アカイイト』とネタ被り)
マエリベリー・ハーン(ちゅっちゅ)
宇佐見蓮子(ちゅっちゅ)
□音楽部門
ネクロファンタジア(やはりフレーズとリフレインに弱い)
広有射怪鳥事 ~ Till When?
ハルトマンの妖怪少女
パンデモニックプラネット
プラスチックマインド(旧作は未プレイですまぬ、でも好きッ)
赤より紅い夢(タイトル画面曲愛好家)
まとめ
あまりレビューの体裁を成していないが許してやってほしい。弾幕シューティングか神話・伝奇のどちらかに興味があれば絶対に元は取れるので、今からでも遅くない、あのフリーダムでカオスな世界にぜひ触ってみていただきたい。ある要素に釣られて入ったら、別の要素にも興味が出てきてずるずる泥沼にはまる、というのが先人のパターンなので、あなたもそうなるかもしれないでよ。
『アカイイト』『咲-Saki-』『東方Project』の三本立てトークが出来る方を増やしたい今日この頃だった。
上海アリス幻樂団
東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.

【関連記事】
東方Project ノーマル難易度比較 とっぽいとっぽい。
同人コンテンツとしての東方
『東方Project』はZUNの手による、無国籍和風伝奇レトロスペクティブ世界「幻想郷」を舞台にした、弾幕シューティング、弾幕格闘、書籍やCDと言ったマルチジャンル/マルチメディアで展開される作品群の総称である。
東方が史上でも類を見ない規模の同人コンテンツだったことは、誰もが認めるだろう。この作品群があれだけの長期間に渡って隆盛を誇った要因については既に語られ尽くしているが、個人的な意見も述べておく。この項はDG-Lawさんの受け売りがかなり含まれているが、許してほしい。
東方の希有な特徴として、バトルも日常もシリアスもギャグも和風伝奇も西洋ファンタジーも許される風土がある。シリーズを通しての最重要キャラである紫が「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」とのたまっているが、奇しくも東方そのものを言い表していると思う。
まず、このシリーズには明確な目的・ゴールが定まっていない。他の作品・コンテンツで言えば、聖杯戦争を勝ち残るとか、連続猟奇殺人の謎を解くとか、まどかを死守しつつワルプルギスの夜を撃破するとか、そういったものだ。いちおう各作品単位で言うと、神や妖怪が異変を起こして調停者たちがそれを解決する、というフォーマットがあるものの、「異変」の括りが大きすぎて何でもありに近い。これは15弾を重ねる長期シリーズゆえの特性とも言える。物語のベクトルは自由自在・千変万化で、私は近いものとしてテーブルトークRPGを連想した。そして、シリーズとしての明確な終着点、最終回のビジョンは2016年現在を以て提示されていないし、これからもされない可能性が大いにある。
作風もシリアスなのかお遊びなのか、ジャッジが難しい。異変の解決において、ゲームの進行に沿った盛り上がりはドラマチックに演出されるが、終わってみればそれが幻想郷の深刻な危機だった試しはほとんどない。杞憂に終わるどころではない、お騒がせ・ずっこけ・出オチ案件は数知れない。そして弾幕シューティングでも弾幕格闘でも、熾烈な戦闘が繰り広げられはするのだが、スペルカードルールに則ったそれが「弾幕ごっこ」と表現されるのは象徴的だ。私は東方の作風を、ときどきシリアス編やバトル編もやったりする日常ギャグ漫画的、と捉えている。また、原作東方のキャラクターは、わりかし冷淡で皮肉屋、社交性があんまりないとよく言われる。二次創作でのべたべたした描写に慣れていると面食らうこともしばしばある。しかし、原作に情感が全くないかと言われると決してそんなことはなく、キャラクター間の信頼や親愛も描かれている。浪花節なウェットさはないがからっからにドライとも言い切れず、カップリング的においしい描写がふとした折に差し込まれる。
他に作風の自由化に拍車を掛けているものとして、ZUN自らが『三月精』『鈴奈庵』『茨歌仙』といったスピンオフ作品で、幻想郷の日常やどうということもない事件を書いている点も挙げられる。日常系ゆるふわスピンオフの展開自体はある程度の規模のコンテンツでは珍しくないが(『艦これ』も『ガルパン』も『まどマギ』も『ハルヒ』も『咲-Saki-』もやってる)、シリーズの総監督が話を書き、しかもあれだけの量を供給している例はぱっと思いつかない。また、スピンオフ作品群の中でも『秘封倶楽部』の果たしている役割は特筆するべきものだと思う。近未来の日本を舞台に、(異能持ちではあるが)普通の女学生を主人公にして、幻想郷を外から観測するこの作品の存在が、シリーズにさらなる自由度、神秘性と多次元的な奥行きを生んでいることは主張しておきたい。
