夜、灯す 感想 おばけ!ユーフォニアム 

最近読んだ百合ゲーの中では一番面白かったかもしれない。あのコンセプトアートや古色蒼然としたあらすじから、青春部活動ものとしてぐいぐい読ませてくるなんて、そんなん考慮しとらんよ……。
前述の通り、購入前にまったく予想していなかったのが、筝曲部を舞台にした青春部活動ものとしての比重が非常に高いところ。しかもやたら熱くて完成度が高いという。あらすじにもある通り、主人公である鈴の周りで奇妙な事件が発生し、やがて過去の悲惨な事件や非業の死が明らかになる……というのは間違いなくホラーの文脈なのだが、並行して同等かそれ以上の熱量と分量で、部の仲間とコンクールに向けて練習に打ち込み、合宿で絆を深めあい、ばらばらだった“音”が調和されて仕上がっていくさまが描かれる。人が人と出会って変わっていくところ、本音でぶつかり合って打ち解けるところ、非凡な天才と秀才がそれぞれ苦悩するところ、夢を絶たれた人が再び何かに夢中になるところ、そんな青春ど真ん中の場面が展開されていく。閉鎖的な女学院での無理心中という古めかしいバックグラウンドからけげんな眼差しで読み始めたのだが、思いもよらぬ群像劇のまぶしさに目をやられてしまった。ちなみに、「二人だけの世界」や「無理心中」については、劇中ではむしろ誤った道として語られている。百合作品でやたらフィーチャーされるそれを「間違い」と断じる心意気は大いに買う。
この作品がやたら涙腺をうるませるのは、鈴たちの思慕、共感、奮起といった瑞々しくてポジティブな想いだけでなく、先輩世代、親世代の人間の身につまされる「悔い」や「心残り」も描かれてるからだと思う。ばあさんが格好いい百合ゲーはよい百合ゲーだ。
※若干ネタバレ
音楽と最愛の妹に入れ込むあまりに人の道を踏み外し、妹をも巻き込んでしまった小夜子の悔い。周囲の人に頼ることができずに最悪の決断を下してしまった灯音の悔い。彼女たちを友人として救うことができなかった珠子の悔い。彼女たちが自分らの後悔から次の世代に託す想いがていねいな筆致で描かれていて、その未練が鈴たちの決意と行動で解きほぐされていくのが涙腺に来るんだろうな。他に私が思わずうるっと来たところが、屋上から落ちそうになった真弥を遮二無二助けた有華が、両親に怒られるどころか泣いて褒められたことが判明するシーン。父親が箏にしか興味を占めさず他人を顧みない有華を見て、すこやかに育てることが出来なかったとさめざめ泣いていた場面を思い出し、目の奥が熱くなってしまった。
※ネタバレおわり
立ち絵どころか名前すらないキャラに、ここまで心を動かされるとはね。
部活動や演奏の描写もさまになっていて、しっかり調べものをしたのが伝わってくる。上でも書いたが、過去パートの出来事や人間関係もしっかりと書かれていて、現代パートとも絡み合って奥行きを生んでおり、シナリオゲームとしても一定の水準を超えている。これで、もう少しだけ麗子の主役回から最終章にかけてが性急でなくて、もう少しだけ、画面構成やシステムの安っぽさには目をつぶるとして、“音”“合奏”がエッセンスの作品だけに音回りが作りこまれていたら、誰にでも勧められる名作認定だった。たとえば、部長と累のエピソードはみんなが好きになると思うが、あのさわりのシーンで専用のBGMが流れていたら、あざやかさもひとしおだったように思う。娯楽作品を金額に換算するのは不毛だが、シナリオの分量もお金のかけ方もミドルプライスのそれだと大多数の人が思うだろう。あと、怪異のルーツや未練を紐解いていくフィールドワーク・ホラーとしては物足りないこと、さっぱり怖くないこと、人物の性格から行動原理までちょっとばかし語りすぎ書きすぎなことは断っておく。後者二つはてらいのない青春劇と表裏一体なので、明確な欠点とは言えないが。
夜、灯す | 日本一ソフトウェア
かつてお嬢様学校と呼ばれていた歴史ある学校、
神楽原女学園。
この学校の筝曲部に所属する十六夜 鈴は
