「そういう趣味」「そういう関係」「ソッチの世界」「そっちの気」という表現が嫌いだ 

同性同士でじゃれているところに「あんた、ひょっとしてソッチの気もあるんじゃないの~?」と茶々を入れて「違うわ~!」と全力で否定する。女性が“百合属性”の子から「あ~んお姉様~! わたくしの愛を受け取ってくださいまし~!」と迫られて、あるいはムッツリから「その胸、ちょっと揉ませてみぃ~♪」とセクハラされて「うぎゃー! 私にそういう趣味はないわー!」と拒否反応を示す。あらゆるエンターテイメントで見かけるやりとりで、お決まりの“ギャグ”として定着している。
また、同性愛に関する言葉を「そういう」「そっち」「アッチ」と腫れ物のように、おいそれと口にできないように形容し、「趣味」「嗜好」「ケ」「系」と趣味嗜好・性癖扱いする慣習が存在している。驚くことに女同士の恋愛を扱っていて、『百合』を謳っている作品ですらしらっと使われている。
ギャルゲー・エロゲー
「先輩、同性愛ってどう思いますか?」
「え、ええ!?」
「あああ、え、えっと、その、わ、わたし、わたしって!
その、自分がそういう人だっていう自覚とかなくて、別にそう思ってるわけじゃないんですけど!」
「その、やっぱり先輩のこと、好きなんです。先輩、女の人なのに好きなんです! ほんとに!」
(『屋上の百合霊さん』)
「お、女同士なんだよ? もう今さら、それが変だとか思わないけど……。
でも、まわりの人は、そう考えてくれないかも。お父さんやお母さん、比奈のおじさんやおばさんを困らせるかもしれない」
「比奈にだって……、私が恋人だってことで、迷惑かけるかも。比奈が、変な目で見られたら、どうしよう……」
「結奈、別に、同性愛とか百合とか、女の子同士とか、そういうのが嫌いってわけじゃないんだよね?」
(『屋上の百合霊さん』)
「まーアレですよね、ウチは女子校じゃないですけど、男女比だと圧倒的に女子が多いですからねー」
「そーゆーシュミに走る子も、少なくはないですからね」
「考え方が安易すぎますわ、手近の女の子で済ませようなんて、そんな考え方は…」
「いや、そうじゃない………由香利の場合、この学園にやってくる以前から、そういう嗜好を持っていたのさ」
(『紅蓮に染まる銀のロザリオ』)
「この辺りで真琴と抱き合ったのよ」
「……鳴海さん、そういう趣味が!」
「そういう趣味? そういう趣味ってどんな趣味?」
「いや、だから、そのぅ……」
「オメガくぅ~ん?答えなさい? 何を想像してたの?」
「……なんでもないです」
「貴方のスケベな想像は大外れよ」
「なんていうか、落ち込んでる真琴を励ますためにそうしたの」
「そ、そうですか。なるほど。健全だ……」
(『12RIVEN -the Ψcliminal of integral』)
コンシューマーゲーム
「ね、ねぇ。レナ…ちゃん?」
「セリーヌお姉さまぁ、私、前からお姉さまのことが…」
「じょ、冗談でしょ?」
「お姉さまぁ、だ・い・す・き(はぁと)」
「ちょっと、レナ!わたくしにはそういった趣味はありませんのよっ!!」
(『スターオーシャン セカンドストーリー』)
タカシとのキスをきっかけに、陽平は『そっちの世界』へイッてしまった。
(『街』)
昨日、新しいトレーニングマシンが
入荷したんだ。
へえ、見たことのない形ですね。
こう使うのかな・・・。
ああっ!ダメだダメだ!
俺が手取り足取り教えてやる!
(ぐい!)
わっ、乱暴ですよ、コーチ。
・・・・・・・。
あの、コーチ?
ん?
ぁ、いやなんでもない。
(いかん、一瞬あっちの世界に
行ってしまったな。)
(『パワポロクンポケット8』)
なあ三田君。
光山先輩と仲良くなるにはどうしたらいいかなぁ?
ど、どうしたでやんす?
あんなにいじめられてるのに
そんなこと言うなんて変でやんす!
あ、まさかパワポケくん・・・
そういう趣味だったんでやんすね?
ちがうよっ!