ときに、東方は伝奇作品としても評価が高いが、その名に反してバックボーンは日本や大陸系の神話・奇譚だけでなく、西洋の神話や果てはネット発祥の怪談までをも無節操に取り込んでいる。幻想郷には「われわれの世界で忘れ去られたありとあらゆるものが流れ着く場所」という特性があり(非公式だったら、にわか丸出しで申し訳ない)、これはもう根幹の設定の時点で勝ちと言った感がある。これから先に何が起こって誰が登場しようとも問題ないわけだからだ。
であるからして、その二次創作も、シリアスでもギャグでも何をしてもよいし、何もしなくてもよい、そんなあんばいになっているのだろう。本編と同様になにがしかの異変が起こって、主人公勢がそれを解決するのもよい。真剣に能力バトルや陣営間の勢力争いを展開してもよいし、人妖の重厚なドラマや恋愛があってもよいし、ナンセンスなスラップスティックコメディに終始してもよい。パロディやコラボレーションもどんとこい(東方Projectコラボタグ一覧)。キャラクターを借りる形で、ゲームやスポーツやミステリーをやったり、食や文化や学問のうんちくを語ったりするのもよい。はたまた、霊夢が神社の縁側で、蓮子とメリーが大学近くの喫茶店で、だらだら茶ぁしばいてくっちゃべっているだけでもよい。本編のよい意味でのいいかげんさが、同人・二次創作という土壌に恐ろしく相性がよかったのだろう。
他にも、東方があれだけ流行った要因として、原作者が二次創作に対して非常に寛容であること、コンテンツの間口が広くて弾幕シューティング・対戦格闘、能力バトル、キャラクター、神話・伝奇、音楽、女の子の交流(百合)といったもののどれか一つにでも興味があれば参入できること、キャラクターの作り込みがデザイン・伝奇ネタ・専用のスペルやテーマ曲など多方面からされていること、フレーズを強調した音楽がアレンジとグンバツの相性だったこと、作品の最盛期とニコニコ動画などのネット創作コミュニティ最盛期が被っていたこと、何のかんので「かわいい女の子がいっぱい」というのがシンプルに強力無比であることなども挙げられるだろう。しかし、あの自由で無節操な作風でなかったら、同人コンテンツとしての東方は全く違った扱いになっていただろうとも思う。
弾幕シューティングゲームとしての東方
東方の作品性やゲーム性について語っていく。
参考情報として、私の腕前は『紅魔郷』から最新作の『紺珠伝』まで本編をノーマル・エクストラまでクリアできる程度だ。弾幕アクションのほうはいちおうトライしてみたもののさっぱり動かせなかったので、諦めてストーリーだけ把握している。
弾幕シューティングゲームとしての東方の面白さは「反復」の気持ちよさではないかとつねづね思っている。所見ではどう見ても避けられないように思えた弾幕が、「繰り返し」プレイすることによって、抜け道が見つかったりトリックが割れたりして、次第に見切れて避けられるようになる。通常弾の難易度やスペルカードの枚数から、とてもじゃないが倒せない! 無理ゲー! としか思えなかったボスが、安全牌のスペルを増やしたり決めボムを仕込んだりすることで、「段々と」太刀打ちできるようになる。それらがいわゆる「パターン」の構築というやつで、練り上げたパターンでさんざっぱら苦戦させられた弾幕・ボスキャラを打ち破ったときの気持ちよさは、言葉に言い表せない。東方は「今まで出来なかったことが出来るようになる」という遊びの根源的な快感を刺激するゲームデザインをしている。プレイヤーの達成感・してやったり感を盛り立てるのがめっぽう上手いゲーム、と言い換えてもよい。
また、東方の(特にWin三部作に顕著な)特徴の一つである、フレーズと「リフレイン」を強調した音楽も、その「繰り返し」の心地よさをさらに高めていると思う。「ラクトガール ~ 少女密室」のあのフレーズに調子を合わせながら通常弾幕2のレーザーを躱す楽しさ、「広有射怪鳥事 ~ Till When?」のあのフレーズに昂ぶりながら畜趣剣「無為無策の冥罰」を隙間を縫う気持ちよさ、あれは実際にプレイしてもらわないと上手く伝わらないだろう。
こういったゲームデザインにずっぽし合致した演出、あるいはゲーム展開を盛り立てる演出の数々については、ゲームデザイナーからライター、作曲家、プログラマー、総合演出まで務めるZUNの特異性、強みがもろに出ている部分ではないだろうか。
百合ゲーとしての東方