夏休み明けのコンクールに向け、仲間と共に
練習に勤しんでいた。
夏休みに入って間もないころ、箏曲の家元の娘、
皇 有華が突然転校してくる。
珍しいタイミングでやってきた転校生。
鈴の夢に出てきた有華そっくりな「お姉さま」。
そして、時を同じくして起きた奇妙な転落事件。
神楽原女学園に隠された闇が動き出す…。
前述の通り、購入前にまったく予想していなかったのが、筝曲部を舞台にした青春部活動ものとしての比重が非常に高いところ。しかもやたら熱くて完成度が高いという。あらすじにもある通り、主人公である鈴の周りで奇妙な事件が発生し、やがて過去の悲惨な事件や非業の死が明らかになる……というのは間違いなくホラーの文脈なのだが、並行して同等かそれ以上の熱量と分量で、部の仲間とコンクールに向けて練習に打ち込み、合宿で絆を深めあい、ばらばらだった“音”が調和されて仕上がっていくさまが描かれる。人が人と出会って変わっていくところ、本音でぶつかり合って打ち解けるところ、非凡な天才と秀才がそれぞれ苦悩するところ、夢を絶たれた人が再び何かに夢中になるところ、そんな青春ど真ん中の場面が展開されていく。閉鎖的な女学院での無理心中という古めかしいバックグラウンドからけげんな眼差しで読み始めたのだが、思いもよらぬ群像劇のまぶしさに目をやられてしまった。ちなみに、「二人だけの世界」や「無理心中」については、劇中ではむしろ誤った道として語られている。百合作品でやたらフィーチャーされるそれを「間違い」と断じる心意気は大いに買う。
貴女は間違えないで。
私のようにならないで――
この作品がやたら涙腺をうるませるのは、鈴たちの思慕、共感、奮起といった瑞々しくてポジティブな想いだけでなく、先輩世代、親世代の人間の身につまされる「悔い」や「心残り」も描かれてるからだと思う。ばあさんが格好いい百合ゲーはよい百合ゲーだ。
※若干ネタバレ
音楽と最愛の妹に入れ込むあまりに人の道を踏み外し、妹をも巻き込んでしまった小夜子の悔い。周囲の人に頼ることができずに最悪の決断を下してしまった灯音の悔い。彼女たちを友人として救うことができなかった珠子の悔い。彼女たちが自分らの後悔から次の世代に託す想いがていねいな筆致で描かれていて、その未練が鈴たちの決意と行動で解きほぐされていくのが涙腺に来るんだろうな。他に私が思わずうるっと来たところが、屋上から落ちそうになった真弥を遮二無二助けた有華が、両親に怒られるどころか泣いて褒められたことが判明するシーン。父親が箏にしか興味を占めさず他人を顧みない有華を見て、すこやかに育てることが出来なかったとさめざめ泣いていた場面を思い出し、目の奥が熱くなってしまった。
※ネタバレおわり
立ち絵どころか名前すらないキャラに、ここまで心を動かされるとはね。
部活動や演奏の描写もさまになっていて、しっかり調べものをしたのが伝わってくる。上でも書いたが、過去パートの出来事や人間関係もしっかりと書かれていて、現代パートとも絡み合って奥行きを生んでおり、シナリオゲームとしても一定の水準を超えている。これで、もう少しだけ麗子の主役回から最終章にかけてが性急でなくて、もう少しだけ、画面構成やシステムの安っぽさには目をつぶるとして、“音”“合奏”がエッセンスの作品だけに音回りが作りこまれていたら、誰にでも勧められる名作認定だった。たとえば、部長と累のエピソードはみんなが好きになると思うが、あのさわりのシーンで専用のBGMが流れていたら、あざやかさもひとしおだったように思う。娯楽作品を金額に換算するのは不毛だが、シナリオの分量もお金のかけ方もミドルプライスのそれだと大多数の人が思うだろう。あと、怪異のルーツや未練を紐解いていくフィールドワーク・ホラーとしては物足りないこと、さっぱり怖くないこと、人物の性格から行動原理までちょっとばかし語りすぎ書きすぎなことは断っておく。後者二つはてらいのない青春劇と表裏一体なので、明確な欠点とは言えないが。
夜、灯す | 日本一ソフトウェア
