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夢現Re:Master 感想 竹内なおゆきの筆力で評価を盛リマスター はてなブックマーク - 夢現Re:Master 感想 竹内なおゆきの筆力で評価を盛リマスター

2019/06/22
百合ゲームレビュー 2
 ゲーム制作会社でがんばる新人の物語ということで勝手に『NEW GAME!』を期待していましたが、頭から尾っぽまでいつもの工画堂スタジオでした。つまり、作風はむちゃくちゃでだいたいつまんなかったです。唯一、竹内なおゆき(『蒼い海のトリスティア』など)担当とおぼしきさきルートだけは熱量を感じました。

 私が『夢現Re:Master』のどこに工画堂スタジオらしさを感じたかというと、とっちらかりっぷりと無駄にひねって読者を混乱させる設定です。『白衣性愛情依存症』ばりに謎の人格憑依や謎の入れ替わりが錯綜するおかげで、脳内の人物相関図はしっちゃかめっちゃかになります。また、あるルートではイメージビデオ・AV業界の闇が、あるルートではとっぴな国家転覆の陰謀が明らかになり(ゲーム制作はどこいった)、しまいにゃあ別のレイヤーのキャラクターまで因果律に介入してきます。ここまで超展開のレパートリーを揃えた超展開ゲーはあんまりないと思います(ぜんぜん、ほめてない)。
 テキストについても、共通パートと各個別ルートで筆致がぜんぜん合っていなくてやばみを感じます。特にななルートのテキストがおっそろしく生硬で読みづらく、悪い意味で一読の価値があります。共通パートの文は『白衣性』シリーズの流れを汲んでゆるゆるなので(このブランドは読者の読解のレベルをどのへんに設定しているんだ?)落差に笑ってしまいました。ここの担当は志水はつみ(『FLOWERS』『クダンノフォークロア』)でFAです。病んだ女からの呪縛の描写が過去作とモロ被りでした。外れていたら、審美眼のないバカと罵ってもらってよいです。
 一方、読み応えを感じたのはさきルートでした。やはり竹内なおゆき(外れていたら謝罪します)はベテランだけあって抜群にうまいですね。テキストがよいのはそれだけでよい。しつこく挿入されるオタクネタとオタクノリがうっおとしくもリズムを生んでいます。ヒロインのさきについては、社会人としてはどうしようもないクズで、不必要に辛辣で、だけど作家としては本物で、実は誰よりも優しくて、おまけに顔が無茶苦茶よいうという、やっかいな愛おしさが狂おしく表現されていたと思います。そんな極めて扱いの難しい女が、鈍くさい女にまめまめしく世話を焼かれつつ要所でケツを叩かれるうちにほだされて、ずるずる関係を持っていく過程が生々しかったです。もう一つのプロットの骨子となる、退路を断って臨む真ルートのリライトについても、物語を書くこと、作品を作り上げることの悲喜こもごもが織り込まれていて読ませました。みなで一心不乱に物作りにいそしむ高揚感や共謀感もよかったです。ところで、私は仕事がうまくいかずに苛立っていたこころが思わずさきに手を挙げるシーンが好きなんです。あそこが印象深いフックになっているのは、事件のショッキングさだけでなく、さきを心配するあいの心が最愛の妹から彼女に移りつつあるのを端的に表現していたり、後のさきに対するこころの理解(和解までは一生行かないんだろう)の布石になっていたりするからではないでしょうか。1エピソードで物語や人物の心情がぐいぐい動くのが感じられて、作劇のレベルの高さを察しました。
 マリーはとっぴもとっぴでいつもの工画堂、ななは思い違いの強引さや類型的なキャラクターが『FLOWERS』の系譜という印象です。グランドルートのこころはフィクションレベルが許容を逸脱していいて、テキストやシナリオがどうという以前の話っすわ。
 向坂氷緒(『あなたを月にさらったら』『白衣性愛情依存症』)か西川真音(『シンフォニック=レイン』)のセンスだと予想しますが、その人の真名が生き方や在り方にまで影響を与えるという劇中作「ニエと魔女と世界の焉わり」の設定が、本編の登場人物にも当てはまっているのはきれいだと思いました。マリーは結婚して(marry)母(Maria)になり、ななは義母にあたらえられた名前(はなこでしたっけ)から脱却してあいを実らせ、さきはみさき(見先)の意志を引き継いだ、と。
 毎度おなじみ、お家芸の鬱エンドは、睡眠薬での心中は想定の範囲内で、精神崩壊が被っていてちょっと物足りなかったです。おっ、と思ったのは幼児退行赤ちゃんプレイぐらいですかね。
 システムについて、いまだにコンフィグでメッセージ送りでのボイスの継続が設定できなかったり、選択肢でバックログが使えなかったりするのは酷いです。劇中で、新人のあいに対してゲームのユーザーインタフェースについて講釈を垂れるシーンがあったのですが、このざまでご高説賜るなと毒づきたくなりました。

 これは『ゆりマス』だけの話ではないし、毎回似たような話を書いていて申し訳ないんですが、無駄にひねった設定や置いてけぼりになるどんでん返しは別にいらないので、一読で読者の腑に落ちるシナリオを書き、各ルートの統率を取って、一本の作品に創り上げてもらいたいです。作風や根本の設定の軸がずれたルートを4本、五本ただ用意したところで、それは単なる寄せ集めでしかありません。

 廉価版を待ってもよいという評価です。

夢現Re:Master
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Author: toppoi.
百合ゲームレビュー他。アカイイト、咲-Saki-、Key・麻枝准、スティーヴン・キングの考察が完成しています。
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コメント(2)

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Re:

とんぼーさん、こんにちは。
ゆりマスターもクダンノフォークロアも、いわゆる名作と呼ばれる部類のシナリオゲームと比較するとかなりしんどいですね。ひとことで言えばいつもの工画堂です。
FATAL TWELVEはここ数年の百合ゲーではいっちゃんおすすめですね。各種ダウンロードサイトかsteamで探してみて下さい。

お前ごときが、はけっこういい評判を聞きますね。漫画版の作画担当は悪魔のリドルの人ですか。
kindleにあるみたいなんで、そのうち読んでみます。

2019/06/30 (Sun) 22:45

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2019/06/29 (Sat) 03:14