始めに断っておくと、私は東方に限らずある作品が「百合か、百合じゃないか」という議論をする気はさらさらない。ただ、「東方は百合ゲーじゃない!」「百合とか二次創作だけ、原作はこれっぽっちも百合じゃない!」と鼻息も荒く主張する人には、ちょっと聞いてみたいことがある。あんた「夜まで待っても、いいのよ」「大丈夫、生きている間は一緒にいますから」を見たのかと(前者:『紅魔郷』霊夢A装備、後者:『永夜抄』夢幻の紅魔組)。ちゃんと自力でプレイして見たのかと。私は初めて本腰を入れてプレイしたシューティングゲームが東方で、ノーマル・ノーコンティニュークリアを初めて達成したのは『紅魔郷』だったのだが、数えきれないトライ&エラーの先で見た「ねずみの腐ったような嫌な匂いがしますが、ねずみは腐っていません 」「じゃぁ20年分位にしておこう」(前者:魔理沙B装備、後者:霊夢B装備)は、胸に迫るものがあったぞ。
ただし、何のかんの言ったところで、二次創作あっての東方という側面はある。幸運にもシリーズの最盛期をリアルタイムで追っていたわれわれと、ブームも小康状態になった今になって参入する方々では、様々な指標において評価に差が出てくることは想像に難くない。本編でも絡みの多いゆかれいむやレミ霊やマリアリやはともかく、もこけーねやにと雛や勇パルやあやもみやといった字面から受ける印象は全く異なるだろう。
こと東方に関しては、原作と二次創作を切り離して評価するのは詮無いことだと思っている。
『東方Project』の最高傑作は?
この問いは人によって全く異なる答えが返ってくると思う。私はゲーム全体を通した壮快感、歯ごたえ、単純明快さ、反復の心地よさが極まったゲームデザイン、サウンド以外は完ぺきな音楽、キャラクターの異常な存在感、センスがあるんだかないんだかナンセンスなんだかわからないテキストなどを加味して、リブート後の一作目『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』がベストだと思っている。異論は大歓迎。圧倒的な遊びやすさと伝奇要素で『永夜抄』が次点かな。
『紅魔郷』の音楽の何が凄いかって、すべての楽曲が「ここしかない!」という箇所に収まっているのが凄いんだよ。一枚のコンセプトアルバムのように完ぺきな流れが出来ていて、一箇所たりとも入れ替えられない。勇ましくてコミカルな「ほおずきみたいに紅い魂」はこれ以上ない1面道中曲だし、お間抜けな「おてんば恋娘」は2面ボス曲にちょうどいいし、一転してダウナーな「ラクトガール ~ 少女密室」は物語が終盤に差し掛かる4面ボス曲にふさわしいし、激しすぎる「月時計 ~ ルナ・ダイアル」は陣営のナンバー2である5面ボス曲にしか使えないし、壮大な展開の「亡き王女の為のセプテット」は言うまでもない、これが最終6面ボス曲でなかったら何だというのだ。「魔法少女達の百年祭」と「U.N.オーエンは彼女なのか?」のお祭り感も、エキストラモードのハレの雰囲気をこれ以上なく出している。
マイベスト東方
私は熱心な信者でないので人気投票には参加していないが、もし入れるならこんなラインナップである。
□人妖部門
八雲紫(ラスボス・黒幕としての完成度の高さ、強キャラ好き)
藤原妹紅(もこけーねももこすみも好き、『アカイイト』とネタ被り)
マエリベリー・ハーン(ちゅっちゅ)
宇佐見蓮子(ちゅっちゅ)
□音楽部門
ネクロファンタジア(やはりフレーズとリフレインに弱い)
広有射怪鳥事 ~ Till When?
ハルトマンの妖怪少女
パンデモニックプラネット
プラスチックマインド(旧作は未プレイですまぬ、でも好きッ)
赤より紅い夢(タイトル画面曲愛好家)
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あまりレビューの体裁を成していないが許してやってほしい。弾幕シューティングか神話・伝奇のどちらかに興味があれば絶対に元は取れるので、今からでも遅くない、あのフリーダムでカオスな世界にぜひ触ってみていただきたい。ある要素に釣られて入ったら、別の要素にも興味が出てきてずるずる泥沼にはまる、というのが先人のパターンなので、あなたもそうなるかもしれないでよ。
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東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.

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