(『パワプロクンポケット9』)
漫画
デート… なのかな…///
なんだか… ちょっとドキドキしてしまう…
「私って… そっちの気があったのかな…///」
(『くちびる ためいき さくらいろ』)
「待って、美神センパーイ!」
「大声ではずかしーわね、千穂!」
「だってえーー。
センパイと帰りが一緒なんて
めったにないチャンスですもんーー(はぁと)」
「何のチャンスなのよっ。私はそのケはないわよ」
「あ、そーいう意味じゃなくて、
あこがれてるってゆーかあ、ファンなんですよ(はぁと)」
(『GS美神 極楽大作戦!!』)
「わかった!! わかったから離れろ!
人が見とるやないかっ!!」
「何?」
「彼氏じゃない? 美形ってホラ、そのケが…」
(『GS美神 極楽大作戦!!』)
「ん? あれは…」
「わ!!」
「わァ!!」ビクッ
「彩子」
「なにやってんすか二人とも
柔道部なんかのぞいちゃって!!
変なシュミに走ったとか」
「たわけ」
(『SLAM DUNK スラムダンク』)
「あの…… 千秋先輩は男の人ですヨ?」
「だから何よ? 悪い!?」
「そういうシュミの人だ」
(『のだめカンタービレ』)
小説・ライトノベル
少なくともセックスについては、彼に落ち度はなかった。むしろ欠陥は彼女にあった。自分がレズビアンだとは思わなかったし、そっちのほうの関心はなかった。
(『悪党パーカー 地獄の分け前』)
未玖はすっと顔を赤らめて、
「……なんだか今の言い方、愛の告白みたいだった」
言われて、本当にそうだと気づき、ひなたも顔を真っ赤にする。
「ちっ、違いますよ!? わたしにそんな趣味はありませんからね!?」
「私だってないよ!? お姉ちゃんがベタベタしてくるせいで時々勘違いされちゃうけど!」
二人揃って必死に弁明し合う。
「……くすっ」
「……ふふっ」
それから、二人で笑い合い、仲良くしようねと握手をした。
(『ウィッチマズルカ』)
追いかける気力もなく、智子は荒い息をついた。 妙に胸がドキドキしている。全然 レズのケなど、自分にはない はずなのに……。
( 『ストライクウィッチーズ 弐ノ巻 スオムスいらん子中隊恋する』 )
「あのね、わたしにはそういう趣味はないの。あしからず! ほらもう寝なさい」
しかしハルカは唇を尖らせ、なかなか寝付こうとしない。なおもしつこく智子にじゃれついた。
「ねえねえ、智子少尉はどんな娘が好みなんですか?」
「“娘”ってなによ。わたしはその、ノーマルなの!」
( 『ストライクウィッチーズ 弐ノ巻 スオムスいらん子中隊恋する』 )
「ただのおふざけじゃん」「こんなねたに まじになっちゃって どうするの」と言われるかもしれないけど……。
「趣味だ、嗜好だぁ!? ふざけんな! 『そういう』ってどういうじゃい! 『そっち』ってどっちじゃい! 舐めんなよ!」
とたまに叫びたくなるのは私だけじゃあないはずだ。ためしに書き散らしてみたら、ちょっとすっきりした。
なぜこういった「そういう趣味」に類する表現が問題なのかわからない人は、身近な人の国籍とか、人種とか、生まれとか、信教とか、セクシャリティとか、そういった生と性から切り離せないもの、アイデンティティの根幹に関わるものを、趣味扱いしたり「それ」「そういうの」呼ばわりしたりするところを想像してみるといいよ。それを「たいしたことじゃない」と思うんなら、価値観が違いすぎるな。
「ただのギャグだよ。深い意味なんてないよ。んなマジにならなくても」と言う人もいるが、何の気なしに描ける軽いギャグとして広まってしまっているのがまずいんだよ。人の生と性をぞんざいに扱う言葉を、深い意味を考えずに使っているのがヤバいんだよ。身近な娯楽からの刷り込みって、楽しんで享受するだけにその人の価値観や肌感覚に侮れない影響を及ぼしているよ。じっさい、「そういう」「アッチ」を軽い気持ちで使って、カビの生えた表現もとい価値観の延命へ加担している人は少なくないと思う。
2008/01/30 作成。
2012/04/07 加筆修正。
2023/01/05 引用などを全般的に整理。
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